第5話 神様、息子と新居へ行く
全員が自分の席に着いたところで店長が口を開いた。
「社長、せっかくですし、取り扱う商品を増やしましょう」
「えー」
「この倉庫を空のまま維持するつもりですか?」
「広くていい」
「お前はちょっと黙ってよう。倉庫は空間を愛でる場所じゃない」
横から口を挟んだ発送担当が、店長から正論で怒られた。
「はい!」
真っ先に手を挙げたのは事務員さんだった。
「小野寺さん、何かいい意見ある?」
「侍をイメージした赤ちゃんグッズを作りましょう! モデルは理央君で!」
「採用」
「社長、もう少し練りましょう」
「じゃあ僕、さっそく作ってきます!」
言うや否や制作担当の藤原が立ち上がった。
「修ちゃんはお家に帰ろうか」
「社長、酷い!」
「いや、元々今日は会社紹介だけのつもりだったから、今日の予定はもう終わり」
「新しい部屋で仕事がしたいです!」
「新しい倉庫を堪能したいです」
「……社長、どうするんです、この二人」
帰れと言ったのに駄々をこねる大人。
仕事が好きすぎるのもあるが、それ以上に自分の新しい城へこもりたいのだろう。
「働きたい奴は手を挙げて」
店長と事務員さんに続き、三バカも揃って手を挙げた。
つまり全員、仕事をしたいらしい。
「好きにして。その代わり定時はいつもより早めで」
「分かりました。じゃあ一人当たり最低三枚のラフで!」
「「っしゃぁ!!」」
全員、担当業務が違うはずなのに、なぜか全員がデザインにも参加している。
それが、この会社に七つぐらいありそうな不思議の一つだった。
「じゃあ、俺は理央を連れて帰るから。徹夜はするなよ」
「お疲れさまでした!」
社員たちを残し、春日は理央を抱いてエレベーターに乗った。
向かう先は、この建物の最上階。
春日は内装の確認ですでに足を運んでいるが、理央を連れて入るのは今日が初めてだ。
最上階へ着き、玄関の扉を開ける。
「ここが今日から俺たちの家だよ」
「ぁ~!」
腕の中の理央は、何を言われているのか分かっていない。
それでも春日の声に反応して、淡い金色の髪を揺らしながら手足を動かした。
理央を抱いたまま中へ入る。
玄関はベビーカーを置いても邪魔にならないほど広く、壁際にはちょっとした物を置ける棚も用意されていた。
玄関から続く廊下を抜けると、広いリビングに出た。
天井近くまである窓から日差しが入り、明るい色の床を照らしている。
置かれているのは大きなソファと低いテーブルぐらい。
家具は少ないが、小さな子供がぶつかっても怪我をしないよう、どれも角が丸く作られていた。
リビングの奥には庭へ続く大きなガラス戸があり、その向こうでは一本の木が枝を広げていた。
理央が大きくなったら遊べるよう、砂場のほか、プールを置く場所も用意されている。
「ただいま」
「キュ」
庭から入ってきたのは、なかなかずっしりしたボディのマンドラゴラだった。
片手を上げて挨拶する背後から、ぽよよんと透明なスライムも現れた。
理央の子育てに協力してもらうため、異世界から呼び寄せた個体たちだ。
『おかえりなさい』
キッチンから珈琲を持って現れたのは、半透明の幽霊。
そう、このマンションの前オーナー。
うっかり地縛霊になった前オーナーは、理央の可愛さにやられ、この部屋に勝手に住み着いていた。
なお、珈琲は春日のためではなく、自分のためらしい。
「なんで幽霊、それも地縛霊なのに珈琲飲むの?」
『生前からの嗜みです』
「嗜好品を楽しむ地縛霊とか聞いたことない」
『細かいことを気にすると、長生きできませんよ』
「すでに数千年単位で生きてる」
そもそも、すでに死んでいる奴に言われたくなかった。
▽地縛霊とは
土地や建物に縛られ、その場から離れられない霊。
・前オーナー:土地から離れられないというルールには縛られている。
ただ、そのルールの中で好き放題することに決めただけ。




