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虹の彼方  作者: yukko
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23/43

認知

私は悩んだ。

悩みぬいて、考え抜いて、漸(ようや)く心を決めた。

息子・康稀(ひろき)のことを木元康介に伝えて、認知して貰うと決めたのだ。

会うのは躊躇われた。

まだ、私の心はあの日のことを完璧に乗り越えてはいない。

会った時、泣いてしまうかもしれない。

もう涙を流したくはなかった。

私は康介に会わずに真由子に話を進めて貰おうと思った。

康稀(ひろき)の為に……父親の欄に【木元康介】の名を入れて欲しい。

万が一、私の身に何かあった時に、康稀(ひろき)の為に康介が支えてくれることを祈りながら、私は真由子に話した。


「叔母ちゃん、康稀(ひろき)を木元康介さんに認知して欲しい。」


その一言で真由子が直ぐに動いてくれた。

「任せて!」と一言。

頼りがいがある叔母……いいや、今や、お養母さん。

でも、どうしても私は「お養母(かあ)さん」と呼べない。

いつか、何時の日にか、私は「お養母(かあ)さん」と呼べるようになりたいと思っている。


**********


私の願いを叶える為に、真由子は康介に連絡を取った。

真由子は梓の葬儀の際に電話番号を聞いていた。

この日の為に聞いたのだ。

最初から、杏が出産する決めた日から、真由子は「康介に認知させる」と決めていた。

ただ、私の心が頑なだと分かっていた。

その心が解ける日を待っていたのだ。


「木元さん、加納真由子です。お久し振りです。」

「あ……お久し振りです。義叔母さん、その後お変わりなくお過ごしでしたか?」

「ええ、ありがとうございます。

 木元さん、梓のことで大変でしたね。

 少しは落ち着かれました?

