134 市街地戦 対ケゼック商会
「と、止めろっ! 奴を捕らえろっ! 絶対逃がすな‼」
バラックのあまりに不自然なダウンにケゼックが号令を下した。
(あれ? これは……?)
(やっちゃった感じ……?)
数人の用心棒たちが兄妹へとにじり寄る。
兄妹はたらりと汗を流す。とうとう収拾がつかない騒ぎに発展してしまった。
「あ、ああ……、これはやばい」
事を荒立てるな、というウォルフの忠告を今更になって思い出す。
……だがもう遅い。
気付けば複数の用心棒がライアスを取り囲んでいた。こうなればもはやストリートファイトのルールは関係ないが、ライアスの剣は取り上げられたままだ。
「おうっ! 逃げるんじゃねえっ!」
用心棒がじりじりと近付き、身構えるライアスに迫る。だが、素手で戦うには数が多すぎる。
(せ、せ、せめてよお……。この数は剣ねえとさぁ……!)
「オラァッ!」
不意にライアスの死角から一人が飛び込んでたが、見張っていたフライアが氷壁で防ぐ。
面食らった用心棒を掻い潜り、かろうじて難を逃れる。
(……フライアっ! 杖よこせ!)
(ええっ!)
打開策を講じる兄妹をよそに、用心棒が手を伸ばす。
「ほうらっ! 観念しろっ!」
ライアスは腰を落として転がり、傍にあった休憩スペースのテーブルに潜り込んだ。怒号を上げて迫り来る用心棒に椅子を投げつけ、さらに別のテーブルをくぐり抜ける。
もちろん抜けた先には別の用心棒が待ち構えている。その顔面にフライアの氷弾がヒットする。そうしてどうにか追跡を躱していく。
だが用心棒は数が多く、人混みや障害物もあるため簡単には逃げ切ることができそうにない。
フライアの援護も氷魔法の弱点、複数をまとめて攻撃できないこともあって到底捌ききれない。
(はやくくれって! 杖と俺とどっちが大事だよ!)
(ええぇ……? だ、だって……)
フライアは氷弾や氷壁を放ちながら、杖を手放すのを躊躇している。だが追手が迫り、新たな氷弾を放ったところで覚悟を決めた。
(……んああっ! いい?)
(ああ、止まったときに軽くトスしろっ!)
氷弾を食らった用心棒が足を止め、距離が取れたところでライアスが構える。その眼前にフライアの杖だけがすう、と現れた。
「……ほっ! いくぜ」
それを握り、用心棒を睨み据える。
用心棒は杖が現れたことにも気付かず、やにわに突進してきた。その真向かいにフライアが氷壁を出現させ、動きを止める。
ライアスは腰を落として身体をひねり、片手に握った杖を背面に構えた。しばらく使っていなかった技を思い起こし、詠唱する。
「こうだったか? 電撃撃ち!」
次の瞬間、杖が電撃を帯びた。その杖を迫り来る用心棒の胴体目掛け、真横に振るう。攻撃した相手だけでなく近くにいる敵にも電撃を浴びせる技だ。
「だああっ!」
(ああっ!)
冒険当初から使ってきた杖が全力で打ち叩かれ、打たれた用心棒だけでなくフライアまでもが悲鳴を上げる。
だがライアスは構わず攻撃を続ける。剣より振りやすく、また電撃を帯びた杖は素手で防具も軽量な用心棒相手には思いのほか効果的だ。
しかもさすがは魔術師御用達の武器。電撃を帯びる時間が剣より明らかに長い。
ライアスは勢いに乗って、フライアの杖をこれでもかと用心棒の身体に叩き込み、叩打する音が派手に響き渡る。
ガンッ! ガンッ! ガシンッ! ガシャン! ……
(ああ、ああっ、あ~! あああっ! ……)
その叩打音とフライアの嘆き声が重なり、合間に響く電撃音も相まって、まるで合唱だ。
「お前はこの杖の精霊かっ!」
思わず声を上げて突っ込みを入れるライアスに、フライアは悲嘆の声を返す。
(壊れちゃうよ~!)
(お前っ! これで何度も俺の頭ぶん殴ってるだろ!)
(何度も、ってそんな……っ!)
相棒のように握りしめてきた杖だけに愛着もある。大事なものはなかなか手放せない。フライアはそういう性格をしている。
それでも電撃撃ちを幾度と受けた用心棒は次々と倒れ、兄妹はどうにか猛追の波を乗り切る。
幾多もの用心棒を失ったケゼックは腰を抜かした。
「つ、次っ! 誰かいねえかっ⁉」
地べたに尻もちをついたまま助けを求めた。そんなケゼックに向かってライアスが突進する。
「おめえはすっこんでろ!」
走りざまに一発、全力の拳骨を食らわせる。
「ぐええっ!」
するとケゼックは悲鳴を上げ、あっさり気絶してしまった。電撃を見舞ってはいないのだが戦いと無縁の商人には十分な一撃だったようだ。
(そこまでやらなくても……)
気の毒そうに言うフライアをそっちのけに、ライアスはしきりに周囲を見渡す。
「そうでもしなけりゃきりがねえよ! で、次は……!」
ふと通りに目をやると、荷台を引く家畜のロープを急いで解く男たちと目が合った。




