偽物の空の下で
今回は少しだけ毛色の違うお話です。
戦いはありません。
アバレントも出てきません。
主人公も出てきません。
24話の翌日。
ネオ・ヘイブンで暮らす、一人のGRID隊員が街を歩くだけのお話です。
ですが、この物語で描きたかったのは「戦う人」ではなく、「戦ったあとに生きている人」でした。
普段とは少し違う、一人称視点でお送りします。
少しでも、この世界の日常を感じてもらえたら嬉しいです。
今日も偽物の空は青い。
毎日見ているはずなのに、今日は少しだけ腹が立った。
ベランダから見える人工空は、地下だということを忘れそうになるくらい綺麗だった。
薄く流れる雲。
ゆっくり色を変える照明。
どこまでも続いているように見える青。
全部、本物じゃない。
私は小さく息を吐いた。
部屋へ戻るときちんと整えたベッド。
窓辺の小さな観葉植物。
棚の整備マニュアルと読みかけの詩集。
壁際の弓型アークブレード。
そして
テーブルの上のそのまま置いた昨日脱いだ制服
普段なら帰ってすぐ畳むんだけど昨日は、それができなかった。
制服を見つめたまま立ち尽くす私。
昨日の白い地表。
頭の奥へ浮かびかけた光景を、私はゆっくり首を振って追い払おうとするんだけど。
部屋にいると考えすぎてしまう。
今日は外へ出よう。
◆
パン屋でサンドイッチを一つだけ買った。
合成肉を挟んだ、いつものやつ。
店員は何も言わないし私も何も言わない。
袋だけ受け取って店を出たんだ。
◆
偽物の空が広がる中央広場で子ども達が走っている。
その親も笑ってる。
噴水は今日も決まった時間に水を噴き上げている。
昨日も今日も。
何も変わらない。
私は歩き続けた。
◆
いつものコーヒースタンドの前を通ると苦い香りが風に乗ってきた。
少しだけ立ち止まる。
……今日は飲む気になれなかった。
そのまま歩き出す私をスタンドのマスターが見ていた。
でも何も声は掛けてこなかった。
なんだかそれが少しだけありがたかった。
◆
商店街は今日も賑わっている。
整備部品。
衣類。
保存食。
工具。
笑い声。
値切る声。
子どもの泣き声。
昨日までと同じ景色。
だけど。
その”いつも通り”を見ているだけで胸が少し苦しくなる。
私は何を探して歩いているんだろう。
落ち着ける場所。
そう思って外へ出た。
でも。
そんな場所なんて最初から無いことくらい、自分でも分かってるんだ。
◆
展望デッキに来たのは人工空が一番よく見える場所だから。
誰もいなくて静かな風だけが吹いてる気がした。
ベンチへ腰掛けて袋からサンドイッチを取り出す。
一口。
また一口。
味なんてよく分からなかった。
食べ終わったら少し喉が渇いた。
でも、それくらいでちょうどよかった。
両手を膝へ置いたまま、しばらく空を見ていた。
青い。
本当に綺麗なくらい青い。
だから余計に腹が立つ。
昨日あんなことがあったのに。
この空だけは何も知らない顔をしている。
◆
帰ろう。
誰に言われたわけでもないけど。
気がついたら自然に立ち上がってた。
帰り道に見えた通路の壁には新しい補修跡がある。
そして普段より少しだけ静かな通り。
誰も何も言わない。
でも街全体が昨日の出来事を覚えている。
中層居住区を通ると。
一軒。
また一軒。
窓から漏れる灯りが見えた。
誰かが夕食を囲んでいる。
誰かが笑っている。
誰かが今日も帰ってきた。
昨日守ったのは。
きっと、こういう灯りだった。
私は立ち止まってゆっくり顔を上げた。
偽物の空は、やっぱり青かった。
今日も偽物の空は青い。
きっと明日も青い。
……だったら私は、もう少しだけ歩いてみよう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
今回は実験的に、一人称視点だけで構成した日常回でした。
主人公の名前は最後まで出していません。
部屋の様子から「あの隊員かな」と気付いていただけたなら嬉しいですし、読み返した時に「ああ、そういうことだったのか」と思っていただけたなら、この構成にした意味があったと思っています。
24話では「何を倒したか」を描きました。
25話では「何を守ったのか」を描きたかった。
派手な戦闘はありませんが、自分でもとても気に入っている一話になりました。
次回26話からは、いつもの『ラストスカイ・アンダーグラウンド』へ戻ります。
これからもよろしくお願いいたします。




