160 ドリューとの再会
群がる敵を打ち払っては進み、進んではまた囲まれる。
無限に続くかのような戦いをどうにか切り抜け、一行は目的の校舎にたどり着いていた。
戦いに必死でその様相までは確認できていなかったが、いざ目の前にすると兄妹の記憶も蘇ってきた。
「どうだ? この上か?」
ウォルフに尋ねられ、ライアスは頷いた。
「ああ、確かこの上だ」
そう言って校舎の様子を窺う。講師室は二階にあったはずだ。
「……誰かいねえか?」
──そのときだった。
魔物の呻き声が聞こえたと思えば、次の瞬間何者かの雄叫びが響く。
「え?」、と一行が顔を持ち上げたその刹那、爆音と共に衝撃が走り、二階の窓硝子が粉々に砕け散った。
「あぶねえ! 中へ入れっ!」
硝子片が降り注ぎ、ウォルフの号令のもと校舎の中へと突入する。中庭を振り返れば、倒したはずの魔物がまたも徘徊をはじめていた。身を隠すように校内の奥へと身体を滑り込ませるが、そこにもやはり魔物の群れがあった。
先頭に立つウォルフが剣を構え、歯噛みする。
「くっそ! きりがねえ!」
イリューアも剣を握りしめ、苦々しい顔で口を開く。
「これは……! もう上で合流したほうが……」
苦し紛れに告げるも、それはもっともな意見だった。
──何者かが二階で戦っている。それは先程の爆音と雄叫びからも明らかだ。ならば強行突破をしてでもその者と合流する。
もはやそれしか選択肢がなかった。
一行は覚悟を決め、再び魔物の群れへと突入する。全員で剣を薙ぎ払いながら、幾つもの通路が伸びるエントランスフロアを横切り、一直線に階段へと向かう。
迫り来る魔物を各々が斬り伏せ、ウォルフ、イリューア、そしてライアスと一列になる。もはや隊陣とは呼べない形のままひたすらに突き進んだ。
ようやく階段の上がり口。後は振り返らず一気に階段を駆け上がった。
そのまま勢いよく二階へと躍り出ると、通路の先で雄叫びが響く。目を向けると魔物と対峙する男の姿があった。
──両手槍に褐色の甲冑を身に纏った男。
見覚えのあるその姿に、ライアスは叫んだ。
「ドリュー!」
その呼びかけとほぼ同時に男は魔物を槍で串刺しにする。その異形が消失するのを見届けると、くるりとライアスを振り向いた。
その顔に驚愕の色が浮かぶ。
「っ‼ ライアス!」
叫ぶように言う彼の元へ、全員で駆け寄る。それは紛れもないドリュー本人だった。
ドリューは面食らった顔のまま、その驚きを口にした。
「ライアス、無事だったか! あれっきり姿がなくなっていたから、エラセドに捕まっちまったかと思ってたぞ」
その息切れの様子から、かなりの数の魔物を相手にしていたことが分かる。
「ああ、なんとか。ただ、そんな話もしていられねえよ」
そう応じるライアスに対し、ドリューも「そうだな」と頷く。それからウォルフとイリューアに視線を移す。
「で、この二人は……っ⁉」
そこで口をつぐんだ。イリューアを直視したまま身体を動かせずにいる。それはイリューアも同様だった。
イリューアが慌てたようにそっぽを向くも、ドリューの方は黙っていなかった。
「ま、待てっ! なぜだ? なんでエラセドの奴がここに来てるんだ⁉」
かつての戦争相手を前に、驚きと嫌悪が入り混じった声を上げる。
だがライアスは平然と言い返した。
「俺のギルドの仲間だからだ」
そう言ってウォルフとイリューアを見やる。
「ここにいるのは俺が王都に構えたギルドのメンバーなんだ。エラセドは今関係ない」
だがドリューは眉間のしわを深くする。
「だ、だがよ! その胸の紋章はっ……!」
「ドリューっ!」
ライアスが声を上げて黙らせた。憑依したまま周囲を警戒するフライアも思わずため息を吐く。
(前と変わってない……)
ドリューは強い正義感と行動力がある一方、その反動ゆえか視野が狭まり、敵とみなした相手を仇と憎み続けるようなところがある。
その性質について彼の師匠モーランから檄もあったが、今回もまたエラセドへの確執を捨てきれずにいるようだ。
「ドリュー。お前、今誰と戦ってるんだ? エラセドじゃないだろ」
たしなめるように言い、ライアスは本題へと話を移す。
「しかもここはアカデミーだ。ここがヴォイドに襲われてるってどういうことなんだ?」
その指摘にウォルフも続いた。
「そうだ! アカデミーは直前で面会をドタキャンしやがった挙句にこのザマだ! 何をしでかしやがった!」
正当といえる非難をされ、ドリューは「くっ……!」と歯噛みをして俯く。
だが、ここで彼を責めても仕方がない。ライアスは「別に貶めるつもりはねえよ」と前置きし、だがな、と言葉を継ぐ。
「もう悪魔とのむなしい討伐はたくさんだ! どうやったらこの状態を打開できるんだ?」
ドリューは項垂れたまま、自身を律するように深々と息を吐いた。そうして決意の色を浮かべた顔を持ち上げる。
「……学長室に一緒に来てくれ! 中央の校舎の一番上だ!」
それを受け、ライアスは力強く頷く。
「わかった」
ひとまずは自らを克服できたようだ。そんなドリューに対し、兄妹はよしと拳を握る。
その直後、イリューアが声を上げた。
「っ! 後ろ! 敵が来ています!」
見れば魔物の群れがすぐそこまで迫っている。ブラザーズの面々はくるりと身体を反転させると迎撃態勢に入った。
その後方、ドリューが声を上げる。
「一分だけ、時間を稼いでおいてくれ!」
そう言い残し、軍事部門の講師室と思しき部屋へと駆け込んでいった。
ウォォン……!
死人のような唸りを上げ、靄を帯びた獣がひたひたにじり寄ってくる。それも一方じゃない。通路の左右、さらには今上ってきた階段からブラザーズの面々を挟み込むように迫り寄ってくる。
だがこれまでも散々相手をしてきた一行に焦りの色はなく、自然と連携が整った。
「よし、いくぜ!」
ウォルフが号令をかける。前方の魔物をイリューアが剣技と光のエレメントを用いた壁で受け切り、その後方に固まる集団にウォルフが炎弾を撃ち込む。
左右に零れた魔物はライアスが逃さず仕留め、フライアはそれをサポートしながらイリューアのフォローも忘れない。
……またひとつ、山場を凌いだ。
「……援護をありがとうございます」
「いい感じだぜ。他の傭兵とだったらそろそろくたばってたぞ」
群れの最後を仕留め、ひとつの波を乗り越えたところでドリューも戻ってきた。
「怪我して逃げ遅れた連中には隠れてもらった! さあ、学長室への近道はこっちだ!」
そう言って通路を先導する。ブラザーズの一行もそれに続いて走った。
「学長室に行けば解決するのか?」
ライアスの問いかけに、ドリューは走りながら「たぶんな!」と応じる。
「そこに悪魔をおびき寄せる何かがあるはずなんだ!」
詳細は分からないが何らかの思惑があるようだ。
ブラザーズの面々は先行して走るドリューの背中を追い、学長室へと廊下を駆け抜ける──。




