帰還
第8小隊の地表任務も、いよいよ帰還へ。
第2地表昇降口はもう目の前。
あとは5人全員を、地下へ連れて帰るだけです。
旧交通管理施設を出ると、風は休憩に入る前より少し強くなっていた。低い建物の陰を抜けた途端、細かな雪が横から装甲へ当たり、背中のケンが顔を伏せたのを感じたヴァルカは、負傷した左脚へ余計な振動が伝わらない程度まで歩幅を狭めた。
「寒くなった?」
「さっきよりは。でも大丈夫です」
「その“大丈夫”はもう信用しないよ」
「じゃあ、寒いです」
「最初からそう言いな」
身体を少し上へ背負い直すと、ケンも肩へ回した腕の位置を変えた。休息中に状態を確認した左脚はまだ地面へつけられず、このまま昇降口まで運ぶことになる。
後方ではガレスがミラを背負い、ルネが班長を、ジードがロイを支えていた。ハルは救助シートへ固定され、空いている手を使って交代しながら運んでいるため、誰も普段どおりに武器を扱える状態ではない。
『第2地表昇降口まで約2キロ。現在の移動速度では、到着まで約48分です』
「48分か。まだあるね」
「負傷者4名に遺体1名です。いつもの速度を基準にしないでください」
「してないよ」
「その割に少しずつ前へ行ってますけど」
ジードに言われて後方との間隔を確かめると、確かに数歩ぶん広がっていた。
「これくらいなら離れてないでしょ」
「その“これくらい”を繰り返すんですよ」
「隊長、今日はジードの言うこと聞いてください」
ルネまで加わった。
「あたし、ちゃんと合わせてるよ」
「今からもっと合わせれば完璧です」
「何でそうなるの」
ガレスからは何も飛んでこなかったので、ヴァルカは少しだけ期待して振った。
「ガレスは?」
「この隊列なら、もう少し速度を落としても問題ないでしょう」
「聞かなきゃよかった」
背中でケンが笑う。
「仲いいですね、第8小隊」
「今のどこを見たらそうなるの」
「これだけ言われても、ちゃんと隊長の後ろについてきてますから」
ヴァルカは一度口を開きかけたが、その言葉なら悪い気はしなかった。
「……休んだら急に喋るようになったね」
「少し元気になったんで」
「ならいいよ」
今度は意識して歩調を落とした。
白い雪原の先には、第2地表昇降口へ併設された中継塔が見えている。休憩前より輪郭は大きくなり、その下には半ば雪に埋もれた外周フェンスまで確認できた。
昇降口が見えたからといって、地表が安全になったわけではない。
エルドが最後に拾ったデルヴァは600メートル以上離れていたが、雪中を走る速度を考えれば、それだけで警戒を解く理由にはならなかった。
『後方から接近する反応はありません。最短個体との距離は現在640メートルです』
「なら今のうちに進もう。次に寄ってくるまでは、こっちから相手しなくていい」
誰も異論を挟まず、隊列は旧道路へ合流した。
雪の下から黒い舗装面が見える場所も増え、道路脇には倒れた標識や防護柵が続いている。
『昇降口まで残り1.7キロです』
「やっと、あそこまで来たか」
班長が中継塔を見た。
「まだ終わってませんよ」
ルネが肩を貸したまま答える。
「あれが見えてるだけでも違うさ」
「それは……まあ、分かります」
「ルネ、そこはもう少し安心させること言ってあげてもいいんじゃない?」
「隊長に言われたくないです」
「あたしは結構言ってるでしょ」
「『帰るよ』とか『大丈夫』とか」
「十分じゃない?」
「ちょっと雑なんですよね」
班長が低く笑った。
「俺には十分だったよ」
「ほら」
「雑なのも否定しないけどな」
「何でそっちまで乗るの」
ヴァルカの声へ笑いが重なったところで、足元を低い振動が通った。
会話が途切れ、誰かが指示する前に隊列の歩みが止まる。
『地表下を走査します』
ヴァルカはケンを背負ったまま足場を確保し、ジードとルネも支えている相手の重心を安定させた。風に流れる雪の向こうにはまだ変化がない。
