家族
康稀は終始嬉しそうだった。
「お父ちゃん」の隣を歩きたくても勇気が無いようだった。
「お父ちゃん」に話し掛けられずに、私や真由子に話し掛ける。
でも、その内容は「お父ちゃん」にしか答えられないことだった。
「お祖父ちゃん」「お祖母ちゃん」に話し掛けられると恥ずかしそうに私の後ろに隠れながら答えていた。
康稀は色々な乗り物に乗りたがった。
「お父ちゃん」と乗りたいのに、そう言えなかった。
真由子が助け舟を出した。
「ひろちゃん、お父さんと一緒に乗って貰ったら?」
「…………いいの?」
「いいですよね。」
「勿論! 康稀くん、僕と乗ってくれるかな?」
「うん!」
真由子が康介に頼んだ。
「お父さん、ひろちゃんの手を繋いでやって下さい。
迷子にならないように! お願いしますね。」
「あっ! はい!」
その時、初めて康介が躊躇いがちに康稀に手を差し出した。
「手を繋ごうね。」
「……うん。」
康稀も躊躇いがちに差し出された康介の手に自分の手を重ねた。
康介の大きな手が康稀の可愛い小さな手を優しく包んだ。
康稀の嬉しそうな様子が、その後姿からも見て取れた。
「叔母ちゃん、ありがとう。」
「うん? 何が?」
「うふふっ……何もしてない振りするの得意よね。」
ふと、康稀が振り返った。
「ひろちゃん、どうしたの?」
「お母ちゃん、あのね………おじいちゃん、おばあちゃんは?」
「康稀ちゃん………。」
「行ってきてあげて下さい。」
「杏さん……ありがとう。」
「ありがとうございます。行ってきます。」
「お母ちゃん、ばぁば……遅いよ。」
「お母さんは休んどくわ。」
「ばぁばも休んでるからね。」
「………じゃあ、休んでて!」
「行ってらっしゃい。」
「行ってきまぁ~~~す。」
今、康稀は、康稀の家族に囲まれている。
やっと家族に成れたのだ。
康稀にとって嬉しい時間を、楽しい時間を過ごさせてやりたいと待っている私と真由子は、⦅良かった。⦆と思った。
乗り物で楽しい時間を過ごしていると昼食の時間になった。
皆でご飯を食べた。
ご飯を食べている時、真由子が康稀の成長について話した。
「ひろちゃんが1歳の時でした。
生まれて初めて人差し指を立てて『ひとぉつ』って言えたんですね。
嬉しかったんでしょうね。
私と杏、それから杏が働いているお花屋さんの社長さん夫妻と妹さん。
皆の輪の中に入って、一人一人に見せて回ったんです。
人差し指を立てて『ひとぉつ』って………。
もう可愛すぎて……みんな笑顔でね。」
「僕、知らないよ。」
「それはそうよ。1歳の時のことなんて誰も覚えていないのよ。」
「ひろちゃんが可愛かったって話よ。」
「僕、可愛いは嫌!」
「じゃあ、なんて言えばいいの?」
「カッコいい!」
「4歳でも男なのね。」
「そうだよ。僕、男だよ。女じゃないもん。
社長さんと男同士だもん!」
「社長さん?」
「うん! お母ちゃんのお店の社長さん!
僕と男同士でお風呂に入ったりするんだ。」
「そっか……今度、僕とも男同士でお風呂に入ってくれるかな?」
「…………うん、いいよ。」
「じゃあ、私とも入ってくれるかな?」
「………おじいちゃんと?」
「駄目かな? 私も男同士で入って貰えたら嬉しいな。」
「……うん、いいよ。 今日、入る?」
「今日?」
「うん! お父ちゃん……と、おじいちゃん、と僕。」
「3人で入るの?」
「うん!」
「それは……うちのお風呂、そんなに広かったっけ?」
「ばぁば……駄目?」
「大人一人と、ひろちゃんの2人でないと……狭いわよ。」
「そっか……じゃあ………今日は……おとうちゃん。」
「僕と入ってくれる?」
「うん!」
私は少し頭が痛くなった。
康介と一緒の時間は短いほど良かった。
それが、夜の自宅まで一緒とは………だが、康稀の笑顔を見ていると、そんな私の想いは我儘だと思った。
何よりも康稀の心を優先すべきだと思ったのだ。




