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虹の彼方  作者: yukko
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交通事故

梓が救急搬送された病院に真由子は到着した。

手術室の前で石谷直樹も百恵も真っ青な顔をして手を合わせ祈っている。

微動だもしていない。

木元康介は壁に寄りかかっている。


「兄さん……梓は?」

「真由子! 来てくれたのか。」

「梓は?」

「今、手術中なんだ。」

「そう………。」


誰も口を開くことが出来ない。

手術室の前で手術が終わるのを待つことは、こんなにも辛いと思う日がまたやって来るとは思わなかった。

石谷直樹も百恵も、そして真由子も思わなかった。

誰もがもう二度と経験したくないことだった。


「兄さん……梓は…なんで事故に遭ったの?……巻き込まれたの?」

「梓は被害者だっ! 運転手のミスでこんなことに……。」

「運転手のミス? タクシーに乗ってて事故に遭ったの?」

「あいつのせいだ……あいつが……運転ミスしなければ、こんなことには……。」

「そうよ、あの男が悪いのよ。」

「あの……男?」


壁に寄りかかっていた康介が口を開けた。


「………不倫相手です。」

「えっ?」

「何を言うんだ!」

「梓は、そんなことする子じゃないわ!」

「あの男が言ってたじゃないですか。既婚だと知らなかったと……。

 付き合ってて恋人だと思ってたと……。」

「あんな男が言うことを、お前は信じるのか! 夫のくせに!」

「信じますよ。警察官にもそう話していました。」

「あんた! 梓の夫でしょう!」

「夫だから………だから、分かるんです。梓は僕に失望してました。」

「じゃあ、悪いのは、あんたじゃない!」

「兄さん、お義姉さん、落ち着いて! ここは病院よ。

 木元さんも落ち着いて下さい。

 梓が男性の車に乗って居て事故に遭ったのよね。兄さん。」

「そうだ。あいつのせいだ。」

「その方は? その方のお怪我は?」

「あいつは梓みたいな酷い怪我をしていない。なんで!なんだぁ―――っ!」

「兄さん、お願いだから落ち着いて。ここ、病院なのよ。

 静かにして頂戴。ご迷惑をお掛けするわ。」

「お前に何が分かる。

 娘が心配な俺の気持ち……子が居ないお前に分かるはずが無い。」

「兄さん………。」

「真由子さんになんか分からないわ。育てたことが無いんだから!」

「お義姉さん……。」

「止めて下さい。義叔母さんに当たるのは……。

 手術が終わるのを待ちましょう。

 お義父さんも、お義母さんも、梓の無事を願ってるのでしょう。

 今は、ただ待つしかないんですよ。」

「………そうだな。」


手術室のドアが開いた。

執刀医が出て来た。

マスクを取り、サージカルキャップを脱いで「手を尽くしましたが……。」と言った。

後の言葉は聞こえなかった。

石谷直樹と百恵の号泣が響き渡った。

執刀医は頭を深々と下げた。

真由子は執刀医の前に歩み出て、頭を下げて「先生、ありがとうございました。」と言おうとした。

その時、真由子の隣から康介の声が聞こえて来た。


「先生、ありがとうございました。」


真由子は驚いて隣を見た。

そして、ハッと気付き、康介と同じように頭を下げて「ありがとうございました。」と言った。

執刀医は「残念です。」と言ってから、頭を下げて家族だけにした。

梓の亡骸は手術室を出て霊安室に運ばれた。

梓の亡骸の取り縋って泣いている石谷直樹と百恵を置いて、康介が霊安室を出て行った。

真由子はその後を追って康介に話し掛けた。


「木元さん、どうしたの? 何処へ行くの?」

「知りたいことがあるんです。彼に会います。会えるのなら……。」

「彼?」と聞き返して、真由子はハッと気付いた。


梓の不倫相手のことだと分かった。

康介は一度も取り乱していなかった。

涙の一粒も流していない。

冷静だった。

それが、真由子には不思議だった。

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