腐った林檎
季節がじくじくとその色を濃くしていった。
あの事件以来、一度も言葉を交わしていない。推薦を辞退したという噂を耳にしたのは、九月だ。
ある晩、私は家業の手伝いを終え、夜道に自転車を走らせていた。駅前の古びた高架下。オレンジ色の街灯が、湿ったアスファルトの上に、汚れた油のやうな光を広げている。そこには、私の知っている清は、どこにもなかった。彼は、地元の不良たちの群れの中で、安っぽい煙草の煙を燻らせていた。シャツの襟元は乱れ、知性と傲慢さを湛えていた瞳は、空虚さに支配されている。彼が選んだ白線の外側とは、社会からの逸脱であったのだ。
「清」
私が名を呼ぶと、彼はゆっくりと顔を上げた。
「……何の用だい。修行は、もう飽きたのか」
彼の声は、ひどく掠れていた
「清、君は間違っている。こんなことをしても、どこにも辿り着けない」
「間違い? ああ、そうかもしれないな。僕は色々と、間違えたんだらう」
清は力なく笑った。その笑いは、自嘲だった。
「進学校へ行けば、君は君でいられたはずだ」
「いや、あそこへ行っても、僕は新たな白線の中に閉じ込められるだけだった。ここなら、少なくとも、誰からも期待されない。誰も僕を見ない。それが、どれほど……」
彼は言葉を切り、手元で赤く光る煙草の火を見つめた。
彼は間違えたのだ。世界を否定するために、自分をも否定してしまった。私は、彼に歩み寄り、その肩に手を置こうとした。しかし、彼は汚物から逃れるような仕草で、私の手を振り払った。
私たちの心に刻まれた蝉時雨は、秋を拒むかのように、いつまでも、いつまでも耳の奥で鳴り続けていた。