 役所などの手続きとか……落ち着かれました?」

「あぁ……はい、全て終えました。」

「大変ですものね。私も経験者なので……。」

「経験者……何方かお亡くなりに?……あっ! お義祖父さん!」

「父や母も……そして死産でしたので子ども……その後、夫を失いました。」

「えっ?…………済みません、知りませんでした。」

「いいえ、気になさらないで下さいね。」

「ありがとうございます………あの………。」

「はい?」

「あの………義叔母さん………杏………のこと……知っておられますか?」

「杏?」

「はい………あんな目に遭わせた僕が……その………杏のことを……。

 気になってるっていうのは許されないと分かっています。

 そんな資格はありません。

 でも、ずっと気になってました。

 元気で居るのか……退職して家も出て……どんな暮らしをしているのか……。

 でも、誰にも聞けませんでした。

 聞く資格も無いって思っています。

 でも、元気で暮らしてくれていたら……いいなぁ……と………。

 ……幸せになってくれていたら……と思っていました。

 だから、義叔母さんがご存知だったら、と思いました。」

「木元さん、杏は元気です。」

「そうですか! 良かった………。」

「私は、杏のことで木元さんにお話したいことがあります。

 それで、お電話させて頂きました。」

「……杏のこと……ですか?」

「はい、お電話では話せません。一度お目に掛かりたいのです。

 如何でしょうか?」

「僕が聞いても宜しいのですか?」

「貴方が聞かないといけないことです。」

「……僕が聞く必要があるんですね。」

「ええ。」

「お会いします。出来るだけ早く。」

「分かりました。私は明日にでも、と思っています。

 如何ですか?」

「はい、明日で結構です。」


真由子は康介と会う時間を決めた。


**********


真由子が康介に会う日。

仕事終わりに会うので、二人の勤務先の中間点に近い所に駅の改札で待ち合わせた。

残業が入ったら、SMS で知らせると決めていた。

真由子も康介も残業は無かった。

待ち合わせの場所で待ち合わせの時間に二人とも着いた。


「木元さん。」

「義叔母さん、お待たせしました?」

「ううん、今来た所……って、まるで漫画か何かの台詞みたいね。」

「そうですか?」

「あっ……そうね、これは女性が読む恋愛漫画だわ。」

「義叔母さんも読まれるのですか?」

「うふふっ、私にも若い頃があったのよ。」

「失礼しました。」

「いいえ、いいのよ。

 さてと、落ち着いて話がしたいから、静かそうな店がいいわね。」

「はい。」


康介は真由子に「杏と……会ったりしていますか?」と聞いた。

真由子は「一緒に住んでるのよ。あの日からずっとね。」と答えた。

康介が「そうですか……良かった……。」と安堵の声を洩らした。

それは心からの安堵の声のように真由子には聞こえた。

駅から近くに落ち着いたカフェがあった。

そこに入った。

席に着くと直ぐに真由子は本題を話し始めた。


「さてっと、お話ししたいことです。

 これは、あの日、貴方が杏を捨てた日の翌々日に私が話したいと思ったのね。

 でも、その時は杏は貴方に知られたくなかったの。

 先ず、直ぐに話せなかったのは杏の心を一番大切にしたからなのよ。

 それに、その時の貴方は梓との結婚式が待ってたから話せなかったのよ。」

「あの……杏に何があったんですか?」

「杏は貴方に婚約解消を告げられた時には妊娠してたのよ。」

「え……………………妊娠?」

「ええ、貴方に伝えても、貴方は梓と結婚するから、杏とやり直せないでしょう。

 だから、杏が一人で産んで一人で育てると決めたのよ。」

「あの! 杏は僕の子を産んだんですか?」

「そうよ、今、そう言いましたよ。」

「僕の子……僕の子は男の子ですか? 女の子ですか?」

「少し音量を下げて貰えないかしら?」

「あっ……済みません。」

「貴方と杏の子は男の子です。

 名前は康稀(ひろき)。」

「ひろき………ひろき………。」

「ええ、康稀(ひろき)よ。

 杏が父親の名前から一字取って名付けたの。」

「僕の名前から一字……!」

「ええ、貴方の名前、康介の【康】の字を【ひろ】と読んだの。

 そして、稀っていう漢字を【康】の次につけて漢字二文字にしたの。

 繋げて康稀(ひろき)よ。」

「康稀(ひろき)………僕の名前の【康】を付けて……。」

「息子に父親には一生会えなくても、名前に父親を残したかったのかしらね。

 息子と父親との縁を名前だけでも繋げたかったのかしら?」

「康稀(ひろき)……康稀(ひろき)………。」

「貴方によく似ているのよ。

 産まれた時も似てると思ったけど、本当に似てる。

 成長するにつれて、より一層似て来たわ。」

「僕にソックリなんですか!」

「ソックリまでは言ってないんだけど……。」

「会いたいです! 僕の子に……康稀(ひろき)に会わせて下さい。

 お願いします。お願いします。」

⦅これは、意外と良き父になる可能性が無いとは言えないわ。⦆

「………会うのにはハードルが高いわよ。」

「分かっています。」

「先ず、康稀(ひろき)を認知して。

 全てはそれからよ。

 認知して貰ってから、養育費の支払いを求めるわ。

 そして、それらが決まって、養育費の支払いが開始されてからね。

 会うのは………。

 会わせるにも、康稀(ひろき)の心を一番大切に! ねっ。」

「はい、それは当然です。

 あの……杏にも会えますか?」

「杏は無理ね。貴方に傷つけられたから……無理だと思って頂戴。」

「………そうですよね……分かりました。

 認知はします。当然のことです。養育費も支払います。

 父親としての義務を果たします。

 いえ、果たさせて下さい。今まで出来なかった分も果たします。

 杏には……杏には……そう伝えて下さい。

 お願いします。」

「分かりました。ありがとう。」

「いいえ、僕こそ、ありがとうございました。

 知らずに父親としての責務も果たせずに居ました。

 本当に教えて下さって、ありがとうございました。」


真由子は話して良かったと思った。

康介は生き甲斐を見つけた思いだった。


⦅息子の為に……康稀(ひろき)の為に頑張ろう。

 頑張って働いて養育費を稼ごう。

 プレゼントもしたい。何を好きかも分からないけど……。

 …………杏………ごめん……苦労させて……全て僕が悪い。

 全て僕のせいだ……ごめん……杏……ごめん………。

 ………ありがとう………こんな僕の子を産んでくれて……ありがとう。⦆


帰路の夜空を見て康介は杏の顔を思い出していた。

あの日の、別れの日の涙を……思い出していた。

夜空の星に祈った。

⦅息子の未来が明るいように……杏の未来が明るいように……。⦆と、祈った。

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