180 意地っ張り
休憩所を出てから三十分程度が過ぎた。
麓で聞いた説明によると、ふたつ目の休憩所からは上り下りを繰り返して一時間半の道のりだ。そうすると、まだ半分以上の距離が残っていることになる。
疲労はピークに達し、兄妹が歩くペースは格段に遅くなっていた。
「大丈夫か?」
「ちょっと……待って」
ライアスがまた妹に声をかけた。
フライアは度々立ち止まるようになっていた。上がり切った息を整えながら、太腿やふくろはぎをしきりに叩く。
少し前から鞄はライアスが持つようにしているが、身体の限界だけは誤魔化しようがない。
なにしろ慣れない山越えだ。整備されているとはいえ平坦ではない道が続き、エラセドに近付くにつれ寒さも増している。
寒さに耐え、傾斜と凹凸の悪路に神経を尖らせているうち、フライアの脚にはこれまでにないほど疲労が蓄積していた。
「ふう……ふうっ……!」
やっとの思いでフライアがまた兄に追いついた。だが、懸命な脚のもみほぐしも虚しく、腿の辺りが痙攣しはじめていた。
その顔に脂汗と苦悶の顔を浮かべ、「うぅ……」と唸りながら動くことができないでいる。
さすがに見兼ねて、ライアスが手を差し出す。
「……そのナリで、頑張ったほうだろ。中に入れって」
周囲に人影がないことを確認しながら、《憑依》するように諭した。
本当ならもっと早くできたことだ。
一番怖いのは兄妹どちらも動けなくなることで、それなら最初からしてもよかった。だが、フライアは自分を試すように歩き続けてしまった。
そんな妹も、ためらいながらついにギブアップ、というふうに頷いた。
差し出された手に自分の手を重ねると、景色に溶け込むようにその姿が消えていく。
(はああぁ……)
ライアスの頭の中に、妹の吐息が響く。安堵のような、悔しさのような、複雑な感情が込められていた。
どうやら地力で踏破するつもりでいたようだ。
「しょうがねえって。山道にまるで合ってない格好で来ちまったんだから。この後に体力は取っとけ」
そんな妹に対し、ライアスが労いの言葉をかける。
とにかくまだ行きの途中だ。騎士の市街地、というのがどういう場所かも分からないのに体力を使い果たすわけにはいかない。
この山越えは往復の旅路の、まだ往路に過ぎないのだ。
「こういう時に火のエレメントが使えるといいよなあ。なんで雷を取ったんだっけ……?」
寒さしのぎにそんな言葉を妹に投げかけながら力を振り絞る。
疲労が蓄積しているのはライアスも同じだ。これまで妹の歩調に合わせていた休憩時間を距離に変え、少しでも早く辿り着こうと足を動かした。




