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ブラザーズアローン ~世界に選ばれざる《独り》の兄妹~  作者: flyas
第八章 動き出す影たち
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160 ドリューとの再会

 群がる敵を打ち払っては進み、進んではまた囲まれる。

 無限に続くかのような戦いをどうにか切り抜け、一行は目的の校舎にたどり着いていた。


 戦いに必死でその様相までは確認できていなかったが、いざ目の前にすると兄妹の記憶も蘇ってきた。


「どうだ? この上か?」


 ウォルフに尋ねられ、ライアスは頷いた。


「ああ、確かこの上だ」


 そう言って校舎の様子を窺う。講師室は二階にあったはずだ。


「……誰かいねえか?」




 ──そのときだった。


 魔物の呻き声が聞こえたと思えば、次の瞬間何者かの雄叫びが響く。

 「え?」、と一行が顔を持ち上げたその刹那、爆音と共に衝撃が走り、二階の窓硝子が粉々に砕け散った。


「あぶねえ! 中へ入れっ!」


 硝子片が降り注ぎ、ウォルフの号令のもと校舎の中へと突入する。中庭を振り返れば、倒したはずの魔物がまたも徘徊をはじめていた。身を隠すように校内の奥へと身体を滑り込ませるが、そこにもやはり魔物の群れがあった。


 先頭に立つウォルフが剣を構え、歯噛みする。


「くっそ! きりがねえ!」


 イリューアも剣を握りしめ、苦々しい顔で口を開く。


「これは……! もう上で合流したほうが……」


 苦し紛れに告げるも、それはもっともな意見だった。


 ──何者かが二階で戦っている。それは先程の爆音と雄叫びからも明らかだ。ならば強行突破をしてでもその者と合流する。

 もはやそれしか選択肢がなかった。


 一行は覚悟を決め、再び魔物の群れへと突入する。全員で剣を薙ぎ払いながら、幾つもの通路が伸びるエントランスフロアを横切り、一直線に階段へと向かう。


 迫り来る魔物を各々が斬り伏せ、ウォルフ、イリューア、そしてライアスと一列になる。もはや隊陣とは呼べない形のままひたすらに突き進んだ。


 ようやく階段の上がり口。後は振り返らず一気に階段を駆け上がった。




 そのまま勢いよく二階へと躍り出ると、通路の先で雄叫びが響く。目を向けると魔物と対峙する男の姿があった。

 ──両手槍に褐色の甲冑を身に纏った男。


 見覚えのあるその姿に、ライアスは叫んだ。


「ドリュー!」


 その呼びかけとほぼ同時に男は魔物を槍で串刺しにする。その異形が消失するのを見届けると、くるりとライアスを振り向いた。

 その顔に驚愕の色が浮かぶ。


「っ‼ ライアス!」


 叫ぶように言う彼の元へ、全員で駆け寄る。それは紛れもないドリュー本人だった。

 ドリューは面食らった顔のまま、その驚きを口にした。




「ライアス、無事だったか! あれっきり姿がなくなっていたから、エラセドに捕まっちまったかと思ってたぞ」


 その息切れの様子から、かなりの数の魔物を相手にしていたことが分かる。


「ああ、なんとか。ただ、そんな話もしていられねえよ」


 そう応じるライアスに対し、ドリューも「そうだな」と頷く。それからウォルフとイリューアに視線を移す。


「で、この二人は……っ⁉」


 そこで口をつぐんだ。イリューアを直視したまま身体を動かせずにいる。それはイリューアも同様だった。


 イリューアが慌てたようにそっぽを向くも、ドリューの方は黙っていなかった。


「ま、待てっ! なぜだ? なんでエラセドの奴がここに来てるんだ⁉」


 かつての戦争相手を前に、驚きと嫌悪が入り混じった声を上げる。

 だがライアスは平然と言い返した。


「俺のギルドの仲間だからだ」


 そう言ってウォルフとイリューアを見やる。


「ここにいるのは俺が王都に構えたギルドのメンバーなんだ。エラセドは今関係ない」


 だがドリューは眉間のしわを深くする。


「だ、だがよ! その胸の紋章はっ……!」

「ドリューっ!」


 ライアスが声を上げて黙らせた。憑依したまま周囲を警戒するフライアも思わずため息を吐く。


(前と変わってない……)


 ドリューは強い正義感と行動力がある一方、その反動ゆえか視野が狭まり、敵とみなした相手を仇と憎み続けるようなところがある。

 その性質について彼の師匠モーランから檄(げき)もあったが、今回もまたエラセドへの確執を捨てきれずにいるようだ。


「ドリュー。お前、今誰と戦ってるんだ? エラセドじゃないだろ」


 たしなめるように言い、ライアスは本題へと話を移す。


「しかもここはアカデミーだ。ここがヴォイドに襲われてるってどういうことなんだ?」


 その指摘にウォルフも続いた。


「そうだ! アカデミーは直前で面会をドタキャンしやがった挙句にこのザマだ! 何をしでかしやがった!」


 正当といえる非難をされ、ドリューは「くっ……!」と歯噛みをして俯く。


 だが、ここで彼を責めても仕方がない。ライアスは「別に貶めるつもりはねえよ」と前置きし、だがな、と言葉を継ぐ。


「もう悪魔とのむなしい討伐はたくさんだ! どうやったらこの状態を打開できるんだ?」


 ドリューは項垂れたまま、自身を律するように深々と息を吐いた。そうして決意の色を浮かべた顔を持ち上げる。


「……学長室に一緒に来てくれ! 中央の校舎の一番上だ!」


 それを受け、ライアスは力強く頷く。


「わかった」


 ひとまずは自らを克服できたようだ。そんなドリューに対し、兄妹はよしと拳を握る。

 その直後、イリューアが声を上げた。


「っ! 後ろ! 敵が来ています!」


 見れば魔物の群れがすぐそこまで迫っている。ブラザーズの面々はくるりと身体を反転させると迎撃態勢に入った。

 その後方、ドリューが声を上げる。


「一分だけ、時間を稼いでおいてくれ!」


 そう言い残し、軍事部門の講師室と思しき部屋へと駆け込んでいった。



 ウォォン……!


 死人のような唸りを上げ、靄(もや)を帯びた獣がひたひたにじり寄ってくる。それも一方じゃない。通路の左右、さらには今上ってきた階段からブラザーズの面々を挟み込むように迫り寄ってくる。

 だがこれまでも散々相手をしてきた一行に焦りの色はなく、自然と連携が整った。


「よし、いくぜ!」


 ウォルフが号令をかける。前方の魔物をイリューアが剣技と光のエレメントを用いた壁で受け切り、その後方に固まる集団にウォルフが炎弾を撃ち込む。


 左右に零れた魔物はライアスが逃さず仕留め、フライアはそれをサポートしながらイリューアのフォローも忘れない。


 ……またひとつ、山場を凌いだ。


「……援護をありがとうございます」

「いい感じだぜ。他の傭兵とだったらそろそろくたばってたぞ」


 群れの最後を仕留め、ひとつの波を乗り越えたところでドリューも戻ってきた。


「怪我して逃げ遅れた連中には隠れてもらった! さあ、学長室への近道はこっちだ!」


 そう言って通路を先導する。ブラザーズの一行もそれに続いて走った。


「学長室に行けば解決するのか?」


 ライアスの問いかけに、ドリューは走りながら「たぶんな!」と応じる。


「そこに悪魔をおびき寄せる何かがあるはずなんだ!」


 詳細は分からないが何らかの思惑があるようだ。

 ブラザーズの面々は先行して走るドリューの背中を追い、学長室へと廊下を駆け抜ける──。


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