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廃棄地区の解答

第18話から続く、第2小隊と変異指揮種の戦いです。


力も速さも並のアバレントを大きく上回り、さらに戦いの中で相手の動きを覚えていく変異指揮種。


長年同じ3人で戦ってきた第2小隊にとって、その連携を読まれるということが何を意味するのか。


今回はほぼ戦闘回です。

変異指揮種は着地で砕いた路面をさらに踏み込み、雪と瓦礫を後方へ弾き飛ばしながらシエルへ迫った。建物の2階へ届こうかという巨体が一気に間合いを潰し、振り下ろされた右腕が地面へ届く寸前でシエルは身体を横へ逃がしたが、拳が路面を砕いた衝撃だけでも足元の雪が跳ね上がり、続けて振られた左腕が退路を塞ぐように横から迫ってくる。

 シエルは後ろへ下がらず、身を沈めて腕の下を潜りながら両刃剣を脇腹へ走らせた。踏み込みから身体の回転へ繋いだ青白い刃は毛並みを裂いて肉へ入ったものの、見た目以上に厚い筋肉へ阻まれて深く届かず、反対側の刃を重ねる前に変異指揮種が身体を捻ってシエルを弾き出す。

「見た目以上に硬いな」

「なら柔らかいところを探すしかない」

 アンが左側から入り込む一方、ラルクは変異指揮種がシエルを追う軌道へハルバードを差し込み、肩口へ刃を当てて進路を外へ流そうとした。普段の大型種ならそれだけで踏み込みを崩せるところを、変異指揮種は僅かに身体を傾けただけで押し切り、ラルクごと振り払うように右腕を返してくる。

 まともに受けずに柄を滑らせたラルクは衝撃の大半を横へ逃がしたが、それでも身体を数メートル押し飛ばされ、崩れた外壁へ肩を当てて止まった。

「ラルク、動ける?」

「問題ない。まともには食らってない」

 その返事を待たずアンは変異指揮種の背後へ入り、戦鎌の内側を首筋へ滑らせるように引いた。刃は毛並みを裂いて浅い傷を残したが、巨体が振り返る動きそのものに押し返され、アンは無理に食い下がらず外へ離れる。

『今のラルクさんの攻撃以降、右肩の動作に遅延が出ています。左側との差は平均0.18秒です』

「0.18秒なら使えるな。アン、右肩だけ狙うのはまだ早い」

「気づかせない方がいい?」

「ああ。今まで通り動いて、遅れた時だけ拾おう」

 変異指揮種がラルクへ向き直り、雪を蹴って真正面から距離を詰める。ラルクは力比べを避けて右側へ回りながらハルバードを肩へ当て、巨体を左へ流したところで右腕の戻りが僅かに遅れた。

 そこへシエルが入り、前端の刃でラルクが傷つけた肩口をなぞるように切り開くと、回転を止めずに後端を同じ箇所へ重ねた。変異指揮種が左腕でシエルを払おうと身体を捻ったため、追撃へ入るはずだったアンは一度外へ退き、代わりに空いた脇腹へ戦鎌を走らせる。

 右肩から流れた血が毛並みを濡らし、変異指揮種は低い咆哮を上げながら3人をまとめて遠ざけるように両腕を振った。シエルたちはそれぞれ別方向へ離れたが、巨体はすぐに追わず、傷ついた右腕を僅かに引いたまま3人の位置を順に追っている。

「痛い場所くらいは分かるらしいな」

「分からない方が助かるんだけどね」

『右肩の可動速度はさらに低下しています。ただし移動速度そのものに大きな変化はありません』

「なら足は止めずにいく。あそこだけに気を取られるなよ」

 シエルが言い終える頃には変異指揮種が再び踏み込み、今度はアンへ向かった。戦鎌の間合いへ入る寸前でアンが左へ抜けると、巨体は追いすがる代わりに途中で進路を変え、右側へ回っていたラルクへ踏み込むと、その勢いを外へ流そうと差し込まれたハルバードへ左腕を先回りさせ、いつもなら押し出された先へ入るはずのシエルの位置を薙いだ。

 シエルはそこへ踏み込まず反対側へ回っていたため攻撃そのものは空振りに終わったが、今までと違う反応には3人とも気づいていた。

「今の、俺が押す方向を待ってたな」

「俺が入る場所まで含めてだ。ペイロ、直前までの動きと重ねられるか?」

『確認します。戦闘開始以降の展開位置と対象の回避方向を照合しますので、そのまま距離を維持してください』

 変異指揮種は右肩を庇ったまま低く身体を沈め、次に誰が動くかを待つように3人の足運びを追っている。

『直近4回の攻防で、対象は第2小隊の移動先を先読みするように攻撃方向を変えています。偶然と判断するには一致率が高すぎます』

「私たちの動きを覚えてるってこと?」

『少なくとも直前の連携を記憶し、次の行動選択に利用している可能性があります』

「なるほどね」

 アンが変異指揮種との距離を崩さないまま答え、シエルも右肩の傷ではなく巨体全体の動きを見るように切り替えた。

 第2小隊は結成以来ほとんど同じ3人で戦い続けている。ラルクが大型種の進路を変えれば、シエルは相手が流れてくる位置へ入り、アンはその外側から死角を潰す。その形をいちいち確認する必要がなくなって久しいからこそ、数度見せただけでも一定の規則として拾われたらしい。

