193 心を繋ぐ秘術
しばらく兄妹でこれまでを思い返す中。
ふと、がらがらと地面の鳴る音が聞こえ、顔を上げた兄妹の眼前を荷馬車が通り過ぎる。
エラセド方面から現れたその一団は、兄妹に気を留めることなくアトリア方面へと下っていった。
その姿を見送り、兄妹は小さく吐息する。風や木々の雑音が急に耳に入り出し、まるで止まっていた時間が動き出したかのようだった。
少しの休憩のつもりが気付けば結構な時間が過ぎている。いつまでもここにいるわけにいかない、とライアスは立ち上がり、脚の状態を確認した。
「いっ、てえ……」
休めば少しは痛みも引くだろう、と思ったが甘かった。
いつもは一晩経ってから筋肉痛がくるのだが、今回はそうした痛みをもう起こしている。
続いて立ち上がった妹へと向き直り、観念したように口を開く。
「……任せる。自分のペースで歩け」
フライアは頷いた。
そして、わかっていたとばかりに肩に掛けていた鞄を下ろし、「持ってて」と兄に差し出す。
ライアスは受け取った鞄を肩に掛け、右手をスッと前に出した。それにフライアの右手が触れる。
その直後、ライアスの姿がふわりと浮き上がるように消えた。
(……俺が憑依するのも久しぶりだな)
脳内に兄の声が響き、フライアはどこか嬉しそうに応じる。
「そうね」
そうしてゆっくり山道を歩きはじめた。
(まだ下り坂が続くんだよな。あんまり急がねえほうがいい)
「うん!」
街道は馬車が通れるようにと段差がない一方で坂が延々と続く。
舗装はやはり十分でなく、凹凸のある石畳に時折足を取られそうになる。フライアは一歩一歩を確かめつつ身体を慣らすようにしながら、その道を下っていく。
「もっと見晴らしよければいいのに……」
(そうだろ? 先が見えないって不安になるだろ? さっさと越えちまいたいって思うんだ)
時折兄妹で確かめるように声を掛け合う。
見えていなくても、想いが通じ合っていれば大丈夫だ。
麓にあるエラセドのキャンプ地まではもうしばらく。兄に代わり歩を進めるフライアは、そのしっかりとした眼差しを変えることなく進み続けた。