『後方410メートルに2体。さらにその後方約80メートルに1体。左前方約360メートルにも1体を確認しました。いずれもデルヴァと推定します』
「後ろの3体は?」
『こちらへ接近しています。左前方の1体は現在のところ進路が異なります』
「だったらまだ止まらない。行こう」
ヴァルカが歩き始めると、背中からケンが尋ねた。
「迎え撃たないんですか?」
「追いついてもないのに、わざわざ会いに行く必要ないでしょ」
「班長から聞いた最初の隊長と、だいぶ違いますね」
少し後ろから班長の声が来る。
「あの時は、地面の下を走るのが珍しくてな」
「余計なこと教えないで」
「嘘は言ってないだろ」
「あたしはちゃんと任務してたからね」
「楽しそうでもありましたけど」
ケンまで加わった。
「お前ら帰ったら元気そうだね」
「隊長、前との距離」
ジードに淡々と戻され、ヴァルカはそれ以上の反論を諦めた。
負傷者に無理をさせない範囲で進んだが、デルヴァとの距離は確実に縮まっていた。
『後方3体、約280メートルです』
「このままじゃ追いつかれますね」
「場所を選ぼう」
ジードが道路の先に、積雪が大きく削られた区間を見つけた。左側では数10メートルにわたり舗装面が露出している。
「あそこなら雪が薄いです。地表へ出させれば戻りにくい」
「そこで止めよう。左前方の1体は無視する」
第8小隊はそのまま舗装区間まで進み、そこで初めて救助者を道路脇のコンクリート壁へ寄せた。
ロイと班長を座らせ、ガレスもミラを慎重に下ろす。ハルの救助シートをその横へ収め、ヴァルカもケンの前へしゃがんだ。
「今回は言われる前に下ります」
「学習したね」
「さっき背負われたまま戦われそうになったので」
「今回は最初から下ろすつもりだったよ」
「本当ですか?」
「……半分くらい」
「やっぱり」
左脚へ負担が掛からない位置へケンを座らせた頃には、3人もすでに救助者を守れる位置へ散っていた。
『後方3体、190メートル。左前方の個体は進路を変えていません』
「なら後ろだけ見ればいい」
雪原の向こうに隆起が現れた。
先頭に2本。その後ろから、少し遅れてもう1本が続いている。
「最初の2体を舗装へ引き出して止める。3体目が来る前に片づけられれば楽だけど、間に合わなければ無理に仕留めなくていい。救助者へ行かせないことを優先するよ」
「了解です」
ヴァルカが細かな配置まで口にしなくても、ジードは左へ、ルネは長い間合いを取れる右へ入り、ガレスは救助者へ抜ける中央を塞いだ。
先頭の2体が100メートルを切る。
ジードは雪へ飛び出す直前の進路を分けるため、露出した舗装面へ二刀の柄尻を一度だけ当てた。硬い路面を走った振動へ片方の隆起が寄る。
もう1体にはガレスが別方向から重い振動を与えた。
「分かれました」
「そのまま引きつけて」
ヴァルカは正面の個体が舗装際まで来るのを待った。
隆起が消え、地中へ深く入る。
『正面個体、深度1.8メートルから上昇』
舗装の手前で雪が爆ぜ、円形の口が飛び出した。
ヴァルカは噛みつきの正面から身体を外し、灰白色の頭部へハンドアクスを斜めに入れる。突進の軌道を横へ逸らされたデルヴァが舗装面へ滑り、その後ろ半分がまだ雪へ残った。
すぐにルネの十文字槍が胴の下へ入り、十字の刃が外皮へ掛かる。
「雪へ戻る方、止めます!」
「お願い。無理に引き上げなくていいよ」
デルヴァが身体を捻るたび長い柄が撓むが、ルネは雪側への進路だけを潰した。
反対側へガレスが回り、グレートソードの広い刀身で胴を舗装へ押しつける。
「これなら潜れません」
潜行する角度を失った頭部へヴァルカが踏み込み、先ほど開いた外皮へもう一度ハンドアクスを入れた。
長い胴が舗装を叩き、雪を散らす。
ガレスとルネが位置を維持する間に、傷をさらに深く広げると、やがてデルヴァの抵抗が弱まり、その身体が路面へ沈んだ。
『1体目の生体反応が消失しました』
ジード側では、もう1体がすでに地表へ引き出されていた。
