118 兄妹工房 開設
「ざっとこんなところか?」
すべての荷物を運び、試しに一通りの道具を並べてみると、屋上のスペースを半分ほど使うかたちで作業場が完成した。素材は用意していた樽に収め、作業に使う水は手間だが汲んで持ってくることにした。
作業場を見渡し、ライアスは満足げなため息を吐く。
「広さよし、器材よし。あとは鉱石とかモンスターの皮を持ってきたらここで作業できる感じか」
フライアも満足そうに頷く。
「そう、かな。たぶんできる」
これで慣れ親しんだ作業を好きなときに行える。その目処がつけられたところで兄妹は道具を片付けに入る。
すると、昇降口から階段を上る音が聞こえてきた。
「誰だ? イリューアか?」
ライアスが首を傾げて言う。するとフライアはその足音に耳を澄ませながら塔の下を窺う。
「えっと……。違う。ウォルフ!」
意外な人物の名前が上がり、ライアスも「お?」と昇降口を覗き込む。
すると上がってくるウォルフとちょうど目が合った。
「おう! 久しぶりだ。何やってんだー、お前ら?」
階段を上がるウォルフが塔内に声を響かせる。ライアスも昇降口の中へと声を投げかけた。
「あー? ちょっとばかり遊び場を作ってんだー!」
「あー?」
そんなやり取りをしながら、ウォルフが屋上へと姿を現した。道具はまだ片付いていない。
その様子を見て不思議そうな顔をするウォルフに、兄妹はシェラタンでの生活を含めたこれまでの経緯を説明した。
「ほーう。お前らも物好きだな。それで、ここで作ったやつをどうするつもりなんだ?」
「前と同じようにシェラタンの雑貨屋の店主に処理をお願いしようと思ってる。旅先で得られた皮とか鉱石をここで加工して送る感じだな」
するとウォルフは怪訝な顔をした。
「あ? ここでなんか剣とか鎧を作るわけじゃねえのか?」
どこか不満そうに言われ、兄妹は戸惑いを覚えた。ウォルフは実用的な武器や防具を作る鍛冶場だと思ったようだ。
「あー、今はそこまでいかないかな。多少の修理とかはできるけど俺たちがやってきたのは武具ができるもっと前。純度が低い鉱石から金属を取り出したり、剥いだ皮が腐らないようにしておくとかそのレベル」
ライアスが説明すると、ウォルフは「はっ」と軽く肩を落とした。
「なんだ、面白くねえな。全部オーダーメイドできるってんなら鍛冶師とか革職人とかってサマになるんだろうによ」
フライアが「うぅ……」と悔しそうに唇を突き出す。ウォルフの言うことが理想ではあるが、現実はなかなかそうもいかない。
ライアスが腕組みをして実情を説明する。
「そう言ってもなあ。この炉は火のエレメントを灯して鉱石を製錬するけどこの環境じゃインゴットにすることと、剣の刃こぼれの修繕とかが限界だな。皮にしたって《革》にするために専門の場所でなめしてもらわないと。モンスターから剥ぎ取った皮がそのまま防具に使えるわけじゃないから」
それは真っ当な説明だったが、ウォルフは不可解そうに眉根を寄せた。
「ん……? ま、まあそうだよな。……あ、いや。なんとなくだけどよ。そのへんってうまく時短してやりくりできるもんじゃないのか?」
「え……?」
フライアがきょとんと首を傾げた。
皮をなめす工程が時短できる……?
その言葉に兄妹は思わず顔を見合わせてからずい、とウォルフに寄った。
「あるのか? あったらいいんだけどな」
シェラタンで暮らしていた頃、兄妹は皮のなめしや防腐処理には相当の時間を割いていた。ウォルフの言う「時短」が簡単にできるとはとても思えない。
真顔で見つめた兄妹だが、ウォルフは戸惑うように手をひらひらと振る。
「き、気にすんな! そこはお前らの方が専門だろ?」
ライアスは「そ、そうか?」と呟き、あれこれ考えながらもひとまずは納得する。
「まあ、それでこれらをシェラタンの馴染みの人に渡せるように手配もかけたんだ。ちょっとした金策になればいいかなと思ってる」
改めて言うとウォルフも「そういうことか」と頷いた。
「……でよ。さっきフェルディナントからミッションの更新と報酬の報告があった。それで話をしたい」
話題が移り、ライアスは片付けを再開しつつ応じる。
「あー、わかった。片付けたらすぐ事務所に戻る」
ウォルフが昇降口へと消えるのを見届る。ガチャン、と重々しい音とともに扉が閉まり、兄妹は片付けをしながらぽつりと呟いた。
「鍛冶師に革職人か。ちょっと興味はあるんだけどな……」
「うん……」




