休日参観②
休日参観の日、私は有給休暇を取得した。
康稀が何度も強請った。
「お父さんとお母さんと一緒に行く!
なんで、一緒に行けないの?
お母さん、お願いだから、お父さんにお仕事休んで!って言って。
僕、三人で行きたい。
ねぇ、駄目? お母さん。」
真由子が横から口を挟んだ。
「そうよね、一緒がいいわよね。
そうだ! ばぁばからお父さんにお話しするわ。
だから、安心して、ね。いい? ひろちゃん。」
「うん! いいよ。絶対にお父さんにお話ししてね。」
「了解しました!」
目を爛々と輝かせている康稀を見ていると胸が苦しくなる。
どんなに両親が揃った家庭を康稀が望んでいるのかが分かるからだ。
「杏。」
「うん?」
「木元さんにご両親と一緒に前日から来て貰うわよ。」
「前日から? どうして?」
「ひろちゃんが望んでいるからよ。
お父さんと一緒に居たいって……。」
「あの子……そんなこと言ったの?」
「ええ、もう随分前からね。
土曜日にしか会えない父親が………恋しいのよ。
あの子は毎日この家に帰って来て欲しいって願ってるのよ。
部屋はあるから、客間に泊まって頂きましょう。」
「…………………。」
「杏には自分を大切にして欲しい、って思ってるわ。
でもね、大人と子どもを比較してしまうのよ。
何も無ければ、今頃、ひろちゃんは両親と暮らしていたはずよ。
それが、色々あったもんだから……離れて暮らしてる。
ハードルは一つ無くなったわ。梓っていうハードルは……。
次のハードルは、杏の心。
でも、今回だけはゴメンなさい。
ひろちゃんを優先してあげて……お願い。」
「お養母さん……。」
私は康稀の為と言われたら反対出来ない。
心の奥底に残っている恋の残り火に火を点けないように気をつけて過ごさないといけない。
出来るかどうかよりも、しないといけないのだ。
「分かったわ………。」
「私から木元さんには連絡するからね。」
「うん……お願いします。」
真由子は康介の電話した。
康介は驚いた。。
そして、「ありがとうございます。」と言った。
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休日参観の前日に木元康介と両親は、康介の車でやって来た。
康介と話すのは、入学祝のことで話して以来だ。
私は緊張して、康介を迎えた。
顔を合わせたのも随分と前だった。
「真由子さん、杏さん。今日はありがとう。」
「本当に嬉しいですわ。」
「いえいえ、ひろちゃんのお祖父様とお祖母様ですもの。
さぁさ、中へお入りください。」
「おじいちゃん! おばあちゃん!」
「ひろくん!」
「ひろくん……大きくなって……。」
「ええ―――っ! 大きくなってないよ。」
「お前、先週会ったじゃないか。」
「そうですね、うふふっ……。」
「おじいちゃん、おばあちゃん、こっちだよ。」
「はいはい。」
「連れてってくれるの?」
「うん!」
「ありがとうね、ひろくん。」
「お父さんも! 早くぅ~~!」
「うん、お邪魔致します。」
私の横を通る時、康介が私を見て言った。
「杏さん、ありがとう。」
「…………いいえ……。」
私は何と言ったらよいかさえ分からなかった。
康稀は嬉しくて大興奮している。
祖父母にも真由子にも「明日、来てね。」と指切りまでしていた。
そして、その夜は父親に…肩車をして貰って浴室へ向かった。
父親と「男同士」のお風呂に入るのだと言って嬉しそうだった。
康介は康稀の部屋で寝た。
朝起きた康稀が父親が家に居ることを喜んだ。
朝から康介の傍を離れない康稀。
康稀に優しく接する康介。
その姿を見て私は康介が康稀の父親なのだと改めて思った。
それも【良い父親】である。
**********
いよいよ休日参観当日の朝である。
康稀は「お父さん、手を繋いで!」と甘えていた。
康稀が康介と手を繋いで学校へ行くことなど、思いも寄らなかった。
暫く歩いた康稀が後ろを振り向いて「お母さんも手を繋いでよ。」と言った。
私は少し躊躇したが、康稀の右手と繋いだ。
康稀は左手に父親、右手に母親。
両親に挟まれて手を繋いで貰ったのは、康稀にとって初めてのことだった。
嬉しそうに満面の笑みで、取り留めなく話していた。
その姿を後ろから付いて来ていた真由子と康介の両親が見ていた。
康介の母親などは涙を禁じえず、ハンカチで頬を流れる涙を拭いていた。
小学校での初めての休日参観の授業は【国語】だった。
教室の後ろで康介と私は康稀を見ている。
康介の両親と真由子は廊下から窓を通して康稀を見ている。
康稀は大張り切りで教師の全ての質問に手を挙げている。
教師に当てられて、答えた時、正解だった。
康稀は得意げに後ろで見ている康介に向かって笑みを漏らした。
私はほんの少しの嫉妬を康介に感じた。そして、康稀にも……。
参観が終わって、康稀は嬉しそうに走って私達の所へやって来た。
「お父さん、お母さん、僕、答えられたよ!」
皆に「偉いね。」「良かったよ。」「頑張ったね。」と褒めて貰えて大変嬉しそうだった。
康稀が待ち望んだとおりの両親が揃った休日参観は終わった。
その日も康稀が寝付くまで康介は傍に居た。
康介は寝付いた康稀の額に優しい口付けをした。
そして、康介と康介の両親は帰って行った。
「二日間、僕にとって……僕の両親にとって夢のような時間でした。
こんな時間を与えて下さって、心から感謝しています。
ありがとうございました。」
その言葉を残して……。
車を見送った私は、寂しいと思った。
そして、その想いを全力で否定した。
――もう戻れない――という事実は変わらないのだ。




