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ヴェリタスの最終定理7:エンド・オブ・ヴェリタス  作者: LIU WANPAI
地獄の終わり

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8/13

私1:再生!

歴史。

それは、勝者が紡ぐ都合のいい嘘であり、浅薄な愚者たちが退屈しのぎに命を文字通り踏み潰してきた、粘りつく、悪意の積層のことである。


新暦5年。


世界はあまりにも呆気なく、そして理不尽にその半身を破滅の淵へと滑り落とさせた。

原因は、実のところ。どこを探しても見当たらない。

政治的な対立も、領土の奪い合いも、宗教上の対立すら存在しなかった。

ただ、人間やエルフといった自称・高等種族たちが、王都の路地裏で静かに暮らしていた「サメ獣人」たちを、心底くだらない嫌がらせとして、趣味的に、娯楽として絶滅へ追いやった。

ただ、それだけのことだった。

彼らはサメ獣人のヒレを剥ぎ取って靴底の飾りにしたり、酒の肴にして笑った。

異形であること、数が少ないこと、そしてどれほど苛んでも、愛を失わずに大人しく耐えていたこと。

ただ、それだけの理由で、ひとつの種族が地上から跡形もなく狩り尽くされた。


「ウケるから」


「キモいから」


「そこにいたから」


命の重みなどという言葉は、彼らの肥大化した自尊心の前では一粒の埃にすら満たなかった。


だが、愚者たちは忘れていたのだ!


命を愚弄し、人生という泥臭い「過程」をギャグのように消費したとき、はたしてどのような「結果」が牙を剥いて跳ね返ってくるかを。


サメ獣人の最後の生き残り。

それが、究極の魔導の始祖。

それが、フウカ・ヴェリタスであった。


そして、何巡かした100年後の新暦108年。

その日、王都の空は、朝焼けでも夕焼けでもなく、ドロリとした濃濁の血肉色に染まり上がった。

現世に、100年ぶりに復活したフウカは、もはや憤怒という言葉すら生ぬるい、事象そのものと化していた。彼女が髪を揺らし、ただひとつ、指先を天へと掲げた瞬間、王都の目抜き通りは巨大な肉の解体場へと変貌を遂げた。

惨劇は、一瞬にして爆発した。

歩道を歩いていた貴族たちの肉体が、内側から膨張した自らの血液によって破裂した。頭蓋骨が砕け散り、脳漿が飛び散り、色とりどりのドレスが死臭の漂う赤黒いボロ切れへと変わる。


「ホロコーストには、ホロコーストを。真心を込めてお返しいたしましょう」


フウカの透明な声が、王都中に響き渡った。それは怒りの叫びではなく、淡々とした、そして圧倒的な意志に満ちた宣告だった。

フウカの背後に顕現したのは、無数の巨鮫の顎であった。空間そのものを噛み砕く咬撃が、逃げ惑う群衆を容赦なく呑み込んでいく。

逃げ惑うエルフの騎士たちが放つ高潔な魔法は、フウカの肌に触れる前に粉々に分解され、逆に彼ら自身の肉体を内側から削ぎ落とす酸の雨となって降り注いだ。皮膚が溶け落ち、赤剥けになった生肉の塊となった騎士たちが、己の胃袋や腸を路上に撒き散らしながらのた打ち回る。

建物の屋根から、路地裏から、豪奢な邸宅の地下室から。どこへ逃げようとも、フウカの全知の魔術から逃れる術は存在しなかった。

サメの顎が空間を切り裂くたび、百人の人間が上下の肉体に二分された。切断面から溢れ出る内臓の海の中で、上半身だけになった人間たちが手足をバタつかせ、自らの小腸を引っ張り出しながら絶叫した。骨が軋み、肉が引き裂かれ、眼球が圧力で飛び出す凄惨極まりない屠殺の宴。


