125 お仕事:荘厳なる屋敷の警備……?
目的地に近付き、摩天楼とも言えるような建物の屋根を目指して兄妹は通りを進んで行く。
するとやがて広く整備された敷地が現れ、その中央にいかにも格式高そうな屋敷が塔のようにそびえ立っていた。
玄関口の前に警備員と思しき強面の男が立っている。左右に立つ白い石の柱には商会名が刻まれていた。それを見る限り指定の場所に間違いなさそうだが、兄妹以外にミッションを受けに来たとみられる冒険者は見当たらない。
「おい、そこの! 何をじろじろ見てる! お前のような奴がうろつくところじゃない!」
様子を窺っているうち男に怒声を浴びせられてしまった。その乱暴な物言いにムッとしながら、ライアスはチラシを提示して尋ねてみた。
「宴の警備のミッションを受けにやってきた。どこで受け付けてる?」
すると男はあからさまに眉をしかめた。
「あ? お前が、か? 小汚い格好して、盗賊に成りすまして偵察、とかじゃあねえよな?」
偵察、というあながち外れていない言葉に憑依中のフライアがぎくりと身体を揺らす。一方のライアスは無表情のまま応じた。
「俺は盗賊じゃない。どこに行けばいい?」
男はふんっ、と鼻を鳴らし、屋敷を逸れた敷地の奥を指差した。
「外を回った裏口だ。中を通るんじゃねえぞ」
「……ありがとよ」
一応は礼を伝えたが、警備員の男はライアスと目を合わそうともしなかった。
(はぁ~あ)
やっぱりろくな人はいないようだ。フライアがうんざりするようにため息を漏らす中、ライアスは表情を変えずに玄関口を脇へと回り、敷地の奥へと向かった。
気付けばミッション指定の時間に迫っている。屋敷の裏口に回った兄妹は、異様なその光景に目を丸くした。
他のミッション参加者なのだろう、二十名程度の人々が寄り集まっている。驚いたのはその顔ぶれだ。
冒険者と呼べるような者もいるにはいるが半数くらいで、残りの者は日常着姿で武器すら手にしていない。中には老人の姿まであって、仮にも盗賊団を相手取った警備というミッション内容なのにどう戦うつもりでいるのかまったく分からない。
兄妹は屋敷を振り返り、荘厳なその造りに思わずため息を吐く。この立派な屋敷を警備する人員としてはあまりにも差がありすぎる。
(こんなので守れるのか、これ?)
(……でも、意外と強かったり? 体術とか?)
(ほんとかよ……?)
奇妙な状況に辟易としながら指示を待つ中、受付担当と思しき……いかにも粗暴な雰囲気の用心棒が姿を現した。
やってくるが早いか、用心棒らしきその男は大声を張り上げた。
「よーし! これで全部だな! ……ちっ! これはまた、質の悪そうな連中だな! いいか! 口答えは受けつけねえ! 言われた通りに配置に着け!」
怒鳴るように言うと、用心棒は目の前にいる者から順に敷地の中、外、外、中といったふうに雑に人員を振り分けていった。
並び順からするとライアスは最後に振り分けられそうだ。
(なんだよ、これ。あいつの一言で決まるのかよ……)
あっという間に順番が回り、最後、用心棒はライアスにこう告げた。
「お前は……外だ!」
「外……?」
ライアスは首を傾げる。
そもそも外、というのが何処を指しているのかがよく分からない。
「ああ、この敷地の外回りだ。ネズミ一匹逃がすんじゃねえ! あと、任務中も絶対に敷地には入るな! 盗賊を捕まえたら縛り上げて宴の終了後に伝えろ! 絶対に宴の邪魔をするな!」
用心棒は乱暴に言い捨て、ずかずかと元の位置へと戻る。
「以上だ! 各自配置に着け! もうミッションは始まりだ!」
(え、え、ええっ……?)
フライアは思わず口をパクパクさせる。
あまりに雑な指示。質疑応答など微塵もなく、ミッションの終了がいつなのかすら不明のまま。面食らいながら空を見やれば、夕陽がまだ西に浮かんでいた。
ミッションについて教えてくれた冒険者は確か、夜通しと言っていた。
……まさかこれから朝までずっと警備をやらされるというのか?
一部まともそうな冒険者は兄妹と同じ感想を抱いたらしく、用心棒に食らいついている。ところが他の者、とりわけ武器も持たず戦力にならなそうな者たちは、文句ひとつ言わずに持ち場へと向かっていく。
やがて用心棒と揉めていた冒険者たちも散り散りになっていった。散々怒鳴られたせいか肩をがっくりと落とし、裏口から持ち場となる屋敷の中へと入っていく。
(なんだよ、この仕打ち……)
ぼやくライアスの頭上で、フライアもぽつりと呟く。
(しかも、あの人たちが揃って中……)
(へ?)
呆れ果て、もはや感情のない真顔で口を開く。
(冒険者の人たち、みんな入っちゃった……)
言われてみれば、とライアスが思案する。冒険者らしい身なりの者が中、それ以外の武器すら持たない者が外……。
そして、自分に言われたのは、「外」だ。
(つまり……外は戦力外だと?)
要するに戦えそうな人員を屋敷内の防衛に配置しているのだ。しかも、ライアスは数えられなかった。
頭を掻きながら流れるままに外壁沿いの通りを確認してみれば、ぽつりぽつりと薄汚い男が一人ずつ立っているだけ。
盗賊に襲われたとき彼らはどう対処するつもりなのだろうか……。
もはやどういう顔をしていいかも分からない。兄妹は感情を無にして外壁沿いを歩き、適当な配置位置を探す。 だが移動が遅れたせいで空いた場所が見つからず、雑木林に隣接した誰もいない裏通りを拠点に構えるよりなかった。




