第7話 神様、子守りを雇う
子守りアルバイトを雇うことになった数日後。
「アルバイト候補、見つけてきたぞー」
「社長、普通は求人を出して、応募してきた人を面接するものです」
「それだと仕事が増えるだろ。ほら入って、入って」
「失礼します」
入ってきたのは、少しぼさついた髪の青年だった。
身なりはくたびれているが、不潔な印象はない。
「あれ、君」
「小野寺さん、知ってる人?」
「家の近くにあるスーパーでレジをやっている子です」
面接用のお茶を用意しようと立ち上がった事務員さんが、青年の顔を見てそう教えてくれた。
「ここに座って待っててくださいね」
「ありがとうございます」
店長に問い詰められる社長から青年を離し、事務員さんが面接のために休憩スペースへ案内してくれている。
普段は昼食や作業台代わりにしか使われていなかった休憩スペースが、初めて来客用として活用された瞬間だった。
「社長、どこで拾ってきたんですか?」
「履歴書を持ってスーパーの前で呆然としてたから、拾ってきた」
「どこのスーパーですか」
「ここ」
「下のスーパーの応募者を横取りしないでくださいよ」
「まだ応募前だったからセーフだろ」
軽く話を聞いたところ、新しくできたスーパーへ応募しに来たらしい。
ただ、実際に来てみたら建物がいかにも高級マンションで、入るのをためらっていたところに声を掛けたのが春日だった。
「ほらほら、待たせたら可哀想だろ、面接しようよ」
「分かりました」
ため息を付きながら店長がやっと動き出してくれた。
休憩スペースへ移動すると、店長が青年の向かいに腰を下ろし、春日も当然のようにその隣へ座った。
「お待たせしました。店長の佐伯です。まず、仕事内容は社長から聞いていますか?」
「店長、これ履歴書ね」
「……なんで社長が持っているんですか」
「来る途中で読んだ」
「……」
店長が春日の言葉に軽く眉間を揉んだ。
「……本人の許可は取りましたか?」
「見せてって言ったら渡してくれた」
「はい」
「ならいいですけど……」
店長は春日から履歴書を受け取り、改めて目を通した。
「工芸専攻……?」
ガタリ
聞き耳を立てている社員たちが一斉に動く音がした。
だがこの程度を気にしていたら、この会社で店長は務まらない。
「改めまして、仕事内容は社長から聞いていますか?」
「はい。小学生を学童へ迎えに行って、こちらで面倒を見る仕事だと聞きました」
迎えの時間は決まっているため、大学の予定とも調整しやすそうだと判断したらしい。
「運転免許は持っていますか?」
「いいえ」
「では、迎えは徒歩ですね。社長、悪天候の日はどうしますか?」
「そもそもそんな日は仕事しないで帰ろうよ」
「歩ける程度の雨なら傘か雨合羽で迎えに行ってもらい、豪雨の時は小野寺さんに早く帰ってもらうということで」
春日の主張をそのまま採用せず、店長が現実的な条件に整えてくれた。
「出勤できないほどの悪天候の際は会社から連絡をします」
「はい」
「それ以外の日は出勤していただき、お迎えがない日は会社の雑用をしてもらうのはどうです?」
「それいいねー」
春日が軽く採用し、そういう事になった。
三バカのキャッキャした空気が伝わってきたが、全力で無視しつつ店長は話を続けた。
「じゃあ、気配がうるさいから社員を紹介しちゃおうか」
「ひゃぁぁ後輩!!」
「しっ、先輩としての威厳ってやつを」
「梱包に興味はないだろうか」
店長はこの時密かに思っていた。
あいつら黙ってくれないかな、と。
せっかく真面目そうな人材を採用できそうなのに、「先輩が気持ち悪いので辞退します」などと言われたら、普通に泣ける。
「まず、こちらが社長の春日になります」
「基本的に何でも相談していいぞ!」
お金も人脈も人知を超えた力も持っているので、あながち冗談ではない。
「私が店長で、先ほどの女性が事務員の小野寺さんです。他の三人は……紹介しなくてもいいんじゃないですか?」
「それもそうだな、今日って面接だけだし」
「他にもHP、制作、発送をそれぞれ担当する社員がいますが、紹介はまた後日にしましょう」
後ろから声なき悲鳴が聞こえたが、二人とも無視した。
それより仕事をしてほしい。
「修ちゃん並みにお金がないらしいからさ、なんかいい感じの支援ない?」
「そうですね……」
「彼専用のカードを作って経費で落としていい?」
「作りません。社員割引を使えるようにしましょう、他の社員と同じ条件で会社が補助するんです」
「じゃあそれで」
時給か月給かで少し揉めたものの、店長がその分だけ条件を良くすることで、春日も納得した。
青年の時給は周辺の相場より少し高め。
会社の仕事で必要な物はその都度経費で購入。
手が空いている時間なら、大学の課題を進めても構わない。
そんな感じで話はまとまった。
「では、こちらの条件で採用ということでよろしいですか?」
「はい。お願いします」
「そろそろ小学校も終わる時間かな。ちょうどいいから、学童へ顔合わせに行っちゃおうか」
「小野寺さん、書類はどうですか?」
「すぐ終わります」
こうして青年は明日から正式に働くことが決まった。