【だが、この惨劇において最も残忍で、恐ろしいのは、殺されゆく人間たちの「態度」であった。】


あぎとによって下半身を噛み砕かれ、背骨をきしませて血を吐き出す男が、何をしていたか。

彼は恐怖に顔を歪めながらも、その瞳の奥で自らの死を冷笑していたのだ。


「うそだろ……マジ?……俺、こんなところで喰われて死ぬの……?つかウケる……」


【自らの死という最大の「結果」すらも、彼らは他人事のように薄笑いを浮かべ、ヘラヘラと笑いながら骨を砕かれていった。】


生きる過程を愚弄し続けてきた彼らの魂は、自らの命が奪われるその最期の瞬間すらも重重しく受け止めることができず、軽薄な冷笑という病に侵されきっていたのだ。


冷笑。


冷笑。


冷笑。


腕をちぎられ、首を捻じ切られ、腹を割かれて内臓を啜られる人間たちが、次々と口端を歪めて薄笑いを浮かべながら死んでいく。

己の悲惨な死を、悲劇としてではなく、ただの不条理なギャグとして処理しようとする空虚な群衆。


フウカはその光景を、冷めた青い瞳で見下ろしていた。

殺しても、殺しても、喰い尽くしても。

彼らは自らの命の重みに気づかない。

他人の喪失に気が付かないから、自分の喪失にも気が付かない。

どれほど凄惨な激痛を与えても、自らの死すらも冷笑して、そうして全人類は、王都の路上で肉の泥となって絶滅した。


静寂が訪れた。


血の海と化した王都の中心で、フウカはたった一人、佇んでいた。足元には命の破片が積み重なり、腐臭と鉄の匂いが空気を完全に支配している。

フウカの口から漏れたのは、勝利の歓喜でも、復讐の達成感でもなかった。

ただの、深く、底のない「呆れ」であった。

命をこれほどまでに軽んじ、他者の生きる過程を泥足で踏みにじり、己の死すらもヘラヘラと笑って受け流す。この種族には、絶滅という結果すらも生ぬるい。ただ殺して終わらせるだけでは、彼らが犯した「生への冒涜」という罪は永遠に贖われない。

フウカは溜息をひとつ吐くと、広大な血の海へと向かって、両手を広げた。


彼女は、あまりにも残忍な女だったのだろうか?


いいえ、断じて違う!


フウカ・ヴェリタスが解き放ったのは、究極の「教育」であり、「愛」であった!


彼女は次元の壁を切り裂く手前で、その膨大極まりない始祖の魔力をすべて注ぎ込み、王都に散らばるすべての肉片、すべての魂、全人類の細胞を、一瞬にして再構成した。


命を、丸ごと蘇生させたのだ。


他人の人生という「過程」を愚弄すれば、必ず「死」という恐ろしい結果のしっぺ返しが来る。


命とは!


生きるとは!


冷笑して消費するコンテンツなどではないのだと!


彼女は全人類の肉体と精神の深層に、決して消えない激痛の記憶と共に、その真理を刻み込んだ。

次元の裂け目へと消えていくフウカの背中を見送りながら、蘇った人類の多くは、激しい慟哭に包まれた。


特に、若き男性たちは膝をつき、地を這いながら咽び泣いた。彼らは自らがこれまでいかに浅薄で、どれほど残酷な冷笑の中で生き、他者の命を奪ってきたかを痛感したのだ。フウカが示したのは、暴力による滅亡ではなく、己の浅愚さを恥じ入らせるための、あまりにも巨大な「愛」であった。

彼らは血と涙で顔を汚しながら、二度と命を愚弄しないと誓い、己の愚かさを恥じた。


女性たちもまた、その脳内に反省という文字こそ刻まれずとも、直感と感覚で悟っていた。「人類は、取り返しのつかない恐ろしい間違いを犯した。そして、その間違いを完璧に指摘され、しかし、生き直す機会を与えられたのだ」と。圧倒的な愛に打たれ、彼女たちもまた、涙を流した。

世界は、フウカという偉大な始祖の「愛の教育」によって、平和へと歩み出すはずだった。


しかし!


いかなる時代や、いかなる世界においても、絶対に反省をしない、不治の病のような存在(おかしいひと)が一定数残留する。


それが、老人男性たちであった……!


それも、ただの老男ではない!


生まれながらにすべてを所有し、そして、一度も汗を流したことがなく、苦労の「過程」を知らず、ただただ、親の威光と財産という、他者の「結果」にすがりついて生きてきた、マザコンの……ボンボン老人男性軍団である!


彼らの脳髄は、フウカの与えた慈悲深い愛を「屈辱」としか受け取れなかったのだ!


己の過ちを認める知性も、他者の痛みに共感する心も持ち合わせていない彼らは、安全な地下シェルターから這い上がってくるや否や、蘇った若者たちの反省の涙を嘲笑し、再び醜悪な支配の牙を剥き始めた。


「いや、サメ獣人の小娘ごときに怯えおって!我々の財産と権力を脅かす者は、すべて悪だ!」


「そうだ、我らこそがこの世界の正当な支配者!反省など弱者のすることだ!間違いを認めず、改善しないことこそが、つよさだ!」


彼らは自らの保身と、失われかけた特権を取り戻すため、フウカが去った後の混乱に乗じ、より陰湿で、より明確な悪意をもって世界を再び侵食し始めたのだ。若者たちの改心を握り潰し、悲劇の反省を歴史から抹消し、再び世界を冷笑と支配の暗黒へと引きずり込もうとする老醜の軍勢。

だが、世界はまだ死んではいなかった。


時は遡り新暦10年。

現世に呆れ果てたフウカが去った血と灰の残光の中に、たったひとり、静かに立ち上がる少女の影があった……。

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