プロポーズ
木元康介の挨拶の際に簡単な自己紹介をした。
「僕の名前の康介は、あの北島康介さんの康介です。
親が北島康介さんの大ファンでして……
息子にも水泳をして欲しいと願い、名付けたそうです。
ただ、僕は親の期待を大きく裏切りました。
水泳選手には成れずに、今、こうして会社員になりました。」
その挨拶がエリートらしくなさそうで一般の社員には受けた。
そして、実際にエリートらしくない人柄だった。
偉そうにしない、人当たりが良い、大学院卒なのに宴会部長を率先してする。
そう彼は宴会で大活躍するのだ。
相棒役になった同僚とその場で少し打ち合わせらしきことをしただけなのに……。
同僚が歌う。
「♪おおきな やま~を ひとまたぎ キングぅコングがやって来る♪」
すると、木元康介はキングコングの役をして、屈んだ同僚を跨ぐ。
その歌が終わるまでに宴会は大爆笑になるのだ。
2年間しか支社には居ないエリート。
2年後には本社に戻り、その時には役職が付く。
それが決まっている彼、木元康介が私の目には眩しく映った。
**********
半年が過ぎた頃、地元の夏祭りに木元康介が私を誘った。
私は係の皆と一緒に行くものだと思い込んでいた。
「分かりました。じゃあ、残業しないようにすればいいですね。」
「うん……駅の改札で待ち合わせよう。」
「はい。」
残業せずに駅に向かうと、まだ彼は来ていなかった。
暫く待つと、走って来た彼を見つけた。
息を切らして私の所へやって来た。
「ごめん、待ったよね。」
「いいえ、そんなに待ってません。
あの……他の人たちがまだなんです。」
「……来ないよ。」
「えっ?」
「僕が誘ったのは、君だけだから……迷惑だった?」
「め…迷惑だなんて……思ってません。」
「本当に?」
「本当です。」
「良かったぁ~、ありがとう。」
「い……いいえ………。」
「行こうか。」
「はい。」
隣り合って話しながらお祭りを楽しんだ。
この日を境に私と木元康介は付き合った。
そして婚約したのだ。
私の二度目の恋は実りそうに思った。
あの日までは………。
**********
そう、あの日までは私は幸せの最中だった。
両親も康介との恋を喜んでくれた。
家に挨拶に来た康介を父も母も嬉しそうに迎えてくれた。
産まれて初めて私は親から見放されていないと思えた瞬間だった。
「妹の梓です。」
「妹さん……梓……可愛い名前だね。」
梓の頬が赤く染まっていく。
私は急に不安になった。
康介を駅まで送って行く時に私は不安が募り聞いてしまった。
「康ちゃん、あの……もし他の誰かを好きになったら……。
直ぐに言ってね。」
「どうして、そんなことを言うんだ?」
「私より素敵な人はいっぱい居るわ。」
「そんなこと考えないでくれよ。
これから式場、新婚旅行先……決めること一杯あるよ。」
「うん……そうね。」
「そうだよ、何を心配してるのやら……。
あ……婚約の記念には何がいい?」
「何でも……康ちゃんは何がいいの?」
「何でもいいよ。」
その次の日、私は康介の為に財布とカードケースとキーホルダーを買った。
同じブランドのシリーズの中から選んだ財布とカードケースとキーホルダーである。
同じ革で出来ており同じデザインである。
康介が好きな青色がワンポイントで入っている。
私はラッピングして貰ったその記念の品を康介に渡す日を楽しみにしていた。
そして、その日、康介は凄く喜んで受け取ってくれた。
彼からはシルバーのブレスレットを貰った。
私は嬉し過ぎて泣いてしまった。
「杏、これくらいで泣かないでよ。
これから、二人でいっぱい記念の日を作ろう。
一番大切な記念日はもう決まったしね。
式場も新婚旅行も新居も決まったから、もう安心だろう。」
「うん……康ちゃん。」
「何?」
「ありがとう。」
「何だよ。そんな、他人行儀な。」
この幸せが永遠に続くと、この時の私は思っていた。