「じゃあ、いつものやり方をやめよう」

「急だな」

「まさか、出来ないとか言わないよな?」

「言ってろ」

 ラルクが変異指揮種へ踏み込み、これまでなら左へ押す位置からハルバードを当てた。相手がそれを読んで身体を左へ開いたところで、柄を送りながら力の向きを逆へ変え、巨体を右側へ押し戻す。

 予測していた方向を外された変異指揮種が体勢を整えようとした先では、アンがシエルのために空けていたはずの内側へ自分から入り、戦鎌を脇腹へ深く引っ掛けてさらに身体を回した。

 シエルは2人が作った空間へすぐには飛び込まず、変異指揮種がその位置を警戒して左腕を向けたのを確認してから反対側へ抜け、開いた肩口へ両刃剣を走らせる。

 右肩を守ろうとしていた巨体の反応が一拍遅れ、刃は今度は左肩へ入った。

『回避予測に乱れが出ています』

「そのまま続ける。決まった順番に戻すな」

 そこから第2小隊の連携は、形だけを次々と変えていった。

 ラルクが押した先へシエルが入らず、代わりにアンが距離を詰めれば、次にはアンが相手を崩した位置をラルクが使う。シエルも2人の動きに合わせて必ず攻撃へ入るのではなく、変異指揮種が自分を待つ位置を作ったところで別方向へ移り、警戒が外れた箇所だけを切り取る。

 長く同じ3人で戦ってきたからこそ、決まった型から外れても誰かが孤立することはなく、1人が動きを変えれば残る2人もその意味を拾い、その場で次の形へ繋げていく。

 変異指揮種もすぐに対応を始め、シエルへ向かうように見せながら途中でアンへ進路を変え、ラルクが受けに入ればその手前で横へ跳び、3人の位置を崩そうと何度も軌道を変えた。

「向こうも合わせてきたな」

「覚えるだけじゃないみたいだね」

「なら考えさせ続ければいい。答えを固定させるな」

 シエルへ向かった巨体が途中でラルクへ切り替わり、振り下ろされた左腕をハルバードの柄で外へ流そうとする。変異指揮種はその動きを読んで腕を引き、逆側から右腕を振ったが、傷ついた肩の遅れまでは消えていない。

 シエルはそこへ刃を重ねず、右を庇ったことで左へ寄った重心だけを利用して脇腹へ浅い一撃を入れ、そのまま抜ける。追うように身体を回した変異指揮種の前脚へアンが戦鎌を滑らせ、地面を蹴る位置を外へずらしたことで巨体の肩が大きく傾いた。

 ラルクは倒し切ろうとせず、その傾きを維持するように左肩へハルバードを当てて押し込む。

『左脚への荷重が急増しています。踏み直しが遅れています』

「なら左を崩したまま右へ逃がさない」

 シエルが伝えると、アンは戦鎌を脚へ残したまま無理に傷を深くせず、ラルクも肩へ掛けた圧力を維持して巨体の逃げ道を狭めた。

 変異指揮種は右腕を地面へ叩きつけて強引に身体を支え、そのまま腕を軸に回転して3人を振り払う。雪と砕けた石片が一気に舞い上がり、視界が白く濁ったところでシエルたちは無理に攻めず、互いの位置を崩さないまま数歩ずつ距離を取った。

『対象が雪煙の奥で移動しています。現在シエル隊長から正面18メートル、速度上昇中です』

 ペイロの報告に続いて白い幕を突き破るように巨体が現れ、左腕を振り下ろしながらシエルへ踏み込んだ。

 シエルはいつもなら外へ抜けるところを一歩だけ内側へ入り、腕の下を潜って胸元へ抜ける。変異指揮種は右肩を庇ったまま振り返ろうとしたが、その先にいるはずのシエルを追うことに意識を向けたことで、反対側から入ったラルクへの反応が遅れた。

