194 山を越えた先に
学術の都アトリアと騎士の都エラセドを隔てるように聳えるノースライフ山脈。
その中腹で兄から妹へとリレーがなされ、兄妹はようやく麓のキャンプ地へと到着した。
「長旅のようでしたね。毛皮は確かに確認しました。次回は、エラセドの自然の厳しさを踏まえての準備をお願いいたします」
借りもののベストを無事返却する兄妹の姿に、パーラという監査役の女性も安堵した様子だった。
こうして晴れてエラセドの堅苦しさから解放され、兄妹は気持ちを新たにアトリアへと街道を進む。
さらに一時間が過ぎた頃、いつか立ち寄った街道沿いの休憩所が目に入って、兄妹は一旦休憩をとることに決めた。
フライアの息も上がっている。ライアスは憑依を解き、自由に給水できる井戸水を汲み上げると傍のベンチに腰掛けた。
隣り合って座り、兄妹は互いを労いつつ一息入れる。
「はあぁ~……」
フライアが深々とため息を吐いた。
ライアスはふと歩いてきた道へと視線を向ける。
「あ~……よくまあ、歩いてこれたな……」
エラセド方面を見れば高々とそそり立つノースライフ山脈がある。兄妹で協力し、あの裏側まで往復してきたと思うと感慨深い。
ライアスがしみじみ息をついていると、街道沿いに目を向けたフライアが「あれ?」と声を上げた。
「……定期便?」
そう言って立ち上がる。
「……ん? どうした?」
そのまま小走りに駆けだす妹に、ライアスも続く。
フライアが目にしたのは道の脇にある立て看板だった。馬車の停留所らしく、擦れた文字でいくつかの発着時間が記されている。
以前は気付かなかったが、この休憩所にもアトリア行きの定期便が立ち寄っているようだ。
だが、そこにある張り紙を目にした兄妹はがっくりと肩を落とす。
『アトリア 非常事態により、運行中止。再開未定』
運航中止、という文言に儚い期待を裏切られた兄妹は、続けざまに「ん?」と首を傾げる。
その疑問をライアスが口にした。
「……あれ? ここで運行中止っていったら王都行きもないんじゃないか?」
そういえば、と視線を交わし合う。
……というのもここ数日、エラセドのことで頭が一杯のあまり、アトリアで起きた大惨事のことをすっかり忘れていた。
既に時刻は午後四時を回ろうとしている。アウストラリスに帰るにあたり、当初はこの時間のアトリア最終便に滑り込むのを目論んでいた。
それはもう叶わないわけだが、どのみち状況的に定期便そのものが運行していない可能性が高い。
「かもね」
兄の言葉にフライアが頷く。
ライアスは小さく吐息した。
「どっちみち、アトリアから王都まで歩かなきゃいけなかったのかよ……ってそれなら、今日アトリアに泊まれるのか?」
兄のその疑問にフライアもどきりとする。非常事態なら定期便だけでなく、店や宿だって営業しているとは限らない。
兄妹は念のため、と休憩所の売店を訪れた。非常食用の干し肉を購入し、不測の事態に備えておく。
「と、とりあえず……」
「都に着かねえと、だな。最悪ドリューに頼むかだな」
アトリアに行ってみないことには状況も分からない。
兄妹は疲労が蓄積した脚をもみほぐすと、再び街道へと足を踏み入れた。




