灰雪の目撃者
第13話です。
今回は第3小隊、レイジたちが中心となる回です。
普段の食堂でのやり取りから一転、地表へ向かった住民マルクの捜索任務へ。
その先で彼らが出会うものとは。
第7小隊とはまた違った小隊の雰囲気も楽しんでいただけたら嬉しいです。
ネオ・ヘイヴン中層区画にあるGRID隊員用食堂は、昼時ともなれば所属小隊の区別もなく人が集まり、金属製の食器が重なる音と隊員たちの話し声が広い室内を絶えず行き交っていた。
その一角では第3小隊が長いテーブルを占領しており、中央に座ったレイジがスプーンを片手に、つい先日の地表任務で仕留めたアバレントの話を大袈裟な身振りまで交えて披露している。
「あれは俺も綺麗に決まったと思ったな。横から入れてやったら、そのまま斜面を転がっていってさ」
「綺麗どころか最後の方はもう何が転がってるのか分かりませんでしたよ。隊長だけ腹抱えて笑ってるし」
アシュが食事の手を止めて笑うと、向かいのセイルも呆れたようにフォークを置いた。
「自分まで一緒に転がっていかないか、こっちは本気で心配していたんですけどね」
「お前も笑ってただろ」
「危険すぎて笑うしかなかったんですよ」
『俺は映像越しだったから安心して笑えたけどね。現地にいたら普通に引いてたと思うよ』
テーブル脇に開いた通信窓の中からノアまで加わり、レイジが「味方がいねぇな」と笑いながら残ったスープを口へ運ぶ。
ツキノは騒ぎには加わらず静かに食事を続けていたが、隣のダリウスは食後のコーヒーを片手に一通り聞き終えると、整えられた顎髭を撫でながら穏やかに口を開いた。
「皆さんがお元気なのは何よりですが、せめて食事中くらいはアバレントが斜面を転がる話以外にしていただけませんか。少々、食欲に影響します」
「ダリウスさんまで言うのかよ」
「年長者からのお願いです」
「それ言われると弱いんだよな」
レイジが苦笑し、アシュがまた笑い始めたところで、通信窓のノアが何かを確認するように視線を横へ動かした。
『悪い、そこで一旦止めて。任務が入った』
それまでの調子が消えた声に、ツキノが真っ先に顔を上げる。
「内容を」
『下層区画の住民が1名、地表へ出たまま戻ってない。管理記録から対象を特定したけど……たぶんみんな知ってるよ。マルクだ』
アシュが露骨に眉を寄せた。
「マルクって、あの脱ネオ・ヘイヴンを叫んでるおっさん?」
『そのおっさん。本人はアストラ陰謀論って呼ばれるのを嫌ってるらしいけど』
「だったら自分からあれだけ喋らなきゃいいでしょうに」
セイルは呆れながらも食器を端へ寄せ、すでに任務へ意識を切り替えている。
レイジも椅子へ深く座り直した。
「いつ出た?」
『正確な時間が分からない。そこが問題なんだよ。正規の地表ゲートに通過記録がないのに、外部監視設備が地表側でマルクの認識バンドを拾ってる』
「勝手に地表へ出たことより、そっちの方が面倒だな」
レイジの横でツキノもわずかに眉を寄せる。
「最後に確認された位置は?」
『西側地表施設から北西へ約2キロ。そこから先は反応が途絶えてる。周辺にアバレントの活動記録もあるから、管理局からGRIDへ捜索要請が来た』
「生きていれば保護、生死が確認できなければ可能な範囲で捜索継続。そんなところか」
『だいたいそれで合ってる。正式な任務情報は今送った』
レイジは自分の端末へ届いたデータを一通り確認すると、食べかけの皿へ視線を戻した。
「分かった。食ったら出る」
ツキノが横を見る。
「すぐに準備を始めなくてよろしいのですか」
「あと5分で食える。空腹のまま地表へ出て判断が鈍る方が嫌だ。装備区画には出動準備だけ先に回しておいてくれ」
「合理的ではありますね」
セイルが残ったスープを飲み始めると、アシュも急いで食事へ戻った。
「そう言われると急いで食いたくなるな。マルクのおっさん、生きて待っててくれよ」