積雪側へ逃げようとするたび二刀で進路を塞ぎ、舗装面の中央へ少しずつ追い込んでいる。
「右へ抜けます!」
ルネがそのまま間合いを広げ、雪側へ向かう頭部の前へ十文字槍を入れた。
「雪へ戻さなければ十分です」
「ならこっちは任せてください」
反対側からガレスの大剣まで置かれ、逃げ道を失ったデルヴァは最も近いジードへ口を開いた。
突進へ正面から付き合わず、ジードが身体を外へ滑らせて頭部の側面を裂く。
その動きによって腹側がヴァルカへ晒された。
ハンドアクスが下から外皮を切り開き、反転しようとした頭部へ二刀がもう一度入る。
最後にルネの十文字槍が口元へ深く掛かり、暴れていた尾が何度か舗装面を叩いたあと、力を失った。
『2体目、反応消失。後続個体は43メートルまで接近しています』
すぐに3体目の方向へ向き直った。
その進路の先には救助者がいる。
「ルネ、振動で外へ引ける?」
「やります!」
ルネは保守班から離れる方向へ移動し、十文字槍の石突きを舗装面へ強く打ちつけた。
最初の衝撃では僅かにしか曲がらなかった隆起が、2度目には明確にルネ側へ向きを変える。
「来ました!」
「そのまま距離取って!」
ルネが救助者から離れると、雪中のデルヴァも追尾した。
足元近くで隆起が消える。
次いで雪が破れ、大きな口が飛び出した。
ルネは十文字槍の柄を斜めに当てて噛みつきを外側へ流そうとしたが、突進の勢いに靴底が雪を滑った。
ジードが側面から二刀を差し込み、頭部をさらに外へ押す。
「こっちへ回します。離れてください!」
「はい!」
ルネが間合いを取り直す間に、デルヴァは地表へ残った身体をくねらせて再び雪へ潜ろうとした。
その進路へガレスの大剣が落ちる。
胴を押さえられたデルヴァが激しく暴れるが、ヴァルカは救助者との距離を確認してから頭部へ回り、既に傷のある首元へハンドアクスを沈めた。
もう一撃を加えると、長い身体の抵抗がようやく止まった。
『3体目の反応消失。左前方の個体に進路変化はありません』
「なら、あっちはそのまま放置。こっちもすぐ出るよ」
ルネが十文字槍を握ったまま指を何度か開いた。
「手、痺れた?」
「少しだけです。でも動きます」
「見せて」
「隊長、本当に大丈夫です」
「確認するだけ」
手袋に裂けはなく、指もすべて動く。
「握力は?」
ルネは十文字槍を握り、軽く力を入れた。
「問題ありません」
「なら行こう。痛みが出たら途中で言ってね」
「はい」
余計なやり取りを続けず、すぐに救助者へ戻った。
「もう終わったんですか?」
ケンが3体の方を見ながら聞く。
「この辺はね。別のが来る前に行こう」
ケンを背負い直し、ガレスもミラを背中へ戻す。ジードとルネはロイと班長を支え、ハルの救助シートも再び持ち上げられた。
『第2地表昇降口まで残り約1キロです』
「やっと1キロか」
「今度はかなり近く感じますね」
「中継塔がもう目の前だからね」
残り1キロを切る頃には風がさらに強まり、歩いてきた足跡も数分で輪郭を失うようになっていた。
それでもエルドが拾うデルヴァの反応は遠ざかり、隊列を止めるものはない。
『残り620メートルです』
「もう少しですよ」
ルネが班長へ声を掛けた。
「今度はちゃんと安心させてくれるんだな」
「ここまで来れば言えます」
「さっきは駄目だった?」
「さっきはまだ遠かったですから」
「真面目なんだな」
「そう見えません?」
「隊長の隣にいると分かりにくい」
「何であたし基準なの」
笑いが少しだけ混じり、ロイも痛みに顔を歪めながら前を見ていた。
「帰ったら何します?」
ルネが聞く。
「まず治療だな」
「それは絶対として、そのあとですよ」
「俺は寝たい。腹より眠い」
「ケンは?」
「飯ですかね」
「それ、隊長の影響じゃない?」
背中から振られた。
「何であたしなの」
「さっきちゃんと食べろって言われたんで」
「そりゃ食べなきゃ治るものも治らないでしょ。治療終わったらちゃんと食べな」
