第2話 神様、息子に名前をつける
到着した警察を前に、春日は赤ん坊を抱いたまま堂々と宣言した。
「この子は俺が引き取る」
「お気持ちは分かりますが、そう簡単には……」
「ちょっと電話してくるからこいつ抱っこしてて」
「はい!」
「店長は引き続き話聞いておいて」
「はい」
春日は店の奥へ引っ込むと、ある人物に連絡した。
警察にも事情があるし、面倒な手続きもあるのだろう。
なら、話の分かる相手に直接頼めばいい。
「話してきた」
「早くないですか?」
直後、警察官の持っていた電話が鳴った。
「はい……はい。承知しました」
電話を切った警察官が、何とも言えない顔で春日を見る。
「関係各所への確認が済みました。必要な手続きはこちらで進めるようにとのことです」
「社長、何をしたんですか!?」
店長の疑問は華麗にスルーされた。
「身元の確認や必要な手続きには、しばらく時間がかかります」
「うん」
「ですが、その間も赤ちゃんはそちらで保護していただいて構いません」
「分かった」
警察官が冷や汗を流しながら説明する傍ら、事務員の女性は乳児に必要なものを鬼気迫る勢いで書き出していた。
恐らく、警察が帰った後、店長が走る羽目になるだろう。
「名前がないと不便だな」
「まだ引き取れると決まったわけではありませんよ」
店長の言うことは真っ当だ。
ただ世の中には正論が通用しない相手もいる。
生まれて間もない赤ん坊を、ダンボールに入れて捨てるような親なら最初からいない方がいい。
少しばかり呪っておいたので、警察が親を見つける頃には小さな不調が幾つも重なっている事だろう。
この子を捨てたことだけは、決して忘れさせない。
けれど、二度と近付くことも許さない。
この子はもう、うちの子なので。
「理央にしよう」
「人の話を聞いてください」
耳を傾けようとしない社長に、店長は一つ咳払いをして話を切り替えた。
「社長、今までは支障がなかったので言わなかったのですが……苗字はあるのですか?」
「……ねぇな」
「どうするんですか」
今までは困っていなかった。
けれどこれからは違う。
「今から作る」
「苗字はそういうものではありません」
小さな命の未来がかかっているので、店長がいつにもまして怒りっぽい。
「九条とかどうだろう」
「何で九条なんですか?」
「なんか金持ちっぽい」
こうして小さな赤ん坊は「九条理央」と名付けられた。
「店長、買い物お願いします!」
社長にツッコミを入れようとした店長だが、事務員に買い物リストを押し付けられ、その機会を失った。
「買い物には君が行ってください」などと言える空気ではない。
店長は黙って買い物リストを受け取った。




