130 冒険者アストンの推理
ライアスが記憶を整理する中、昨日出会った冒険者アストンは傍にあった椅子を引き寄せ腰を下ろした。
しばらくしてライアスが口を開く。
「それじゃ……俺たちの方から話すか」
フライアも頷き、兄妹で補い合いながら昨晩のことを伝えていく。
警備のミッションで持ち場が外であったこと、雑木林に隣接する裏手側の警備を行い、一人の盗賊を追い払ったこと――。
ただ、盗賊シャルルの名前や、彼の言う目的については念のため伏せておいた。
アストンは顎に手をやり、ふうん、と呟く。
「お前たちは外担当だったのか。で、相手にしていたのはその盗賊だけだったのか。そいつは? 何を企んでいたかわかるか?」
ライアスは首を横に振った。
「いや、わからないな。雑木林にいたってのはわかったんだけど身のこなしが凄くてさ。雑草の中を走ってるのに物音がほとんどしなかったんだ。真っ暗だったからすぐに見失った」
「そうか……」
説明を随分はぐらかしたが、シャルルもペンデンクス商会の内情を掴んでいるわけではなかった。不確かな情報を下手に伝えたところで、混乱を招くだけだろう。
アストンは顎に手をやり考え込んでいたが、やがて納得するように顔を上げた。
「なるほどな。しかし、暗い中でそんな盗賊を二人で追い払えたとは大したもんだな。それで、報酬はしっかりもらえたか?」
「いや、二百十六マーシャルだ」
ライアスが真顔で報酬額を伝えると、アストンは途端に吹き出した。
「ぶっはっはっ! そうだろ! よくお前ら抵抗しなかったな! 今食ってる飯で飛んだだろ!」
「ああ……。二人分でほとんどなくなった」
言わんこっちゃない、とアストンが笑いをさらに大きくする。
ライアスは取りなすように咳払いをひとつすると、改めて口を開いた。
「それで? そっちからの話はなんだ?」
アストンが「ああ……そうだったな」と改め、自身の情報を口にする。
「まずはそのペンデンクスから。俺たちは中の見張りだったんだが、任務だけだったら外でよかったな」
アストンはやれやれと肩をすくめるように言った。ペンデンクスは冒険者らしい風貌の者を屋敷内の警備に当てていたが、当時のアストンもそうだったらしい。
「そんな中は嫌なところなのか? 確か、中を担当してた冒険者らが最後揉めてたけど」
ライアスが問うと、アストンは腕組みをしてうんうんと頷いた。
「ああ、見張りとは名ばかり。結局は雑用だ。持ってる武器も取り上げられて警棒を持たされてな。冒険者やコソ泥の血で屋敷を汚されないようにってね。にもかかわらず侵入を許し、すぐの対応ができなかったら報酬減額だって脅されるのさ。おまけに女子で数人、着替えまでさせられてこの都の貴族たちの相手をさせられていたのさ」
「ええぇ……」
その説明にフライアは思わず声を漏らす。それはもはや冒険者としてではなく使用人やコンパニオンの仕事だ。もしも自分だったら即死級の役回りだ。
眉尻を下げるフライアを置き去りにアストンの言葉は続く。
「で、襲撃がなかったからってこっちも最初は千マーシャルって言われたのが六百まで下がった。少ないって食ってかかった奴が用心棒に囲まれて酷い返り討ちに遭ったもんだよ。警備中の調査だって結局自分より質のいい装備で固めた用心棒が周り中いたから身動きが取れなくて、結局……なあ?」
言いながら分かるだろ、とばかりに兄妹を見やる。
ライアスは小首を傾げながら口を開いた。
「……自分たちが監視されてた、みたいな?」
アストンが頷いてライアスを指差した。
「そう! 中で見たのはそういう光景だ。だからまあ、一応は帰ってこれたが、今思えばあそこも怪しい気がしたんだよな。だから……さっき言ってた盗賊が何をしようとしてたのかちょっと気になったんだ」
説明を受け、兄妹はまた迷いはじめる。シャルルの言うペンデンクス商会の企み、というのはあながち的を外していないように思えた。それについては話さずにいるつもりだったが、アストンには情報を共有すべきかもしれない。
その時、アストンの後ろから声が聞こえた。
「おーーーい! アストンっ! 準備できたぞー!」
昨日一緒にいた冒険者の仲間たちのようだ。
「……ああ! 今行く!」
アストンは立ち上がりながら応じ、兄妹に向き直り改めて口を開いた。
「……すまない。呼ばれちまった。ちょっと早口だがもうひとつ。昨日捕まえた商人だが、やっぱりただの下っ端だった。締め上げてみたんだが、奴もまた路上で大元の商会の人間と口約束交わしただけの商人崩れだった。最近は商人も無能な奴が振り落とされて路上を彷徨うんだとさ。じゃあ、またな!」
そう言って屋台を後にする。
「あ、ああ、わざわざありがとな」
ライアスが礼を告げ、フライアもテーブル越しに頭を下げる。アストンはそれに軽く手を振り、急ぎ足で去っていってしまった。
それを見送り、兄妹は手にしたままの朝食にかぶりつく。
「なるほどな。盗ぞ……義賊も狙う商会ってことか」
ライアスがぽつりと言うと、フライアはうーんと不可解そうに視線を上向けた。
「でも、みんな戻ってきたのに? 誰もいなくなったり、しなくて……」
「それもそうだな」
ああそうかとライアスも宙を見上げたが、ふと視線をフライアに戻した。
「……え? なに? それは……。怪しいって言いながら、冒険者をかっさらう連中が別にいるってこと?」
ライアスがそう尋ねるとフライアが頷いた。
「うん……。でも、シャルル。あの商会も裏で話をって……」
シャルルは企みは他にもある、と言っていた。
「どこかと取引してるって言ってたかぁ? じゃあ、いくつも協力してるとか……?」
冒険者の失踪とそれにまつわる商人の暗躍。その裏を見通そうとすればするほどややこしく、そして恐ろしい。
ライアスが朝食を食べ終え、残りのジュースを飲み干す。フライアもあと少しで食べ終わりそうだ。
「ちょっと、またマーケットを巡ってみようぜ。今度は商会の名前に気を付けながらさぁ」
「む~ん……、ちょっと待って」
兄に言われ、フライアはあせあせと朝食を口に運ぶ。
充実した朝食を終えた兄妹は、再びマーケットへと足を向けた。




