哀しい嘘
夜は夕食を外で食べた後、自宅に帰り、入浴した。
康稀は康介と一緒に入浴したがった。
初めて会った父親なのに、康稀はもう既に父親と認めていた。
初めて会った日に、初めて父と息子がお風呂に入ったのだ。
「お父ちゃん、もうずっと居る?」
「うん?」
「もう僕を置いて行かない?」
「ひろちゃん、お父さんはね。遠くにお仕事に行ってるの。
だからね、土曜日にしか会えないのよ。」
「………………………………。」
「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんは、何時でも会いに来れるよ。」
「………うん、分かった。会いに来てね。」
「必ず!」
「康稀くんに会いたいから……必ず!」
その日、康稀は燥ぎ過ぎたのか………早く寝た。
でも、寝る時、一人は嫌がった。
「お父ちゃん、本を読んで。」
「読むよ。どの本?」
「あのね……。」
康介が本を読みだすと、直ぐにスヤスヤと寝息を立てた。
康稀が寝た後、康介と康介の両親、そして真由子と私の5人で今後について話し合った。
「先ず、毎週土曜日に木元さんが会いに来る、で宜しいのですね。」
「はい。」
「あの……今後、可能でございましたら………。
うちに康稀くんをお泊りさせて頂けませんか?
無理なお願いだと思っていますが………。
今までの成長を見守れない祖母でございました。
それは、息子のせいですので、全てこちらが悪いのは分かっております。
ただ、私どもにとりまして、康稀くんは可愛い孫。
これから、康稀くんが望むならお泊りを……。
一度、お考え下さいませ。」
「私からもお願いします。
妻と私の我儘だと分かっておりますが……。
後悔も大きく……これから一緒に過ごす時間を頂戴したいのです。
どうかお考え下さい。」
「杏……どうする?」
「考えさせて下さい。」
「ありがとう。」
「お願い致します。」
「康介さんは何かありますか?」
「……僕は………僕は……謝るだけです。
………杏……本当に申し訳ない事をした。
謝っても許せないことは分かっている。
でも……謝らせて下さい。済みませんでした。」
「………………………。」
「それから、康稀くんを産んでくれて、ありがとう。
あんなにいい子に育ててくれてありがとう。
こんな機会を与えてくれて……本当にありがとう。
今日は嬉しかった。
康稀くんの可愛い手……あの暖かさ……ありがとう。」
「………………………………。」
「杏、何かある?」
「私は………私は……木元康介さんとは出来れば会いたくありません。」
「!」
「でも……康稀が望むなら会います。
それから……あの子が喜んでいました。
…………ありがとうございました。
それだけです。」
「全ては康稀の為に、よね。」
「ええ、そうです。」
木元康介と両親は顔を上げられなかった。
頭を深く下げて私の家から帰って行った。
翌朝、康稀が父親を捜したが、「お仕事に行った。」と伝えると、悲し気に「行ってらっしゃい、言えなかった。」と言った。
その言葉が私の心に深く突き刺さった。
私が吐いた哀しい嘘。
これから幾度重ねねばならないのか……。