「はい」
短い返事のあと、肩へ回る腕の力が少しだけ増した。
やがて外周フェンスへ辿り着いた。
第2地表昇降口は厚い防護壁に囲まれ、その中央で大型昇降機の扉が閉じている。認証端末には雪が積もっていたが、待機灯は青く点灯していた。
「着いた……」
ロイが長く息を吐いた。
「今度は言っていいよ。着いた」
「隊長から許可が出た」
「そこまで厳しくしてないでしょ」
『第8小隊の帰還認証を開始します』
ヴァルカが認識バンドを端末へかざす。
数秒後、青い待機灯が緑へ変わった。
『認証完了。第2地表昇降口を開放します』
重い機械音とともに防護扉が左右へ開き、その向こうに大型昇降機が現れた。
「保守班から入って」
ガレスがミラを背負ったまま入り、ジードとルネもロイと班長を支えて続く。ハルの救助シートも中へ運び、最後にケンを背負ったヴァルカが境界を越えた。
全員が内側へ入ったところで、外の風がまだ背中へ吹き込んでくる。
「エルド、閉めて」
『了解しました』
防護扉がゆっくり閉じ始めた。
白い地表が狭まり、風の音も小さくなる。
最後の隙間が消え、金属同士が噛み合う重い音とともに、地表の風が完全に遮断された。
班長は壁際へ座ったまま、ハルの救助シートへ手を置いている。
ケンも、ロイも、ミラもいる。
それをヴァルカが数え直す必要はなかった。
『第8小隊4名、B-17保守班5名の収容を確認しました』
「下降お願い」
『第2地表昇降機、下降を開始します』
低い駆動音が床下から響き、足元へわずかな浮遊感が走った。
昇降機が地表から離れていく。
「隊長」
背中からケンが呼んだ。
「何?」
「もう下ろしてもらって大丈夫です」
「あ、そうだった」
「忘れてたんですか?」
「軽いから」
「またそれ言うんですね」
「ガレスにも言われたんでしょ?」
「はい」
「なら事実なんじゃない?」
ヴァルカがしゃがむと、ガレスが横からケンを支え、負傷した左脚が床へぶつからないよう班長の隣へ座らせた。
「ありがとうございました」
「うん。今度は受け付ける」
「さっきまでは駄目だったんですか?」
「地下に着いてからって言ったでしょ」
「まだ昇降機ですけど」
「もう下がってるんだからいいの」
「やっぱり雑だなぁ」
ケンの横で班長も息を吐いた。
「なら俺からも。ありがとう」
「苦情もあるんじゃなかった?」
「それは治ってから考える」
「忘れていいよ」
「そっちは忘れない」
「面倒だなぁ」
ようやくヴァルカも壁へ身体を預けた。
脚から力を抜いたところをジードに見つかる。
「やっぱり疲れてるじゃないですか」
「そりゃ疲れるよ」
「さっきは平気だって」
「怪我してないって意味でしょ」
「じゃあ疲労は認めるんですね」
「認める認める。もうそれでいい?」
「十分です」
ルネも班長から離れ、床へ座った。
「私も脚が重いです。明日絶対きますよ」
「何が?」
「筋肉痛」
「ルネは班長支えて歩いたからね」
「隊長もケンさん背負ってましたよ」
「あたしは鍛えてるから大丈夫」
「それは明日判断しましょう」
「ガレスまで何で乗ってくるの」
「結果が分かる話ですから」
「絶対来ないからね」
それ以上全員で弄り続ける前に、ガレスはミラの状態を確認した。
「エルド、医療班は?」
『すでに待機しています。到着後、ミラさんとケンさんを優先して搬送します。続いて班長とロイさんを診察。ハルさんは遺体回収担当へ引き継ぎます』
班長の手が、救助シートの上で僅かに動いた。
「……帰れたな」
ヴァルカはその言葉が誰へ向けられたものかを尋ねなかった。
「ああ」
それだけ返した。
昇降機は下降を続ける。
地表へ向かう時には妙に長く感じる時間が、この帰りには思ったより短かった。
やがて床下の駆動音が変わり、減速が始まる。
『ネオ・ヘイヴン第2地表昇降区画へ到着します』
「医療班が来るから、動けない人はそのまま。第8は搬送の邪魔にならない位置へ出よう」