「慌てて喉へ詰まらせたら、救助へ行く前にあなたを医療区画へ運ぶことになりますよ」
「セイル、それは流石に洒落にならんな」
ダリウスがゆっくりカップを置き、立ち上がる準備をしながら微笑んだ。
「焦る必要はありませんが、長居する必要もありません。食べ終えた方から装備区画へ向かいましょう」
「そうしよう。俺はあとこれだけだから先に行くぞ」
レイジは皿に残った最後の一口を掬い、食べ終わると椅子を引いた。
「ノア、出るまでにマルクの移動経路と地表へ出た方法を洗っといてくれ。誰かが手を貸したなら、そいつの痕跡も欲しい」
『了解。そっちは俺が探しときます』
「頼んだ。俺たちは本人を連れ戻してくる」
食堂を出た第3小隊が装備保管区画へ入る頃には、ラックからそれぞれの装備が引き出され、整備担当者による最終確認が始まっていた。
レイジは自分の大剣型アークブレードを受け取ると、両手で重量を確かめてから背部マウントへ固定する。
「毎回思うけど、任務前だけ少し重くなってないか、これ」
「装備は昨日と同じ重量ですよ。隊長の筋力が落ちてるんじゃないですか?」
アシュが横から口を挟みながらシミター型アークブレードを受け取り、発振確認を終えて腰へ収めた。
「昨日の今日で落ちるか。お前こそ回して遊ぶなよ」
「今日はまだ何もしてませんって」
「今日は、って言いましたね」
セイルがボウ型アークブレードの照準補正を確認しながら横目を向けると、アシュは何も答えず視線を逸らした。
少し離れたラックではツキノが薙刀型アークブレードの長柄を持ち上げ、発振部からグリップまで順番に状態を確かめており、ダリウスは大型のバトルアックス型アークブレードを受け取ると、整備士の前で軽く構えて重心を確かめた。
「いつ見ても、それを片手で扱うのは理解できませんね」
整備士が呆れたように見上げる。
「両手で持つこともありますよ。私はそこまで若くありませんので」
「そういう問題じゃないんですけどね」
ダリウスは楽しそうに笑って斧を背負った。
全員の装備が揃ったところでレイジは端末に表示された小隊の状態を確認し、誰かの返事を待つ代わりに出入口へ向かう。
「地表へ上がったらマルクの反応が途絶えた地点まで直行する。アバレントとの戦闘は避けられるなら避けるぞ。今日は討伐じゃなく人探しだ」
「珍しく隊長が戦闘を避けるって言ってる」
「アシュ、お前は俺を何だと思ってる?」
「大剣を持たせると楽しそうな人じゃないですか?」
「否定しづらいのが腹立つな」
最後にツキノがバイザーを下ろし、5人はそのまま地表昇降施設へ向かった。
地表エレベーターは重い駆動音を残しながら、ネオ・ヘイヴン深部から地表へ向かって上昇していた。
壁面の表示で高度が変わっていくのを眺めていたアシュが、ふと思い出したように口を開く。
「マルクのおっさんって、結局何をそこまで地表で確かめたかったんですかね。あの人、いつも地下に閉じ込められてるとか、地表について管理局が嘘ついてるとか言ってたでしょう」
「言っていましたね。『自分たちは保護されているのではなく飼われている』という主張もありました」
セイルが端末から顔を上げる。
「もっとも、地表へ出れば自分の説を証明する以前に凍死しかねませんが」
「そこまでして確かめたい何かがあったんでしょう」
ツキノはマルクの個人情報をバイザーへ表示しながら続けた。
「少なくとも衝動的な行動ではなさそうです。非常用防寒装備と数日分の携行食を持ち出しています」
「準備して出たのか」
レイジが壁から身体を起こした。
「だったらますます、どうやってゲートを抜けたのかが気になるな。ノア、何か拾えたか?」
『正規ゲートは全部白。保守用アクセスも記録上は閉鎖されたまま。ただし、監視ログに妙な欠け方をしてる時間帯がある』
「故障か?」
『それなら前後にエラーが残る。でも今回は何もない。映像も入退室記録も、そこだけ最初から存在しなかったみたいに綺麗に抜けてる』
