131 剣士が商人に負けるワケ
駐屯地を出る前、兄妹はナシラの地図を再度確認していた。まだ巡っていないマーケットに向かうためだ。
冒険者たちが書き残したのか、地図の端には幾つかの情報が記されていた。商会が寄り集まるマーケットは幾つかあるが、主要なものはナシラの北、西、東の三か所に分かれている。
一昨日兄妹が回ったのは東側で、観光客向けの土産物を中心に扱うマーケットのようだ。
一方で西のマーケットはサダルメリクの戦場、北のマーケットはザウラクの闘技場に向けて、武具や医薬品が充実した品揃えになっているらしい。特に西のマーケットは都の外れ、と言っていいほど西寄りに位置していた。
「西のとこまで行くのはちょっと……」
フライアが弱気に呟く。これまで散々商人に振り回されただけに尚更だ。
「まあな。いかにもサダルメリクと貿易するための場所って感じだもんな。新しい情報があっておかしくないけど、それが……罠だったりな」
ライアスも同意する。すると残るは北のマーケットだ。昨晩行ったペンデンクス商会が北の方面だったので、場所についてもおおよその見当がつく。
「この選択が裏をかいた商人の罠だったり?」
「だったら……もうこの都歩けない」
南の駐屯地から大分離れ、フライアは珍しく自らねだってライアスに憑依した。既に嫌な予感がしているようだ。
「でも、あれだな。ここでの冒険者同士の協力とか、情報共有ってのは悪くない」
(まあね)
脳裏で兄妹が呟き合う。
ナシラの商人は恐ろしいが、ブランドールやアストンのおかげで今のところは大事に至らず済んでいる。
兄妹にとって、人との会話や駆け引きは永遠の課題だ。
それはナシラに限った話ではない。ザウラクではマーシュの勢いに圧されっぱなしだったし、アトリアでの汚れミッションやクルサでの戦争のときも……。いずれもその都ではじめてのことだったとはいえ、兄妹はいつでも人との駆け引きに負けている。
ひとまずは「わかった」と受け入れるか、そうでなければ逃げるよりなかった。
そのせいかナシラでの関わりは新鮮で、どこか嬉しい。都のナゾと商人という共通の敵を相手取り、ブランドールや冒険者たちと力を合わせ、それぞれの視点から真相を追い求める。今進めている任務はどこか嬉しい。
「商人になりたいとは思わねえけど、商人とやり合えるだけの『構え』みたいなのは持っておきたいよなあ」
ライアスが言う。
その『構え』は腰に据えた剣だけではないことを、兄妹は肌で感じている。この都に錯綜する情報もまた武器なのだ。それも、ここナシラにおいては後者の情報のほうが絶大な効果を発揮するらしい。
そんな貿易の都ナシラに、打開の糸口を見つけることはできるのだろうか。
その答えを求め、兄妹は都の北に広がるマーケットへと向かった。




