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指環の執行官──警視庁捜査一課第四特殊犯捜査係  作者: 柊ユキヤ


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第7話 謎の指環

 電話の主は猫田だった。休みに何の用だ? 何か緊急の案件なのか、と一瞬緊張が走る。


「大神主任、公休なのにすみません。今、大丈夫ですか?」

「どうした?」

「田中と高峰の接点が分かりまして。少しだけ顔出せませんか?」

「明日じゃだめか?」

「……私、今日、非番なんです」


 つまり、明日は公休ということか。自分は休みたいから、今日が公休の主任を呼び出す──まったく、どいつもこいつも。これも烏丸(カー)さんの教育(・・)の賜物か。スマホを握る手に思わず力が入った。


「……分かった。すぐ行く」


 大神はため息をつくと、表通りでタクシーを拾った。



   ◇ ◇ ◇



 猫田は大神の顔を見るなり、深々と頭を下げた。


「お呼び立てして、すみません」


 まだ謝れるだけ、あのガキよりマシか──と自分を納得させる。

 横には、久々の休みだったのだろう、ついさっきまで寝ていたらしい波木が、寝癖だらけの髪でぼーっと座っていた。


「で、田中と高峰にどんな接点があったんだ?」


 大神が問うと、猫田はホワイトボードへ被疑者である田中と、被害者である高峰の写真を貼り付けた。


「え、フリーターと半グレに?」


 猫田は、波木の気の抜けた質問を無視して続けた。


「高峰がいた半グレグループですが、例の指輪の闇バイトと関わりがあるようです。現在、〈|匿名・流動型犯罪グループ対策本部トクリュウ〉が内偵中です」


 猫田は説明しながら、ホワイトボードへ貼られた高峰の写真の横に書き込んだ。


「なんだ、〈トクリュウ〉のヤマだったのか。かち合うのはマズイなぁ」と魚住がボヤく。


「そもそも、あの闇バイトって何が目的なんだ? 指輪を渡して強盗(タタキ)でもさせるのか? だったら、銃の方が安いし、誰でも使える」

「大神主任。それが……ホントにはめてもらうだけらしいんです」

「えっ!?」


 思わず変な声が出た。


「でも、はめた人は全員、大なり小なり精神汚染されちゃってるらしくて。行方不明者もいるとか」

「……行方不明まで? それ、生活安全部(セイアン)も動いてるんじゃないか?」

「はい。ただ、関連性が断定できないってことで、まだ本格的な連携にはなってません」


 微妙な状況なんだな──大神は腕を組んだ。


「なるほど。じゃあ、釣り方が知りたいな。報酬は? どうやって食いつかせてる?」

「……みんな記憶が飛んでるんで、そこがはっきりしません。でも、少なくとも報酬を受け取った形跡はないです」

「そうか……まあ、そうだろうな。でも、何のために……?」


 大神が顎に手を当てながら唸ると、ようやく目が覚めたのか、波木が身を乗り出してきた。


「分かりました! ずばり、人体実験ですよ!」

「波木、まだ寝ぼけてるのか?」


 魚住が呆れた様子で波木を睨んだ。

 大神は小さく息を吐き、猫田への質問を続けた。


「しかし普通……売人だったら指輪を売るよな? なんだってタダでばら撒くような真似を」

「そうなんですよ。ヘンなんです」


 模造品であっても指輪は高価だ。それをばら撒くなんて、気前のいい半グレだ。もしかして指輪はハリボテなのか──? いや、だったらあの高出力の閃光の説明がつかない。

 大神は魚住の方を向いた。


「係長、科捜研からは何と?」

「いや、詳細はまだだ。だが、見た目は普通の(・・・)模造品だが、内部構造が既存モデルとまったく違うらしい」

「ということは……新モデル?」

「いや、サイコキネシス()デバイス()社のリファレンスとまったく違う、という意味だ」


 魚住はPD社のモデル別資料をテーブルに放り出すと、困惑した表情を浮かべた。

 猫田がその資料を手に取り、魚住に詰め寄った。


「係長。指輪はPD社の独占ですよ。たしかに模造品は改造、簡略化されていますが、最低限、PD社のリファレンスは踏んでいるはずです」

「そうなんだよなぁ」


 猫田の圧に押されたのか、魚住はホワイトボードの向こうに視線を逃がした。


「猫田さん。そういえば、高峰の指輪はどうだったの?」

「あれは、普通の(・・・)模造品でした」


 猫田は波木の問いに答えると、ふぅと息を吐いた。ホワイトボードの横へ戻り、高峰の写真を指す。


「その高峰ですが、最近羽振りが良くなっていたそうです」

「良くなっていた、ということは、前はそうじゃなかったのか?」


 魚住は写真を凝視しながら呟いた。


「はい。『割のいいシノギが見つかった』って、派手にやっていたみたいで」

「ということは、高峰は闇バイトの運営に携わっていた……?」

「はい、そうです」


「あと──」と猫田が付け加えた。


「殺害される数日前から、『デカい金になるネタを見つけた』って言いふらしてたみたいです。それに『運ぶのは楽だが退屈だ』とも」


「運ぶ、ってことは、ロッカーに置いていたのは高峰か」と波木が呟くと、猫田は頷いた。


「運び屋が〈デカい金になるネタ〉……ねえ」


 大神は高峰の写真を凝視しながら呟いた。

 チンピラが急に羽振りが良くなる理由は相場が決まっている。危険な橋を渡ったか、誰かの弱みを握ったかだ。


「その〈ネタ〉っていうのが、この〈出所不明の指輪〉と関係しているかもな」

「可能性はあります」

「波木。田中からは何か分かったか?」


 大神が波木へ問うと、波木は首を振った。


「精神汚染による心神喪失じゃ、起訴できても無罪だろうなぁ。下手すると不起訴だ」


 魚住はそうボヤくと胃薬を一錠取り出し、水も飲まずに口に放り込んだ。


「係長。胃薬、飲み過ぎですよ」


 猫田が眉を吊り上げる。


「お前は俺のカミさんか」

「係長の奥様だったら、放っておかれるはずです」


 猫田の冗談とも本気ともつかない口調に魚住は困惑の色を浮かべたが、すぐに納得した表情へと変わった──どうやら、そういう奥様らしい。


 二人のやり取りを横目に大神が呟いた。


「指輪を使うでもなく、売るでもなく……ばら撒く、か」


 大神はホワイトボードに書かれた『新型指輪?』の文字から、どうしても目を逸らせずにいた。

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