先ほどまで軽口を交わしていたアシュも真顔になった。
「それって誰かが消したってこと?」
『まだ断定はできないけど、俺ならそう疑う』
ダリウスが腕を組んだまま考える。
「マルク本人にそこまでの権限があるとは思えませんな」
「ああ。本人を見つけたら、まずそこから聞く」
レイジが前方の扉を見ると、地表到達までの表示は残りわずかになっていた。
「生きてりゃ全部聞ける。死なせる前に拾いに行こう」
同じ頃、ネオ・ヘイヴンのどこかにある照明を落とした一室では、複数のモニターが地表エレベーター内部を映していた。
第3小隊の映像を眺めていた男は、レイジとノアの会話が終わるまで動かず、最後に監視ログの欠損へ話題が移ったところでコンソールへ指を伸ばした。
数回の操作を受けて別の画面が開き、内部監視記録へのアクセス履歴が表示される。
男はそこからいくつかの項目を選択し、確認表示にも迷わず承認を返した。
『SURVEILLANCE RECORD : ERASED』
『ACCESS TRACE : CLEARED』
処理完了の表示を確認すると画面を閉じ、再び地表エレベーターの映像へ戻す。
レイジたちはこちらの存在を知らないまま地表へ近づいている。
男はそれを最後まで見届けることなく席を立ち、モニターだけを暗い部屋へ残して出ていった。
地表エレベーターの扉が開くと、吹雪を巻き込んだ冷気が一気に内部へ流れ込んできた。
先頭のレイジがフードを上げながら外へ出て周囲を確認し、その後ろからツキノ、アシュ、セイル、ダリウスが一定の間隔で雪上へ降りる。
視界は悪いものの、地形そのものは事前情報と一致しており、雪に埋もれた道路跡の向こうには崩れた建造物がいくつも並んでいた。
「ノア、マルクの最後の反応をこっちへ出してくれ。それと周辺の大型反応があれば先に知りたい」
『マーカー送った。生体反応は今のところ無し。ただ、吹雪のせいで探査範囲が少し落ちてるから、建物の陰までは保証できない』
「十分だ。まず最後の地点へ行く」
第3小隊が北西へ進み始めて間もなく、ツキノが雪面へ視線を落とした。
「隊長、こちらを」
レイジが隣へ寄ると、吹雪で半分埋まりかけた足跡が建物群の方向へ続いている。
「人間のものか?」
「大きさは一致します。ただし途中から別の痕跡が重なっています」
数メートル先では雪面が広く抉れ、何かが腹を擦るように横切った跡と、その周囲に複数の爪痕が残っていた。
アシュがしゃがんで覗き込む。
「これ見てると、無事って方へ賭けたくなくなるな」
「まだ死体を見たわけじゃない。足跡が続いてるなら追うぞ」
レイジは人間の痕跡を拾い直して建物群へ向かう。
古い道路を越えたところで、セイルが横手へボウ型アークブレードを向けた。
「右の建物、動きました」
その声とほぼ同時に崩れた外壁の陰から灰白色の細い身体が飛び出し、雪面を低く走って第3小隊へ向かってくる。
「レイス級が3体。マルクの捜索範囲から離れないよう、ここで片付けるぞ」
レイジは大剣型アークブレードを抜き、正面から来た1体へ踏み込んだ。
青白い発振刃とともに横へ振り抜いた一撃を受け、レイス級の身体が進行方向を変えるほど弾かれて雪面を転がる。
その脇を抜けようとした2体目にはアシュが低く潜り込み、シミターの湾曲した刃を腹部へ滑らせるように走らせた。
「こっちは止めた! セイル、奥のやつ頼む!」
「見えています。そのまま右へ抜けてください」
アシュが射線から外れると同時に光矢が吹雪を裂き、最後のレイス級の眼球へ突き刺さる。
怯んで頭部を振った個体へツキノが長柄を滑らせるように間合いを詰め、薙刀型アークブレードで前脚を断つと、崩れた巨体へダリウスが斧を振り下ろした。
「少々、失礼しますよ」
重い一撃が頭部を雪面へ沈め、そのまま動きを止める。
「相変わらず最後だけ全部持っていきますね、ダリウスさん」