 ハルバードの柄が脇腹へ当たり、巨体をアンのいる方向へ押し出す。

 アンは攻撃を重ねずに道を空けた。

 変異指揮種は戦鎌が来るものと読んだのか左側を庇うように身体を捻ったが、実際には何も触れず、その動きによって正面と首元だけが大きく開いた。

「今の形を崩さないでくれ。俺が正面から入る」

「右は押さえる」

「左脚は任せて」

 ラルクが右側からハルバードを押し当て、アンが踏み出そうとする左脚へ戦鎌の柄を掛けることで巨体の進路がほぼ正面へ固定された。

 シエルはこれまでのように左右から傷口を拾わず、真正面から距離を詰める。

 変異指揮種は左腕を振り下ろしたが、シエルは半歩だけ外して懐へ入り、踏み込みと身体の回転を一つに繋げながら両刃剣を首筋へ走らせた。前端が毛並みを割って深く入り、巨体が右腕を戻して傷口を守ろうとしたところへ回転した後端が同じ箇所をさらに切り開く。

 ラルクが右腕の軌道を外へ押し、アンが前脚を払ったことで変異指揮種は片膝を雪へ沈めたが、なおも左腕で地面を掴み、身体を起こそうとする。

「まだ力が残ってる。首を上げさせないでくれ」

 シエルの声に合わせてラルクが肩口へ圧力を掛け、アンも戦鎌を左前脚の後ろへ回して踏み込みを止めた。

 巨体が無理に身体を起こそうとして首を持ち上げた分だけ喉元が開き、シエルは両刃剣の前端を顎下から深く送り込み、身体を捻りながら刃を横へ抜いた。

 変異指揮種の力がそこで一気に抜け、支えていた左腕が崩れる。

 3人は倒れ込む巨体から同時に離れ、雪と路面を押し潰しながら前へ伏した身体が完全に止まるまで距離を保った。

『生命反応が低下しています……停止しました。変異指揮種の活動停止を確認します』

 ペイロの報告を受けてもすぐには近づかず、シエルたちは周囲に残るハウラー級の動きを確認した。

 それまで一定の間隔を保って変異指揮種の周囲を取り囲んでいた個体は、指揮する存在を失った途端にまとまりを崩し、建物の陰へ逃げ込むものと雪原の外へ走り去るものに分かれていく。

『周辺のハウラー級に統率行動は見られません。複数個体がC-12外縁へ移動しています』

「変異指揮種って呼び方は、間違ってなかったみたいだな」

 ラルクの言葉にシエルが頷き、アンは雪へ倒れた巨体と、その周囲に残る戦闘跡を見比べた。

「……これ相手に、第7小隊は撤退できたんだね」

「しかも最初からこいつを狩りに来たわけじゃない」

 シエルは変異指揮種の肩へ残った傷を確認しながら続ける。

「俺たちは第7小隊の記録を持って、何がいるか分かった上でここへ来た。向こうはハウラー級に囲まれてから、初めてこいつと戦ったんだ」

「条件が違いすぎるな」

「ああ。それに全員が帰れたわけでもない」

 アンもそれ以上は何も言わなかった。

 第7小隊が残した記録があったからこそ、変異指揮種の存在を前提に戦うことができ、群れの動きにも早く気づけた。その記録の中には、ここから帰れなかった隊員がいたことも残っている。

『周辺走査を継続します。現時点で帰還経路上に新たな大型反応はありません』

「それなら本部に討伐完了を送ってくれ。こっちは帰りながら周囲を見る」

『了解しました。戦闘記録も併せて送信します』

「頼むよ。さすがに今日はもう呼び戻されないだろ」

「それ、帰るまで言わない方がいいんじゃない?」

 アンの言葉にシエルが足を止めかけた。

「今さら縁起を気にするのかよ」

「隊長が今日だけで2回も休む話してるから」

「最初のは本部に潰されたんだぞ」

「俺はまだ飯を諦めてないからな」

 ラルクが当然のように加わると、アンが呆れた声を返す。

「そこまでいくと執念だね」

「帰還理由としては十分だろ」

「任務を終えたから帰るんだよ」

「結果は同じだ」

「違うだろ」

 3人は散開したハウラー級が戻ってこないことを確かめながら、雪に残した自分たちの足跡を辿ってC-12を離れていく。


 後ろには、長く廃棄地区へ残されていた変異指揮種の巨体だけが動かず横たわっていた。

第7小隊がC-12に残した標的は、第2小隊によってようやく討伐されました。


ただ、第2小隊が勝てたからといって、第7小隊より単純に強かったという話にはしたくありませんでした。


何がいるかも分からず、多数のハウラー級に囲まれた状態で遭遇した第7小隊。


事前にその記録を受け取り、討伐を目的として送り込まれた第2小隊。


同じ敵でも、置かれていた条件はまるで違います。


そして今回書きたかったのは、第2小隊の「完成された連携」だけではなく、完成されているからこそ、それをその場で崩しても互いについていける強さでした。


シエル、アン、ラルク。


この3人は書いていてかなり楽しい小隊になりました。


次の任務までには、シエルがちゃんと休めて、ラルクが飯にありつけていることを願います(笑)。

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