梓の真実の姿
木元康介は画面が割れて壊れた梓のスマホを修理に出した。
何とか見たかったのだ。
何があったのか、妻・梓は何をしていたのか、それを知りたかった。
知りたい気持ちだけではない。
使わなくなったスマホの処分の為に、スマホを初期化しないといけないのだ。
個人情報の宝庫であるスマホのロックを解除して、メールなどの個人情報を削除しないといけない。
捨てるのはそれからだ。
幸いにしてスマホ自体は壊れていなかった。
ロックの解除も簡単だった。
パスワードが結婚記念日に二人の名前の頭文字を組み合わせたものだったからだ。
梓は自分のスマホも康介のスマホも同じパスワードにして欲しいと言った。
康介は梓が願う通りに同じパスワードにした。
それが二人の結婚記念日に二人の名前の頭文字を組み合わせたものだったのだ。
「パスワードは変わっているかもしれない。
先ずは僕が知っているパスワードで……。」
入力するとスマホのロックが解除出来た。
康介は梓が残したスマホに自分の指紋を登録した。
梓のメールアドレスは知っている。
パスワードが違っていたら、【パスワードを忘れた】からパスワードの再設定をしようと思っていたが、その必要はなかった。
康介は梓のSNSを見た。
その中に「マッチングアプリ」もあった。
「マッチングアプリ」を見た。
今も梓にメッセージを送って来る男が居る。
梓が相手に望むことは、①高学歴であること ②イケメンであること ③資産家であること だった。
メッセージを送って来る男は、未婚だとは限らない。
AIで自分の写真を変えている男も居た。容姿を変えて登録しているのだ。
それは梓がその相手を会った後のメッセージで分かった。
「こんなことしてまで……ブランド物や宝石が欲しかったのか。」
康介は唖然とした。
康介にも梓は常に強請っていた。
叶わない時は泣き叫んでいた。
欲しい物は絶対に自分の物にする――それが梓の本当の姿だった。
結婚するまで、その姿は隠されていたように康介は思っている。
否、違う。
出会ってから短すぎたのだ。
直ぐに「結婚すること」に梓が言及した。望んでいると……。
そうだ、二度目に会った時には「結婚の約束」を梓が望んだ。
「ずっと一緒に居たいから……。」と………あの頃の康介は梓に夢中になっていた。
杏との恋は穏やかで、梓との恋は一瞬でも目を離したら失ってしまうような恋だった。
梓は杏と違って、男性からのアプローチがあった。
それも、多かった。
康介は梓を自分だけの梓にしたくなったのだ。
⦅愚かだった……。⦆と康介は思う。
次に康介が見たのは、メッセージアプリだった。
そこは今まで知り得なかった梓の顔があった。
そこでは康介のことも話題になり残っている。
「でも、大企業のエリートなんでしょう。いいじゃん。」
「どこがいいのよ! 幾らエリートって言っても、たかが会社員。
給料は少ないわ。」
「そんなことないでしょう。」
「ブランドなんか、買って貰えないのよ。」
「この前の誕生日に買って貰ってるよね。」
「買って貰えるのは誕生日と結婚記念日だけよ。」
「いいじゃん。」
「私はね、康介にとって高嶺の花よ。
でも、たかが会社員だとケチになってしまうのよ。
私には相応しくないわ。
あの程度の人だって分かってたら、お姉ちゃんから盗らなかった。」
「あの程度って………。」
「私に似合うのは、御曹司よね。」
「御曹司ぃ?」
「そうよ、WEB小説や漫画みたいにさ。
御曹司がいいなぁ~。イケメン御曹司!
イケメン御曹司に溺愛されるのよ。
オークションで何十億円とお金をかけて競り落としてくれるのよ。
イケメン御曹司……それこそが私に相応しい相手だわ。」
「贅沢出来るから?」
「贅沢……それは愛なのよ。愛を図るのは、それしかないでしょ!」
「御曹司と、どうやって出会うのよ。」
「マッチングアプリがあるよ。」
「マッチングアプリぃ~?」
「出会いたいの。御曹司と……。」
「夢見てるのね。」
「そうよ、シンデレラになるのよ。」
「じゃあ、旦那はどうするの?」
「要る? あげてもいいわよ。」
「本当? 私ならwelcomeだわ。」
康介は頭が真っ白になった。
愛されていないことは分かっていた。
だが、康介をまるで物のように「あげる」と梓は答えていた。
梓が求めていたことは、康介にとって【愛】では無かった。
働かずに楽に大金をに物に使えるかどうか……高価な食事、高価な品物……それが梓にとっての【愛】だったのだ。
康介は自分の目が節穴だったと、改めて思った。
そして、深い後悔がより一層深くなった。
梓を選んで杏を捨てたこと――それが一番の後悔だった。
あれから、康介は自分の親と疎遠になった。
親と疎遠になってしまったこと、友人達から距離を置かれるようになったこと、杏を酷いやり方で捨てたこと………全ては見る目が無かった康介自身が招いたことだった。