「皆さんが綺麗に整えてくださるので、私は仕上げをしているだけですよ」
「言い方だけ聞くと料理みたいだな」
レイジが最初に吹き飛ばした個体へ止めを入れようとしたところで、ツキノのバイザーへ追加反応が流れ込んだ。
「まだ来ます。右後方から2体、正面奥にも複数」
「この数でマルクを追ってたなら、まだ近くにいるかもしれないな。こいつらを抜けながら足跡を追う。セイルは後ろへ下がりすぎるなよ」
「こちらも近接されたいわけではありませんから、ちゃんと守ってください」
「そのために前に4人いる」
吹雪の奥から次のレイス級が姿を現した。
先ほどまで単独で飛び込んできた個体とは違い、今度は左右へ広がりながら距離を詰めてくる。
正面の1体がアシュへ狙いを定めると、その死角を使うように別個体が側面から入り、さらに右後方の2体がセイルへ回り込もうとしていた。
「ツキノは右へ回れ。セイルへの道を潰せ。アシュは俺から離れすぎるな!」
レイジが正面へ大剣を差し込んでレイス級の突進を止め、押し合うのではなく刃を外側へ滑らせて身体を横へ流す。
空いた脇へアシュが入ってシミターを首筋へ走らせ、そのまま次の個体へ向きを変えた。
「今度はそっち任せますよ、隊長! 俺は左を止める!」
「好きに動け。ただし1人で奥まで行くなよ!」
右側ではツキノの薙刀が長い間合いを活かして接近を阻み、セイルがその肩越しから光矢を撃ち込むことで2体の足を止める。
「ツキノ、そのまま少し左へ寄ってください。奥の個体まで線が通ります」
「3歩で開けます」
ツキノが薙刀で目の前の頭部を押し退けながら位置をずらすと、開いた射線を光矢が抜け、奥の個体の肩を貫いた。
一方、アシュへ向かっていた別のレイス級が横から飛び込んだところへ、ダリウスがバトルアックスの柄を差し入れて突進を受け流す。
「アシュさん、そちらばかり見ていると横から食べられますよ」
「見えてましたって! たぶん!」
「その返事では安心できませんな」
ダリウスは巨体の勢いを利用して足元へ崩し、返した斧を背中へ叩き込んだ。
短時間で数を減らされたレイス級は残った個体だけで距離を取り始め、吹雪の向こうへ退いていく。
「追わなくていい。マルクを探すぞ」
レイジが大剣の発振を止めると、ツキノが周辺反応を確認した。
「残存個体は離脱しています。ただし地中から断続的に大きな振動を拾っています」
「大型か?」
「現時点では識別できません。移動方向も安定していません」
「近づいてくるならノアにも拾わせろ。こっちは先を急ぐ」
『もう追ってる。さっきから地下側の反射が大きすぎて輪郭が取れないけど、何かいるのは間違いない』
「分かった。距離が縮まったらすぐ教えろ」
マルクの足跡はやがて、旧設備と崩落した建造物が密集するグラフト跡地へ続いていた。
屋根や外壁が残った建物も多く、吹雪を避ける場所としては周辺で最も条件がいい。
レイジたちは痕跡を見失わないよう建物の間へ入り、崩れた通路を抜けたところで人の声らしきものを聞いた。
「待て。今の、マルクじゃないか?」
アシュが進もうとするのをレイジが手で制し、全員で建物の陰へ身を寄せる。
「ツキノ、奥を見られるか」
「人間と思われる反応が3。1名は認識バンドを確認、マルクです。残る2名は登録情報がありません」
レイジの表情から軽さが消えた。
「サベージの可能性があるな。まだ武器は抜くな。マルクの状態を確認してからだ」
瓦礫を回り込むと、崩れた壁の向こうに薄汚れた防寒着を着た男が座り込んでいた。
伸びた髭の間から荒い息を吐きながらも意識はあり、その視線は自分を救助しに来た第3小隊ではなく、数メートル離れて立つ2人の人影へ向けられている。
灰色の外套。
深く被られたフード。
ネオ・ヘイヴンの認識バンドを持たない人間。
「……人、なのか……?」
マルクが掠れた声を漏らす。
