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神様、息子が可愛くて仕方ない  作者: ゆめ@マンドラゴラ
第一章 神様、父親になる

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第3話 神様、移転する

 子育てには色々必要らしい。


「だからビルを買おうと思う」

「え?」


 赤ん坊を拾ったその日、突然開かれた会議。

 店長が買ってきた必需品を確認しながら、昼食を囲んでのランチミーティング。


 春日は赤ん坊を片腕に抱き、慣れた手つきでミルクを飲ませている。

 当の本人は哺乳瓶に両手を添え、ごっごっごっと音がしそうな勢いでミルクを飲んでいた。


「子供を育てるのに必要なものってなに?」

「小さい子は熱を出しやすいです」


 ネットショップの紅一点。

 愛する夫と息子を持つ事務員さんがすぐに答えをくれた。


 なお、既婚者は彼女と店長だけ。

 店長も負けず劣らずの愛妻家である。


「子供って熱を出しやすいの?」


 尋ねながら赤ん坊を抱き直して背中をポンポン。

 盛大なゲップが響いた。


「出しますよ。保育園から呼び出されることも多かったです」

「じゃあ、医者も探さないとな」


 軽やかにスマホを操作する春日。

 その場で移転先の条件が追加されているとは、誰も思っていなかっただろう。


「スーパーも近くにあると助かりますね」

「近くにないなら、来てもらえばいいか」

「え?」


 タタタッと、新たな条件が入力される。


「今の会社の給湯室って狭いよな、もっと広くしよう。他に欲しい設備ある?」

「商品を撮影するスペースとか?」

「確かに欲しいかも。スマホでも十分綺麗に撮れるけど、場所が狭いんだよな」

「どうせなら倉庫をもう少し広くして、在庫を置きませんか?」

「あーぅ」

「おむつ替えのできる部屋はあった方がいいですよ」

「分かった」


 そうして幾つかの意見がまとめられた。


 その数日後――


「移転先が決まったから引っ越すぞ」


 さすがにちょっと何を言っているか分からなかった。


「えっ?」

「引っ越しって、どこへ??」

「新しい店舗」

「今の店との距離は?」

「歩いて十五分くらい、駅が今よりちょっと近くなる」

「駅近って……絶対お高い場所だ」


 店長が顔色を悪くしてガクブルし始めた。


「内装工事の途中で事業主が急逝して工事が止まってる場所なんだよ」

「移転無理では?」

「ネット環境がないと商売できないですよ」


 社員が真顔でツッコミを入れてきた。


「完成させるだけで破産しますよ。考え直しましょう?」

「未練を残した幽霊が出るやつ」


 幽霊は普通に出る。

 子供好きだったので、その辺はいい感じに説得済みだ。


「未完成だからお得だったし、元々スーパーとかを入れる予定だったみたいでな。俺の希望をパーフェクトに叶えてくれる物件だった」


 出店予定だったスーパーも教えてもらい、契約はそのまま引き継いだ。

 おかげで幽霊と契約先の両方に感謝された。


「あとネット回線は開通済みだから問題ない。内装も終わった」

「……どうやったのか、聞いてもいいですか?」

「財力と人脈」


 入居してくれる医者は見つかったが、設備が整っていないため、開院は来週になる予定だ。


「スーパーの中にコーヒーショップとか入れる?」

「はい!」


 カフェイン中毒気味の社員が目を輝かせて賛成した。


「会社の帰りにスーパーに寄れちゃう……で、でもお高いんですよね?」

「社員証を見せれば割引になるようにしておくよ」

「社長、一生ついて行きます!!」


 次に事務員さんが陥落した。


「あと作業場と休養室は作ったけど、社員用の仮眠室は却下した」

「なぜですか!?」


 普段は無口な社員が、ガタリと椅子を鳴らして立ち上がった。


「お前、会社に住むつもりかよ」

「……」


 無言で座り直した。

 住むつもりだったらしい。


「倉庫は希望通り広く取ったけど、うちってそんなに在庫抱えないよな?」

「俺は商品に囲まれたい」


 今度は発送担当が真顔で答えた。


「お前の性癖は知らん」

「うぅ、うちの社員が変なのしかいない……社長、なんでこいつらを雇ったんですか……」

「有能なんだよ。こだわりが突き抜けて変態なだけで」


 店長が胃を押さえている。

 癖の強い社員をまとめているだけあり、彼も有能なのだが、ここ数日の心労が胃に来たらしい。


「スーパーの中に、店長の奥さんが贔屓にしている店も出店してもらう?」

「え?」

「紅茶とケーキ、好きなんだろう? 毎日買って帰ればいい」

「毎日買って帰ったら、太るって怒られるじゃないですか!」


 出店したらしたで買ってこないと恨まれそうだと、出店は却下された。

 その横で事務員さんが手を挙げる。


「どうした?」

「焼き立てパン……」

「分かった」


 目を血走らせていたので少し怖かったが、ベーカリーも入れることになった。


「それじゃ、明日から移転作業な」

「明日!?」


 こうして、赤ん坊を拾った数日後。

 会社は本当に移転することになった。


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