これからのこと
私は悩んだ。
そして、怖かった。
このまま康稀を騙し続けることが堪らなく恐ろしく思った。
いつか本当のことを話さないといけなくなる。
その時、どれほど康稀を苦しめることになるのか……康稀が悲しむ姿を見たくなかった。
加納家と木元家で交互に泊まることを、私は悩んだままで返事もしていないし、真由子に相談すらしていなかった。
眠れない日々を送った。
食べられなくなっていった。
私の様子は、可笑しくなっていたのだろう。
「杏……精神科の受診日は何時?」
「えっ?」
「聞いてなかったの? 精神科の受診日、何時?」
「あ………えっと、来週の水曜日。」
「そう、私も行くわ。」
「えっ? どうして?」
「先生にお伺いしたいのよ。
それと……何か悩んでる?」
「えっ?」
「悩んでいますって顔してるわよ。」
「えええええ……………。」
「何かあった? ひろちゃんのことで………。」
「………………………。」
「ひろちゃんのことでしょう。 杏が悩むのは……。
何があった? あの後から体調も悪そうだし……。」
「…………康稀が………一人で電車に乗った日………。」
「そうね、その日、何があったの?
私は聞いてないのよ。
ひろちゃんがお父さんに会いに行ったとだけしか、聞いてないの。」
「あの………ね、康稀がお父さんと一緒に住みたいらしいの。」
「そうでしょうね。」
「えっ?」
「気付いてなかったんじゃないわよね。
気付いてないと思い込もうとしてたのよね。
そういう自分の気持ちにも蓋をしてたでしょう。」
「お養母さん……。」
「さぁ、何があったの?」
「康稀が頼んだのよ。
お父さんとお母さん……
お祖父ちゃんとお祖母ちゃん、そしてばぁばと一緒に住みたいって………。
それで、木元のおじ様が、交互にお泊りすることを提案されたの。」
「返事はしたの?」
「ううん、まだ…………してないの。」
「いいんじゃないの。それしか叶えられないでしょう。」
「………………そうよね。」
「それで、何を悩んでるの?」
「…………騙してるの、康稀を………。
事実を知ったら、あの子、どうなるか………。
それが、怖いの。」
「そうね………本当に怖いわね。
これから先のこと、考えないといけないわね。」
「うん。」
「木元さんとも話し合わないといけないわよ。
そして、多くの日とも知恵を借りるのも必要よ。」
「……………うん。」
「何度も話し合いを重ねるのよ。
そしてBESTは無理でもBETTERを目指すの。
知恵をお借りしましょう。
早速、木元さんと木元さんのご両親に来て頂いて……。
今後のことを話し合うのよ。」
「………うん、分かったわ。」
「こちらから連絡を取るから、安心して。」
「ありがとう。」
そして、早速、真由子は康介に連絡した。
康介と康介の両親との話し合いの場を持つことになった。
場所は、どちらの家でもなかった。
私の勤務先の店から近い日本料理店に決まった。
日時の調整と場所を決めたのは真由子だった。
私の勤務先から近い店にしたのは、何故だか教えて貰えなかった。
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話し合いの日は、平日。
そして、時間は昼休みの休憩の時間。
私は店長に無理を言って2時間の休みを取らせて貰った。
「平日だから大丈夫よ。安心してね。」と私を送り出してくれた店長。
社長の妹の店長は、私が働き始めてから、ずっと私が子育てしやすいように考えてくれている。
私は周囲に恵まれていると改めて感謝した。
ずっと支えてくれている養母・真由子、そして働く場を与えてくれた社長夫婦とその妹の店長。
私が抑うつ状態になった康介との別れから、支えてくれた友人達。
今も精神科の受診を止めていないが、随分、楽になっている。
妊娠していても飲める抗うつ薬を私は飲んでいた。
今は睡眠導入剤を処方して貰っている。
あの頃は……康介と別れて間もない頃は、空白の時間があった。
それが無くなったのも、薬だけのお陰ではない。
支えてくれた周囲の人のお陰なのだ。
私は心から深謝している。
精神科を受診したお陰で、私は親の虐待を受けていたことを知った。
医師から「程度の差があっても、トラウマが残れば、それは虐待です。貴女は親御さんからの虐待を受けたのです。」と教えて貰ったからだった。
――私は悪くなかったのだ――そう教えて貰えたのだ。
そして、その日がやって来た。




