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虹の彼方  作者: yukko
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康稀の大冒険①

あの休日参観から康稀は康介と一緒に居る時間を増やして欲しいと願った。

康稀は「お父さん、遠くのお仕事、いつ終わるの? 僕、早く帰って来て欲しいの。駄目? 僕の我儘?」と康介に聞いた。

たった一度だったが、それは康介の心を刺した言葉だった。深く刺した言葉だったのだ。

どう言葉を返したら良いのか、康介には分からなかった。

「ごめんな、ひろくん。お父さんのお仕事は、まだまだ続くんだ。だから、ごめんな。」としか答えられなかった。

康稀にとって両親と暮らすことが今の最大の願いだったのだ。

康介はその会話のことを誰にも話せなかった。

杏と暮らすなど出来ない。

杏が許すはずが無いのだ。

あの別れの日の酷い状況を招いたのは康介だった。

杏は被害者で、康介は加害者。

それは今後も、永遠に変わるはずが無いのだ。

誰にも言わないまま月日だけが過ぎていった。


**********


休日参観から2年が経ち、康稀は小学3年生になった。

康稀はある日、学校の帰りにリュックを背負って家を出た。

ポケットの中には、メモが入っている。

そのメモを康稀はポケットの中で大切に持っている。


⦅ばぁば、今、お仕事してる。お母さんはお店に行ってる。

 出よう。今から行くんだ。

 お父さんの家に……。住所も電話番号もメモ見たら分かる。

 前に電車で行ったもん。

 だから行けるんだ。僕は一人でも行けるんだ。

 お父さんに会って、もう一回お願いするんだ!⦆


康稀はまだ小学3年生なのに家を出た。

康稀は不思議だった。


⦅どうして苗字が違うの?

 僕とお母さんと、それから、ばぁばは加納なのに………。

 お父さんとお祖父ちゃん、お祖母ちゃんは、木元。

 離婚したのかな?

 離婚したら苗字が違うって、しょうくん、言ってた。

 だから、一緒に住めないのかな?⦆


このことを康稀は母親に聞けなかった。

何故だか分からないが、康稀は一緒に住んでいる私にも真由子には話せなかったのだ。

駅までは順調だった。

何度か康介の家に康稀は電車で行ったことがあるからだ。

迎えに来たのが祖母の時は電車だった。

それで、覚えたのだ。

左のポケットには小銭入れが入っている。

首にはキッズスマホをぶら下げている。

分からなくなったら電話を架けるつもりだ。

康稀は⦅絶対に大丈夫!⦆と思っている。

完璧だと思っている。


家でリモート会議をしていた真由子が、終了してから部屋を出た。

部屋を出て、リビングか康稀の部屋に居るはずの康稀が居ない。


「ひろちゃん? 

 何処に居るの? ひろちゃん?

 遊びに行ったのかしら?

 でも……必ず『行ってきます。』って言ってくれるのに……。

 仕事の邪魔したら駄目って思ったのかしら?

 取り敢えず、お友達のお母さんに聞いて……。」


何人か電話したが、康稀と約束していないことを教えて貰えただけだった。

康稀は家に居ない。

行き先も告げずに居なくなった。

真由子は顔面が蒼白になった。

急いで、近所の公園に向かった。

学校に忘れ物を取りに戻ったのかもしれないと思い、学校の担任教師に電話をした。

だが、居なかった。

真由子は私に連絡した。


「ひろちゃんが居なくなったの……。」


私は全身を駆け巡っているはずの血が凍り付いたかのように、身体が冷えていった。

顔色が真っ青になって、心配した店長(社長の妹)に「どうしたの?」と聞かれた。

その時初めて私は声が出ないのかと思うほど、言葉が出なかった。

やっと絞るように出た声で「ひろちゃんが……居なくなったの……。」と告げた。

店長は急いで警察に電話するよう私を促した。

私は警察に電話した。


「小学3年生の息子が家から居なくなりました。」


私は息も出来ないほどの恐怖に包まれた。

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