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ブラザーズアローン ~世界に選ばれざる《独り》の兄妹~  作者: flyas
第六章 商人が統べる都
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120 いざ、貿易の都へ

 翌日。「ブラザーズ」の面々は各々ミッションの地へと赴いた。


 兄妹はナシラへと歩みを進めながら、辺りの景色に首をひねる。街道には冒険者のパーティや行商人がそれなりに行き交い、なんら変わった様子が見受けられない。


「聞いてるのと、ちょっと違う気がする」


 フライアがぽつりと呟いた。危険な場所だと散々言われ気を張り詰めていたのに、まったく危険な気配を感じないのだ。


「その油断が命取りなのかもしれないな」


 ライアスは手を頭の後ろに組みながらそう口にする。異変が起こる直前というのは不気味な静けさがあるものだ。


 憑依の力も使わず、いつものペースで街道を行く兄妹だが、二人の距離は腕が触れるほどに近い。普段通りに振る舞いながら、兄妹は緊張を解くことができずにいる。


 初めて訪れる、何やら正体不明の都──。


 ナシラが近付くにつれ、兄妹はどこで警戒を強めるべきかを無意識に推し量っていた。




 貿易の都ナシラにたどり着き、最初に目に飛び込んだのは街道が整然と交差する大広場だった。


 かなり開けた場所で、いくつもの荷馬車が並んで積み荷を降ろしている。その荷物を運搬する商人や冒険者たちが幾人も道を行き交い、その先を見ればこれまた広い大通りが東西へと長く延びていた。


 その大通りを先へと進めばマーケットが建ち並ぶ。露店に並んだ食べ物を求め多くの客たちが賑わい、活気に溢れている。いかにも威勢のいい貿易都市という様相だった。


 一見する限り怪しいところもなく、兄妹はきょとんと顔を見合わせる。


「えー……。なんか、全然わかんない」

「ウォルフやカムトが嘘を言っていたとは思えないけど。これだけじゃこの都の異変とかって言われても本当にわからねえな」


 危険な場所、というウォルフらの助言が却って頭を混乱させる。露店もその客も、至って健全な場所にしか見えない。


「……行けるところまで行ってみるか? 検問かなんかがあるんだろ?」


 サダルメリクに向かおうとする冒険者は検閲にかけられるとカムトが言っていた。ナシラが西への旅路を妨害しているのなら、実際に西に向かってみればいい。


 そう提案するライアスだったが、フライアは怪訝な顔で黙り込む。


「どうした?」


 数歩進んだところでライアスが問うと、フライアは不安そうな面持ちで呟いた。


「……まだ、早くない?」


 その言葉にライアスは口を結び、腕組みをして考え耽る。フライアも表情を変えないまま、しばしの沈黙が流れた。


 やがてライアスが顔を上げ、口を開く。


「そうだな。これで問題なく西まで行けたら誰も困ってねえもんな」


 それにフライアが頷く。


「むしろ、行けちゃったほうが問題」

「……だな。まずは近いところから様子を見るか」


 街は平穏そのもので危険など微塵も感じない。一方、その実態は何も分からないのだ。うっかり警戒を緩めていたことに気付いたライアスが改めて気持ちを入れ直した。


 ナシラのマーケットは大きく分けて三か所。大通りに沿ってそれぞれ東、北、西の方面へと分かれている。兄妹はまず手近な東のマーケットへと向かい、市場に並ぶ品々を見ながら、冒険者向けのミッション案内所がないかを探してみる。




 巨大なアーケードを抜けて露店が建ち並ぶマーケットへと足を踏み入れる。


 すると商人に運び屋、冒険者を問わず大勢の人々が賑わいを見せていて、商品を提供する側の店にもその要求を満たすだけの品々が取り揃えられていた。食品や日用品のみならず戦士向けの武器防具までもが並び、それも王都の品と比べ数段材質が良さそうなものばかりだった。


 店頭に飾られた剣を注視しながらライアスがううむ、と唸りを上げる。その剣は自分がよく手掛けている銅や鉄のインゴットとは異なる、何やら高貴な青白い光沢を帯びている。商品説明を見れば材質が明示されていた。


「素材はサダルム銀……。どっかで聞いたことはあったけどサダルメリクの郊外で取れるから《サダルム》だったのか」


 その刀身に顔を映し込ませながらライアスが呟く。


「見て、こっち。ノースライフ製の銀って」


 傍らにいるフライアも好奇心を隠すことなく商品を夢中に観察している。


「ノースライフ? どこだって?」

「エラセドの、イリューアと歩いたとこの」

「……ああ! あっちの山脈から取ったものもここにあるのか!」


 都間の争いに加わってイリューアと剣を交えた後、崖から転落して行き着いた鉱山を思い出す。エラセドの資源というその天然の岩石は、やはり青白い光沢を放っていた。


 どうやらこのマーケットにはマーシア全土の品が集まっているようだ。

 それら武具の品揃えに夢中の兄妹だが、不意に店主が声をかけてきた。


「おう、そこの! 買う気あるんだよな! 買いもせずにおさわりは禁止だぜ!」


 焦ったライアスが両手を振る。


「……! あ、いや、触ってない触ってない」


 すると店主はむっ、と顔をしかめた。触っていないことは理解してくれたようだが、買う気がないのが不満なのだろう。

 のっそりとカウンターの椅子に戻り、チラチラと冷ややかな視線を向けてくる。


(……少しはゆっくり見せてくれてもいいだろうによ……)


 居心地が悪くなり、兄妹は店を後にした。


 次に革細工を扱っている商店に入った。やはり店の規模が大きく、商人や貴族が好みそうな装飾品もあれば、冒険者向けの戦闘服や帽子まで取り揃えてある。


「このへんってシェラタン製だったり……しないか。よくわからない商会名ばっかりだな」

「『商会アトラザーク』、『ペンデンクス商会』、『貿易ギルド バラモス』……」


 兄妹は揃って商品札を確認する。革細工はシェラタンでもよく見かけた。ひとつくらいは覚えのある名称がないか探してみるも、見聞きしたことのないものばかりだ。


 革や鋼材の供給を生業としてきたせいか商品そのものより素材に意識が向いてしまう。今度は先程の店のように追い立てられることもなく、まじまじと鑑賞することができた。


 兄妹にとって魅力的な商品ばかりだったが、頭には根本的な問題が残り続けている。


「高い……」


 フライアがぽつりと呟いた。


 欲しいものはいくつもある。新しい武具のひとつやふたつ、使い古している鞄の代わり。気になる商品がある度に値札を確認してみるのだが、その額がとても際どい。

 決して買えないこともない。ギリギリ手も届く。だが、そうすると大型ミッションでようやく少し潤った懐がまた一気に冷え込んでしまう。


「まだ予備の修繕キットあったっけ?」

「あんまりなかった……、あ、でも、ベベルさん補充したから……!」


 買おうか迷っているものが、今あるものを直せるかどうかに変わってしまった。

 二人はこれまで急場しのぎで武具類を保持してきた。モンスターと戦い破損した鎧はプレートを替えたり、革を補強することによって凌いできた。


 兄妹にとって武具は消耗品だ。使えば減るような品に貯金の半分以上を費やすことにはどうしても抵抗があった。


「……それなりの素材を使ってそうだし、モノの割には安い気がするんだけどな。俺たちが普通の冒険者だったら買ってるとこだろうよ」


 不平をこぼすようにライアスが言い、兄妹は店を後にした。

 その後もいくつかの店を回ったがめぼしい情報を得ることはできなかった。


 結局観光で一日を終えることとなり、兄妹はマーケットを離れてその日の宿を探した。


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