↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹の彼方  作者: yukko
PR
14/37

新しい道を生きる決意

私は加納杏になって、人生をやり直すと心に決めた。

慣れないのは、叔母である真由子が養母になったことだ。

養母に対して私は「叔母ちゃん!」と呼ぶことが出来ていない。

「お養母(かあ)さん!」と呼ばないといけないが、まだ呼べない。

なんとなく恥ずかしいと思ってしまう。

それに母が居る。

「お母さん」は母だけなのだ。

そのことが私を「お養母さん」と呼ぶことについて葛藤させている。

ただ、家を出てから今まで一度も父も母も私を探そうとしていない。

元気かどうかを知ろうとも思っていないのだ。

どこで、どんな暮らしをしているのか知ろうともしないのだ。

親から愛させないということは、そういうことだ。

気にも留めて貰えないのだ。

私は見捨てられた娘なのだとハッキリ分かった。

この頃の私はまだ親の愛を乞うていたのかもしれない。

そして、康介の愛も……。


**********


私のお腹は大きくなっていった。

私は戌の日に腹帯を巻いた。

養母・真由子がとても張り切っていて可笑しかった。

近くの神社で安産祈願を受け、腹帯を持参してお祓いをして貰った。

母になるということが現実味を増してきた。

妊娠5ヶ月になると悪阻が治まった。

「叔母ちゃん」元い、「お養母さん」が言っていた通りだった。

私は仕事を探していた。

養母の真由子に養って貰う訳にはいかない。

子どもの母になるのだ。

働かねば育てられない。

私は好きなことを仕事にしたいと願うようになっていた。

好きな花に囲まれた暮らしに憧れていた。

なんとなく花に関わる仕事をしたいと思った。

養母・真由子は「いいんじゃないの? AIに奪われない仕事だわ。」と言った。

私はハローワークに行き、花に関する仕事を探した。


**********


康介と出逢ったあの会社は、既に仕事の引継ぎが終わり退職している。

悪阻で辛い妊娠3ヶ月の時だった。

退職を決意して上司に伝えた日、会社の同期で一番仲が良い曽我絢音が心配してくれた。


「ねぇ、もしかしたら……妊娠……してる?」

「誰にも言わないで!」

「分かった………このこと、あのクズ野郎は知ってるの?」

「言ってない。」

「そうか……あのさ、産むの?」

「うん、産むよ。」

「退職したのは、出産するから?」

「うん、それもあるけど、もう会うのが辛いから……。」

「そうだよね。あのクズ野郎、3年目に入るのに本社に異動してないもんね。

 あ……もう異動するのか。」

「本社に異動しても、この会社に勤めている限りは何時か会うかもしれない。

 会ったら辛いから……。」

「杏は被害者なんだよ。どうして被害者が辞めないといけないんだろう。

 腹立つ! あのクズ野郎、不幸になっちまえ!」

「絢音、止めて。」

「どうしてよ。」

「私ね、まだ好きなのよ。彼が不幸になること……望んでない。

 好きだから……望んでないの。諦めが悪いよね。」

「ううん、そんなことない。諦めが悪いのは当たり前だよ。

 まだ日が浅いから……。

 杏、私、もう言わないね。不幸になれ!って言わないよ。」

「ありがとう……絢音。」

「退職したから、生活は? 大丈夫なの?」

「うん、叔母の家で厄介になってるの。安心して。」

「そっか……良かった。

 ねぇ、産まれたら教えてね。」

「勿論!」

「お祝い持って駆けつけるから!

 ………妊娠、おめでとう。」

「………ありがとう……ありがとう、絢音。」


私は泣いてしまった。

涙が次から次へと流れ落ちる。

止められなかった。

絢音は私の隣の椅子に座って、私の背を撫でてくれた。


**********


私には高校の頃からの親友が居る。

彼女は激怒した。私の妹に対して……。

森下梨華は憤懣遣るかたない表情で梓を罵った。


「高校の時も、杏の恋人を奪ったじゃない!

 今度は、婚約者を奪い、式も披露宴も、新婚旅行さえも奪ったっていうの!

 なんて奴なんだ!」

「梨華……私……。」

「あの父親と母親! 親じゃないわ!

 普通は、姉を慰めるわよ。妹と縁を切るわよ。

 それが何? 当然のように妹に譲れって?

 縁を切るべきよ。杏、決意して欲しいな。

 あんな親なんか要らないって思って欲しい。」

「…………私………。」

「少し教えて貰ったことがあるの。」

「何?」

「精神科医が言ってた。ネットで配信されたの。

 親の虐待を受けたら、自分だけが我慢すればいいって思うんだって。

 でもね、我慢しなくっていいからね。

 親が悪いんだから……。」

「梨華、私、虐待なんかされてないよ。」

「杏! 親からされたこと全て虐待だよ。」

「でも、怪我してない。」

「怪我することだけが虐待じゃない。

 ねぇ、よぉ~~く聞いて、杏。

 インフルエンザで熱が出ても看病して貰ったこと無かったよね。

 小学生からだった?」

「うん。」

「それ、立派な虐待だよ。」

「………でも、梓が大変だったから……。」

「それならそれで、誰かに……普通はだよ。普通は誰かに杏を看て貰うよ。

 でも、なぁ~~んもしなかったのよね。」

「う…うん。」

「それ、立派な虐待ですから!

 他にもあったよね。インフルエンザに罹ると叱られてたよね。

 『梓にうつったらどうするんだ!』って納戸に閉じ込められたんでしょう。

 そして、放置!

 どう考えても、インフルエンザに関することだけでも虐待よ。

 殴られたのも杏だけでしょう。妹は絶対に殴られない。」

「殴られてないよ。」

「じゃあ、なんて言えばいいの? 叩かれた?」

「うん、叩かれたけど……。」

「一度じゃないでしょう。

 私の目の前でも妹が泣いたからって理由で殴りやがった。

 あの馬鹿野郎が……。」

「それは……怖かったよね。ごめんね。」

「なんで……なんで杏が謝るのよ。杏、あの親から離れよう。

 これを機会に、離れない限り幸せには成れないよ。

 丁度、叔母さんの家に転がり込めたんだし、さ。

 そのまま置いて貰っちゃえば?」

「そんな訳にはいかないよ。迷惑掛けないように早く出なくっちゃ。」

「杏はいっつも言うよね。迷惑掛けちゃ駄目って。

 でもね、助けて貰った方がいい時もある。

 その時にちゃんと『ありがとうございます』って感謝出来ればいいと思う。

 そして、いつか…その人を助けてあげられたらいいんじゃない?

 あっ! そうだ。私のことも忘れないでよ。

 私に出来ることは、やるよ。友達じゃないの。遠慮しないでね。」

「………梨華……ありがとう。」


私の涙腺は、とても弱いみたいだ。

梨華の優しさに涙が止まらなかった。

そして、私は石谷杏から加納杏になったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。