158 ヴォイド討伐任務、開始
「皆様! お待ちしておりました!」
アトリアにたどり着いた面々は神官アウラによって直々に出迎えられた。
ヴォイドに対応する王都はアトリアの入り口に中継地点を設え、その場を彼女が取り仕切っているようだ。
「見ての通り、今アトリアはヴォイドからの悪魔の襲撃を受けています! 個体は決して強くないのですが数が多く、救助活動も難航しています」
おっとりとして無垢ないつもの面影はなく、アウラは毅然とした口調で冒険者たちに号令を発する。
「皆さんにお願いしたいのは救助ルートの確保です。既に先発隊が各地に散らばっていますが魔物によって何度も大通りを寸断されています。悪魔の出どころであるヴォイドゲートへは今フェルディナントと勇者アヴァランが向かっています! それまでなんとか、被害に遭われている人々のために避難ルートを拓いてください!」
号令に続いて彼女の部下が指示を行い、冒険者パーティはそれぞれ担当エリアへと散っていく。ライアスら一行はアウラからも見える位置にいるのだが、意図してか、なかなか指示が回ってこない。
そして、周りにいた冒険者を一通り出動した後にアウラが声を上げた。
「ライアスさん、こちらへ!」
都の中心地に目を向けていたライアスらが「ん?」と顔を向き直す。三人でアウラのもとに駆け寄った。
彼女はもとより三人の面々に目をつけていたらしく、敢然とした口調でこう言った。
「ライアスさん、あなた方には他より少し危険な任務をお願いしたいと思います。ご覚悟は良いでしょうか?」
言いながら真摯な眼差しで兄妹とイリューアを見据える。
覚悟は良いかと出し抜けに告げられ、三人は揃って「えっ?」と表情を硬くした。
「……ど、どのくらい危険なんだ? 何をするんだ?」
ライアスが戸惑いながらも応じる。危険だという任務を拒否するのではなく、受け入れる覚悟をするための返答だった。
そんな心情に気付いてか、アウラはふっと表情を柔らかくすると口を開いた。
「あなた方にはアカデミーへ行ってほしいのです。今この都が魔物で溢れている原因が、どうやらアカデミーにあるのです」
「……なんだって?」
思わず聞き返す。……魔物はヴォイドゲートから現れるのではないのか?
アウラが説明を続ける。
「詳しい理由はまだわかりません。ですが、最も魔物で甚大な影響を受けているのがアカデミーなのです。話によれば校舎敷地内への突入も難航しているようです。中には逃げ遅れた人々もいます。そこへ応援に行ってほしいのです。ギルドメンバーのウォルフさんもそこにいるはずです!」
三人は顔を見合わせた。仲間がいると言われれば行かないわけにはいかない。それに、もとよりアカデミーの動向は気になっていたのだ。
「わかった! まっすぐ正門に行けばいいんだな!」
毅然とライアスが言い切ると、アウラはこくりと頷いた。
「はいっ! 道中も魔物と遭遇するはず。お気をつけて! 武運を祈ります!」
彼女は両手を組んで祈るように、だが力強く言った。
気付けば他の冒険者たちは既に持ち場へと出払っている。ブラザーズの面々は確かめあうように頷き合い、紫の靄に覆われたアカデミーの尖塔を見上げる。
いつものようにフライアを憑依させ、ライアスとイリューアは大通りを駆け出す。ひた走るその先には、学園都市のシンボルがいつもとは異なる威容でそびえ立っていた──。
街中の至るところに魔物が徘徊している。獣のようにも見えるが普通ではない。その身体からは禍々しくも不気味な紫の靄に覆われた、闇そのものを彷彿とさせるモンスターだ。
「これがヴォイドの悪魔ってことか」
「いきます!」
紫色の靄を切り払いながら声を掛け合う。
異形の魔物たちは目が合うとすかさず襲い掛かってくる。その都度ライアスとイリューアは剣を構え相対する。
ザンッ‼
剣で戦うライアスとイリューアの打ち下ろす刃がその身体に食い込み、薙ぎ払って道を作る。
だが、倒すたびに勝利を確かめる余裕もない。
どれだけ斬り伏せても文字通りにキリがない。魔物たちは際限なく溢れ、兄妹が一時期通っていた冒険者案内所も紫の靄に昏く染まっている。
言われている通り一体一体の脅威はそれほどでもないのだ。
不気味な靄を纏ってはいるものの、その形様はパンサーやコボルト、コウモリなどよく見るモンスターと似通っていて強さもそんなに変わらない。
ただ、ひとつ違うのは……。
「どういうこと? あんなに手応えがあったのに、こんな跡形もなくなるなんて……」
眉をひそめて呟くイリューアの視線の先、斬り伏せられ息絶えた魔物の姿がある。その身体を覆う靄がすうと消え失せたと思えば、同時に肉体そのものまで消失してしまった。
(なんにも、残らない……)
「確かに身体まで刃を刻みました! なのに、血も出ないなんて……!」
「い、今はそんなこと考える余裕はねえって! 都が汚れなくていいこった!」
狼狽える女子二人にライアスは剣を振りながら吐き捨てるように言った。
剣を振るうのを止めたら袋叩きになる。次々襲い来る魔物をがむしゃらに打ち払っては前進するしかない。
自然、一行が進むルートは紫の靄が晴れて轍の跡のように道筋が残った。だがそれは一瞬だけで、振り返ればすぐさま別の魔物が徘徊をはじめ、辺りを闇色に染めていく。
一時は立ち止まって迎撃しようと試みるも、やはりキリがない。
「だめだ、囲まれる! 足を止めるな。進むぞ!」
「はいっ!」
正面を突っ切るライアスにイリューアが続く。
憑依中のフライアも杖を構え、兄へと声をかける。
(後ろ、見てるから、行って!)
「ああ!」
憑依中は直接の意思疎通ができるが、夢中のあまりついライアスが声に出した。
兄妹にはこの力がある。イリューアと前の敵に集中しても、背面は憑依中のフライアに任せられる。
──多少の衝突は覚悟の上だ。
ライアスとイリューアは剣を構え、ひたすら前へ前へと歩を進めた。