「了解です」
今度は誰もヴァルカの言い方へ突っ込まなかった。
昇降機が停止し、ロックが外れる。
開いていく防護扉の向こうに、白い雪ではなく人工照明に照らされた灰色の床が現れた。
複数のストレッチャーと医療班が待機している。
「GRID第8小隊、帰還。B-17保守班5名を収容、負傷者4名、死亡1名です」
ジードの報告を受け、医療班が一斉に動き始めた。
最初にミラがガレスの背からストレッチャーへ移される。
「ロイ……」
「ここにいる。先に行け」
「あとで……」
「ああ」
ミラが運ばれ、続いてケン、班長、ロイの状態確認が始まった。
ヴァルカたちは通路を塞がない場所まで下がり、医療班へ引き継がれていく4人を見守った。
最後にハルの救助シートが運び出される。
ストレッチャーへ移された班長は、その姿が通り過ぎるまで見送り、それからヴァルカを呼んだ。
「隊長」
「何?」
「5人とも連れて帰ってくれたな」
「ああ」
「ありがとう」
「治ったら苦情も聞いてあげるよ」
「考えておく」
「そこは忘れていいんだけどな」
ストレッチャーが動き始める。
ケンも運ばれる直前に片手を上げた。
「隊長!」
「何?」
「ちゃんと飯食います!」
「おう、食べな!」
「隊長も休んでください!」
「そっちは任せて!」
「絶対ですよ!」
「患者がしつこいな!」
ケンが笑ったまま通路の奥へ運ばれていった。
ロイも班長も、ミラも見えなくなる。
ハルも同じ方向へ運ばれていった。
医療班の足音が遠ざかって初めて、ヴァルカは腰へ両手を当てて長く息を吐いた。
「……終わったぁ」
「ここで座るなら止めませんよ」
ジードが横から言った。
「何で?」
「もう救助対象を背負ってませんから」
「じゃあ座ろうかな」
「本当に座るんですか?」
「お前がいいって言ったんでしょ」
「床ですよ」
「今さらでしょ」
ヴァルカは本当に壁際へ腰を下ろした。
ルネもその隣へ座る。
「あ、私も」
「お前は明日筋肉痛なんでしょ」
「隊長もですよ」
「まだ言う?」
ガレスも近くの壁へ背を預けた。
「明日になれば分かります」
「絶対来ないって」
「では明日確認しましょう」
「何でそれが予定になるの」
ジードだけは立ったまま、4人の装備記録を確認していた。
「休んでる場合じゃないですよ。装備返却と任務報告が残ってます」
ヴァルカの顔から一気に力が抜けた。
「……報告書あったね」
「デルヴァとの交戦、保守班5名の捜索、救助、遺体回収、途中待避。かなり書くことありますよ」
「地表戻ろうかな」
「そっちの方が嫌です」
ルネが笑った。
「隊長、報告終わったらご飯行きません?」
「行くよ」
返事だけは早かった。
「そこは迷わないんですね」
「動いた分は食べないと損でしょ」
「ケンさんに言ってたの、本当に自分基準だったんだ」
「悪い?」
「いいえ。隊長らしいです」
ヴァルカは立ち上がり、壁へ置いていたハンドアクスを取った。
「じゃあ先に報告片づけるよ。終わったら飯」
「賛成です」
「私も」
「異論はありません」
第8小隊の4人が通路を歩き始める。
後ろでは第2地表昇降機の防護扉が再び閉じていった。
今度は誰も振り返らなかった。
白い地表に残してきたものはあるが、迎えに行った5人は全員ここまで連れてきた。
その仕事は、もう終わっていた。
地表任務を終えた第8小隊の4人は、その音を聞きながらネオ・ヘイヴンの通路を並んで進んでいった。
第31話「帰還」でした。
長くなった第8小隊の地表任務も、これでひと区切りです。
生きて帰ることのできた4人と、帰ることのできなかった1人。
それでもヴァルカたちは、約束した5人全員をネオ・ヘイヴンまで連れて帰ることができました。
ここまで第8小隊とB-17保守班の救出任務を見届けてくださり、ありがとうございました。
そして地表に残った、正体不明の小さなドローン。
あれが何だったのかは、またいずれやる‥かもしれない。




