婚約解消
結婚式まで半年になったある日。
土曜日だった。
康介と約束していないのに、康介が家にやって来たのだ。
真っ先に出迎えたのは梓だった。
玄関で二人が見つめ合ったのを私は見ていなかった。
両親も出迎えていた。
その時の私は、母方頼まれたパンを買いに行っていた。
家に帰ると玄関に革靴が一足、綺麗に揃えて置いてある。
見慣れた革靴だった。
「康ちゃん!」と私は笑顔でリビングに入った。
「康ちゃん! 来たの。」
「………うん………。」
「あ、お母さん、頼まれたパン買って来たよ。」
「台所へ置いて来て。」
「は~~い。」
キッチンへ行きパンを置いてから、私は洗面所で顔を見た。
髪に櫛を通した。
⦅これでいいわ。⦆そう思って、リビングへ行った。
リビングでは康介が緊張している様子で顔色も悪いように見えた。
「康ちゃん? どこか具合が悪いの?」
「だ…大丈夫。」
「そう?」
「杏、康介君から話があるそうだ。」
「話? 何?」
意を決したように康介が私の方を向いた。
「杏……婚約を解消して欲しい。」
「婚約……解消……?」
「うん。婚約を解消してくれ。」
「どうして? 私、何処が悪いの? 教えて、治すから。」
「無理だ。」
「………無理………。」
「康介さん、ハッキリ言ってやりなさい。
ハッキリ言わないと、この子は分からないから……。」
「何? お母さん、何のこと?」
「康介君!」
「杏……僕は……君より梓ちゃんが好きになった。
愛してるんだ。梓ちゃんを………。
始めた会った時から心惹かれて……。
駄目だと思いながら、惹かれていった。
ごめん、杏。婚約を解消してくれ。」
「……梓と……結婚するの?」
「それは……。」
「お姉ちゃん、ごめんなさい。
お姉ちゃんの婚約者のなのに、私、好きになったの。
もう止められないの。」
「杏、お前は姉なんだ。妹に譲りなさい。」
「そうよ、梓はね、杏と違って、これまで我慢して来たのよ。
だから、譲ってあげなさい。お姉ちゃんでしょう。」
私は涙が止まらなかった。
泣いているのに誰も気にも掛けなかった。
「そうだわ、康介さん。
式場、キャンセルは勿体ないわ。
この二人は姉と妹でサイズも変わらないから、ね。
そのまま式場も新婚旅行も……どうかしら?」
「それがいい。そうしてくれないか? 康介君。」
「私、お姉ちゃんのウエディングドレス、素敵だと思ってたの。」
「新居は、この家でどうだ?
梓は身体が弱い。親と同居なら安心だからな。
頼むよ、康介君。」
「……それは……僕も長男ですし、親にも話してからでないと……。」
「それはそうだ。」
もう私は空気のようだった。
この4人にとって私と言う人間は存在しないも同然だった。
一人康介だけが時々私に視線を向けていたことを私は気付かなかった。




