第27話 真夜中の共犯者
高等部二年三組の担任である佐藤は、手にした用紙の内容を目で追うと、三人へ笑顔を向けた。
「はい、いいですよ。……あんまり時間がないから準備は急いでね」
「ありがとうございます!」
遥は深々とお辞儀したが、隣に立つ麻衣は口を尖らせた。
「もう、遥が書くの遅かったからよ」
「ゴメンゴメン、部活の方の準備もあってさ」
「バスケ部も模擬店出すんだっけ?」
「そう。焼きそばやるんだ。──絢音も来てね!」
遥は振り返り、後ろに立つ絢音に言った。
「うん! でも、ウチの準備も急がなきゃね」
「そうね。フルーツ手配しなくちゃ」
クリスマスバザーで、絢音たち二年三組はジューススタンドを出すことになった。
フルーツジュースだけでなくホットドリンクも揃え、さらには簡単なスイーツまで用意する念の入れようで、ちゃっかり者の遥は「打ち上げ代を稼ぐ!」と意気込んでいた。
じゃんけんで負けて模擬店リーダーになってしまった三人だが、どうせやるなら頑張るかと、この数日計画をまとめていたのだ。
「さ、みんなに連絡しよ」
三人が職員室を出ようとしたとき、絢音の耳に西園寺と別の女性教師の会話が飛び込んできた。
「西園寺先生、今年は合唱部もバザーに参加されるんですか? 田代先生から、先生がアクセサリーを注文されていたと聞いたんですが」
「え? ……ええ、まあ」
西園寺は柔らかな笑みを返した──が、すぐに「すみません、生徒のカウンセリングの時間ですので」と席を立った。
廊下へ出ると、絢音の横で遥がボソリと呟いた。
「合唱部がバザーに出るなんて珍しいね。バザーの日って、いつも午前のミサの聖歌だけだよね?」
だが、麻衣は眉を寄せた。
「でも変ね。クラスの合唱部の子、そんなこと言ってたっけ?」
(合唱部がバザー? アクセサリー?)
絢音の胸の中にわずかな違和感が湧き出る。
西園寺は合唱部の副顧問だ。西園寺が合唱部のためにアクセサリーを用意することは別におかしな話ではない。だが、それが合唱部の部員すら知らないバザー参加のため? ──腑に落ちなかった。
田代先生──あの若い男性教師は西園寺と何を話したのだろうか。
「……田代先生の勘違いじゃない?」
麻衣がそう言うと、遥がおどけるように顔を寄せた。
「あのセンセ、絶対西園寺先生に気があるよね。年上好きなのかな?」
「ええ〜!? 西園寺先生、全然相手にしてないって」
麻衣も思わず吹き出す。
ケラケラと笑う二人を横目に見ながらも、絢音の違和感は膨らんでいった。
(西園寺先生が誤魔化しているとしたら? じゃあアクセサリーって、もしかして……)
いまだに学校を休んでいる美優の顔が浮かんだ。
(これ、オジサンに伝えたほうがいいよね)
制服の下に忍ばせている指環へそっと指先を寄せた。
◇ ◇ ◇
その夜。絢音は自室のベッドに腰掛け、スマホの画面を見つめていた。そこには大神の電話番号が表示されていた。
バザーの件を伝えたほうが良いのは分かっていた。だが、いざスマホを前にすると手が止まる。そうしているうちに日も変わろうとしていた。
(なんでこんなに緊張してるんだろ?)
別に電話するだけだ。前もやっていた。
なぜ躊躇しているのか、自分でもよく分からなかった。
(そういえば話すのって、あの駅のとき以来よね)
あの時見つかった大量の指環。あの後少しだけニュースになっていたが、その後は特に続報もなく、学生の間では話題になることもなかった。
(協力したんだから、ちょっとくらい教えてくれたっていいのに)
とはいえ、まさか自分の計画であの場所を訪れることになっていたことや、自分が密かに指環を使ったことなど大神は知らない。
そもそも、あのクソ真面目な刑事が捜査情報を漏らすことなどありえないだろう。
(それより、ミサンガって西園寺先生の仕業なのかな?)
大神は西園寺とミサンガのことを気にしていた。両者に何か繋がりがあるのか。
ミサンガ──学校内で少なくない人数の生徒がはめていたように思う。
だが、ある日から校内でミサンガを見かけなくなり、あの三年生のように浮ついた感じの生徒もいなくなった。
──あれはいったい何だったのだろうか。
こじつけかもしれないが、ミサンガを見るようになったのは西園寺が赴任したここ一年ほどのことだ。
大神の様子といい、西園寺がミサンガを配っていた──そう考えると腑に落ちた。
西園寺がアクセサリーを用意した──それは一見何でもないようなことかもしれない。
だが、それがミサンガだったら?
そう仮定した時、西園寺はいったい何を企んでいるというのだろう。
(よし!)
絢音は息を吸い、発信ボタンを押した。
数回のコール。
「絢音か?」
大神の声だった。




