123 冒険者の消息調査へ
骨付き肉を食べ終えると、ブランドールはナシラの全体地図を机上に広げた。
ナシラを根城にする商会の名称が付記され、バツ印などの書き込みが所々にある。メモが記された紙切れも留められ、地図を使ってかなりの思索がされているようだ。
兄妹は背中を丸め、前屈みに地図を確認する。その傍らでブランドールが言葉を添えた。
「こいつは周りの冒険者らには内緒でな、俺たちで取り溜めた情報を一枚の紙に並べてみたものだ」
ライアスが地図をまじまじと見つめながら口を開く。
「けっこうな数で書いてあるけど、どうやって調べたんだ? 聞き取りとか?」
するとブランドールはふふっ、鼻を鳴らした。
「そこいらに広がってる露店や警備中に聞こえてくる連中の声だ」
顔を上げた兄妹が揃って「え?」と疑問符を口にする。ブランドールの口ぶりでは盗み聞きで情報を収集している、というふうに聞こえる。
そんな兄妹の様子を見てブランドールが説明を加えた。
「さっきも言ったように、俺たちは商人たちの取引に一切介入できなくなっちまったんだ。ここに冒険者との相談窓口を設けることすらできない。けどな、ここまで騒ぎがデカくなると嘆きの声がどこからでも聞こえてくるようになるんだ。どこの商会は危ないとか、あの商会はまだマシだとか。店員や客のなりをしていれば冒険者らの愚痴も自然と聞えてくる。そうした《非公式》の情報を寄せ集めたんだ」
ライアスが「ああ、そういうことか」と呟いた。
そういう事情であれば腑に落ちる。思えば自分たちも似たようなことをしてきた。
アウストラリスでギルドを立ち上げたときも、ザウラクでヴェーリングアーマーを調査したときも、それなりの事情があって方法を模索しながらやってきたのだ。
ブランドールは腕組みをすると、改めて兄妹の顔を見やった。
「それで、事の原因を突き止められねえか、せめてもう少し安全に商人たちを調べられないかって追って、ひとまずお前たちに任せられそうなところがひとつある」
「どんなところだ?」
おもむろに言われ、ライアスが尋ねる。
するとブランドールは地図の一区画を指差した。そう遠くない場所で、この駐屯地とナシラの市街地を繋ぐ通りのある区域だった。
「ここにはよく一人の商人が冒険者を相手にミッションを提供しているらしい。商会の名前は『ペンデンクス』。ミッションの内容は敷地の警備や積み荷の警護。……もっとも、待遇や見返りは良くないというのがもっぱらの噂だ。だが、何度も継続的に愚痴を聞く話でもある。裏を返せば戻ってこれる可能性は高い」
説明を受け、兄妹は揃って気のない返事をする。
「ふーん……」
「なるほど……」
可能性、と付けられると鉄砲玉の使いにされるようでどうにも気乗りがしない。
とはいえもともと保険などあるはずもなく、それどころか手掛かりすらない兄妹にとって、王都の士官であるブランドールの命を受けるのが安全であるのも確かだ。
兄妹はちらりと視線を交わし、うん、と頷いた。
「わかったよ。それで、そこに行けばいいのか?」
了解して尋ねると、ブランドールは一枚の紙を手に取った。
「そうだな。一緒にこいつを持っていくといい。いいか、あんまり気取るな。目立つ方が厄介なことになる。連中も、実力がはっきりしない奴とは距離を置く。そのほうが安全だろう」
そう言って手渡されたのは広告チラシのようだった。
『募集 ○○パーティの警護』
『悪しき盗賊団を断ち、寄せ付けない、勇敢なる冒険者求む!』
『新米戦士も歓迎! 実力を配慮』
『ミッション後、即日報酬を提供!』
……なんとも胡散臭い文章がずらずらと並んでいる。
兄妹はしらっとした顔でその紙を眺め回した。
「これ……、見返りが良くねえって聞いてから行くのもアホみてえだな……」
ライアスのぼやきにブランドールが苦笑で応える。
「まあな。まあ、王都のためと思ってやってくれねえか。ここをお前の拠点としていいからよ」
そんなブランドールを恨めしそうな顔でフライアが見上げる。身を挺するのは自分たちなのだ。とはいえ引き受けると決めたことだ。仕方なく、兄妹は揃って首を縦に振った。
ブランドールが頷き返し、助言を添える。
「その約束の時間は三時間後だ。今から行けばたぶんさっきの場所に商人が立っているはずさ。まずは小手調べだ。成果は二の次でいい。ミッションを終えたら必ずまた戻ってきてくれ。頼んだぞ」




