退職と養子縁組
あの婚約解消の土曜日から二日後の月曜日。
私は会社を辞めることにした。
退職届を出した。
上司は理解してくれた。
結婚式に招かれていて、行ってみると新婦が変わっていたからだ。
新婦が石谷杏の妹の石谷梓だと知って、上司は杏の気持ちを慮った。
退職は止むを得ないと思ったのだ。
「退職後はどうするの?」
「今は少し休みたいと思っています。」
「じゃあ、癒えたら就活するのね。」
「はい。」
「頑張ってね。」
「はい、今まで御指導頂きありがとうございました。」
「こちらこそ……石谷さん、頑張って!」
「はい。」
仕事の引継ぎは1週間で終えた。
そして、私は退職した。康介と出逢った会社を……。康介が今も働く会社を……。
私は辞めた。
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退職届を出してから、私は叔母・真由子の自宅近くのレディスクリニックへ向かった。
急遽の予約に対応してくれた。
午後4時、クリニックに到着して妊娠確定検査を受けた。
問診、尿検査、触診と内診、そして超音波検査を経て、結果を知らされた。
「妊娠9週、3ヶ月です。」
未婚であることから医師は尋ねた。
「どうなさいますか?」と………。
私は「産みます。」と答えた。
迷いはなかった。
この子を殺したくないからだ。
どんな苦労をしても育て上げてみせる!と心に誓った。
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叔母・真由子の家に帰って、少しでも口にしないといけないと思った。
冷凍うどんがあったので、作った。
でも、作っている間にも悪阻で辛かった。
「食べなきゃ!」と無理して口にしたが、吐いてしまった。
辛くって、リビングのソファーで横になった。
何時、真由子が帰って来たのか私は分からなかった。
「大丈夫?」という優しい真由子の声で私は目覚めた。
「大丈夫よ。」
「どうだった?」
「先ずは会社のことね。退職したの。」
「そう……。」
「次にクリニックに行ったの。
妊娠3ヶ月だって……先生が『どうなさいますか?』って聞くのよ。
私、『産みます!』って答えたわ。
叔母ちゃん、申し訳ないんだけど……。
私の我儘なんだけど……産むまで、ここに置いて下さい。
お願いします。
産んで働けるようになったら出て行きます。
出て行くまでの間、置いて下さい。お願いします。」
「杏、あんたね。私は冷血漢じゃないわよ。」
「叔母ちゃん! それじゃあ……。」
「ずっと居なさいよ。産んだら出て行くなんてこと言わないでさ。
ここに居なさい。出て行った方が心配だわ。
居てね。私も杏が居た方が楽しいから……。」
「叔母ちゃん、ありがとう。」
「そうだ、直ぐにでも住民票を移動しないとね。
明日、私、休めるわよ。
杏はどうなの? 母子手帳の交付も受けないといけないでしょう。
役所に行った方がいいわ。1日も早く。」
「うん、上司にはもうメッセージを送ったんだ。休みますって……。
引継ぎは明後日から、って……送ったの。」
「そう、じゃあ、明日は私の運転で兄さんの家の役所に行こう。
それから、こっちの役所で転入届を出そう。」
「叔母ちゃん、頼りになります。」
「任せなさい。伊達に年取ってないわよ。
そうだ、何なら食べられるかな?
私の時は冷めたおにぎりなら食べられたのよ。」
「そうなの?」
「人によって違うからね。杏は何だったら食べられるかな?」
真由子は自分が食べられたコンビニのおにぎりを買って来てくれていた。
冷めたコンビニのおにぎり、食べられた。
それから、色々試したら、以外にも私が一番食べられたのはカレーうどんだった。
カレーうどんか、コンビニのおにぎりが私の食事になった。
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真由子が連れて行ってくれた父の自宅がある役所で「転出届」を提出して「転出証明書」を受け取った。
その足で、叔母・真由子の家がある役所で「転出証明書」と「転入届」を提出した。
私は真由子が筆頭者の住民票に入った。
そして、母子手帳の交付を申請して、母子手帳を受け取った。
何故だか涙が出た。
その日、真由子が言った。
「ねぇ、杏。うちの子にならない?」
「へっ?」
真由子が望むように、真由子の養女になることを私は選択した。
ただ一人、私を抱き締めてくれた人……それが加納真由子だからだ。
私は石谷杏から加納杏になった。




