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ブラザーズアローン ~世界に選ばれざる《独り》の兄妹~  作者: flyas
第八章 動き出す影たち
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156 因縁の地を前に

「うう~、気持ち悪いぃ……」

「ちょっと……もう、無理! そこの休憩所に寄ってくれ!」

「……なあ! 休憩ないのか? 降ろしてくれ!」


 戦馬車が街道を進み、しばしの後。荷台に群れ集う冒険者たちが次々に悲鳴を上げはじめた。アトリアへと全速力で向かう戦馬車の揺れはひどく、誰もが眩暈(めまい)や吐き気に襲われている。


 折しも馬車は街道に点在する休憩所を通過するところだ。冒険者が一様に訴えだしたことに戸惑いながら、王都兵らは話し合いの末に馬車を九十度旋回させた。


「当初の予定を変更し、ここで休憩を取る。時間は十五分。これ以降の休憩は取らずアトリアへ突入する。念入りに準備をしておけ!」


 統率役が声を張り上げ、馬車はゆっくりと止まった。




 ヒヒィィィン……! ガタ、ガタガタ……!


 周囲に荒々しく音を立てながら、馬車は休憩所へと入り停車した。


 その途端、数人の冒険者が荷台から溢れるように飛び出し、思い思いの場所に散っていく。休憩所に向かう者、口を抑えながら木陰に隠れる者、喘ぐように深呼吸をする者。


 ライアスとイリューアも馬車を降り、憑依も解くと三人でふうと大きく息をつく。兄妹の身なりもようやく整い、馬車で一眠りもできたため気分は幾らか落ち着いた。だが朝食として配付されたサンドイッチには手をつける気にならない。


 まだアトリアまでは距離があり、もうふたつほど丘を越えないとその姿は確認できない。


「さて……これからどうなるんだろうな」


 大きく伸びをしながらライアスが言う。それを横目にイリューアが口を開いた。


「リーダー、確認しておきたいのですが……」


 ライアスは欠伸交じりに「うん?」と返事をした。一方のイリューアは神妙な顔つきで言葉を続ける。


「その……。今更ですが、私がアトリアに行って大丈夫なのでしょうか?」

「……え?」


 思いもよらない言葉にライアスはきょとん、とイリューアを見やる。

 だが、言われてみればそうだ。彼女はアトリアと対立していたエラセドの騎士なのだから、気にするのも当然だ。あまりにドタバタしていたせいでそれに気付く余裕すらなかった。


「だったら、なんで俺たちより先に馬車に乗ろうって準備できたんだよ?」


 ライアスに尋ねられ、イリューアは僅かに視線を落とす。


「それは……カムト様の慌て様につい……」

「それならそれでいいじゃないか」


 ライアスは間を置かずにそう返した。その割り切った物言いにイリューアは「え?」と顔を上げる。


「つまり、カムトだって行ってくれるって思ったから声かけたんだろ? それなら、もう王都の責任だって思えばいい。それに、今回はもう、相手はアトリアじゃなくてヴォイドなんだろ?」


 それを聞いてイリューアは軽く戸惑いながらも「ええ……」と応じた。ライアスがさらに言葉を継ぐ。


「都がヴォイドに襲われてるっていうのに、エラセドの人間を気にできるっていうなら大したことじゃないだろうよ。まあ、一緒に行動してりゃあ俺もフォローはできるから」


 言葉を受け、イリューアはこくりと頷いた。


「……すいません。戯言でした。今の言葉で安心しました」


 ライアスも頷き返す。


「いいよ。……それにしても、お前もわりと頭で考える前に行動に出るタイプなんだな」

「……えっ?」


 無表情なライアスのぶっきらぼうな指摘に、イリューアはぎくりとたじろいだ。


 フライアがくすりと頬を緩める。騎士としての生真面目さに満ちたイリューアは知略的にも見えたが、あまりそうではなさそうだ。自分たち兄妹もそっちのタイプで、傾向が似ていると仲間としてどこか安心する。


「間もなく出発だ! 準備ができた者から直ちに席に着けっ!」


 不意に王都兵の号令がかかった。


 兄妹とイリューアはもう一度大きく息をつき、フライアを憑依させて荷台へと乗り込む。




 休憩からなかなか戻らない冒険者もいる中で出発の時刻になり、馬車は再びアトリアへと走りはじめた。ふと気付けば人数が少し減っている。乗り物酔いを訴えたパーティの一団が離脱したようだ。


 だが、もうしばらくすれば見えてくるであろうアトリアを前に、そんなことを気にしている余裕はない。




 ……後もう少し、丘を越えていけば都がその姿を現すはずだ。

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