「マルク、動けるならこっちへ来い。ゆっくりでいい」
レイジはマルクへ呼びかけながら、2人から目を離さなかった。
片方はわずかに顔を向けたものの、第3小隊へ近づこうとも、逃げようともしない。
ツキノがレイジの横へ並ぶ。
「認証不能。装備規格もネオ・ヘイヴンのものではありません」
「ああ。たぶん当たりだ」
レイジが大剣へ手を掛けると、セイルも少し後ろでボウ型アークブレードを構え、アシュとダリウスが左右へ広がった。
「サベージ……」
その呼び名が吹雪の中へ落ちても、2人は反応を返さなかった。
やがて片方がゆっくり右手を上げる。
武器へ伸ばしたわけではない。
掌をこちらへ向けて止めるような仕草をしたあと、その手を横へ動かし、第3小隊ではなく崩れた建物の奥を示した。
「何だ?」
レイジが視線だけをそちらへ向ける。
直後、雪面の下からこれまでより明確な振動が伝わり、瓦礫の隙間に積もっていた雪が一斉に崩れ落ちた。
『レイジ、さっきの大型反応が急速に近づいてる! そっちのほぼ正面だ!』
「マルクをこっちへ引っ張れ! サベージは今は放っておけ!」
ダリウスがマルクへ向かい、アシュがその前へ出る。
「立てるか、おっさん! 無理でも立ってくれ、今ちょっと忙しくなる!」
「な、何が……」
「説明は後だ。ダリウスさん、お願いします!」
「承知しました。マルクさん、失礼しますよ」
ダリウスがマルクの腕を取って立ち上がらせたところで、前方の建物が大きく震えた。
外壁に亀裂が走る。
次の振動で崩れかけたコンクリートが内側から押し出され、さらにもう一度大きく揺れたところで壁面全体が耐えきれずに崩れ落ちた。
「全員、瓦礫から離れろ! マルクを中央へ入れて下がれ!」
第3小隊が左右へ散りながら距離を取ると、雪煙の向こうで巨大な前脚が瓦礫を踏み潰した。
続いて灰白色の分厚い外殻が現れ、四肢を地面へ沈ませながら巨体が建造物の残骸を押し退けてくる。
レイジはその全貌を見上げ、大剣型アークブレードをゆっくり抜いた。
小型アバレントなら何体かまとめて相手にしても笑っていられる第3小隊から、誰の軽口も出なかった。
『形状照合完了。ガルム級です。ただし標準記録よりかなり大きい。正確な体長はまだ――』
「数字は後でいい。ノア、退路を出せ。ツキノとセイルはマルクから離れるな。アシュは俺の左、ダリウスは右から来る突進を止められる場所へ入ってくれ」
「止めろと言われましても、これは少々骨が折れそうですな」
ダリウスがバトルアックスを構えながらも穏やかな口調を崩さず、アシュは巨大な相手を見上げてシミターの柄を握り直した。
「骨が折れるの、比喩で済めばいいですけどね」
「縁起でもないことを言うな。まだ戦うって決まったわけじゃねぇ」
レイジは答えながらガルム級との距離を測った。
その向こうでは、2人のサベージがまだ同じ場所に立っている。
逃げる様子はない。
慌ててもいない。
まるで、この巨大なアバレントが現れることを最初から知っていたかのようだった。
ガルム級が前脚を踏み出し、周囲の雪が大きく沈む。
レイジは発振させた大剣を肩へ担ぎ、白い息を吐きながら口元を少しだけ上げた。
「……地表ってやつは、本当に退屈させてくれねぇな」
第13話、お読みいただきありがとうございました。
今回はこれまでよりも第3小隊の面々をしっかり描く回になりました。
レイジを中心に、ツキノ、アシュ、セイル、ダリウス。
同じGRIDの小隊でも、第7小隊とはまた違った距離感や会話のテンポを持つチームとして描いています。
そして、行方不明になったマルクを追って辿り着いたグラフト跡地では、ついにサベージの姿も。
ただ、彼らが何を考え、なぜそこにいたのかはまだ分かりません。
さらに現れた大型のガルム級。
人を連れ帰るための捜索任務だったはずが、状況は一気に大きく動き始めました。
次回も第3小隊の地表任務が続きます。




