怨恨6:【正義とはヴェリタスではない!】
イメージソング:RIVER
https://youtu.be/T6G92-bGrKA?si=Cp6dLzbaidG-MXbO
エラーラ、ナラティブ、アリシア、アスナ、ヘレナ。
ヴェリタスの系譜は、定められた可軌の上に沿って、寸分違わずに、その足跡を伸ばしていった。
彼女たちは、ただ、己の内に滾る「正義」のために戦い続けた。傷つき倒れる人々を救い上げ、しかし、時にはその手で、抗う者たちを容赦なく惨殺した。
世の愚者どもは「正義」という言葉を耳にすれば、それが、あたかも時代や理を超えた絶対の正しさであると錯覚する。
他者に譲歩するやさしみを持つ者は、正義の反対側にもまた別の正義があると叫ぶ。
だが、それはあまりにも滑稽な誤認である!
【【【正義とは、真理ではない!】】】
ただ、個人の胸中に巣食う、「偏見」の異名に過ぎない!
かつて、ある閉ざされた東方の島国において、誇りを汚された戦士は、その場で無礼者を叩き斬り、その血で路地を染めることが絶対の理とされた時代があった。
また、科学という「新作の真理」が世界を揺るがし始めた頃、旧世代の権力者たちは自らが愛用してきた「旧作の真理」を脅かす者を邪教の徒として捕らえて惨殺した。
ある時代において正解と崇められた思想は、時が満ちれば悪魔の所業へと反転する。
故に、ヴェリタスの者たちが掲げた正義もまた、同じであった。
ある一面から見れば世界を救う慈愛の真理であったが、別の角度から見れば、世界を無残に磨り潰す悪魔の真理に他ならなかった。
そうして。
世界は、あらかじめ定められた予定通りに、完璧に破滅した。
空は裂け、地は爆ぜ、生命の肉体は原形をとどめぬほどに粉砕された。血と、臓物と、涙と、排泄物が狂乱の渦の中で混ざり合い、世界そのものが巨大なミンチへと成り果てた。
そして、予定通りに。
始祖フウカ・ヴェリタスが世界を元の形へと修復し、予定通りに、彼女はこの救いようのない世界から姿を消した。
すべては「予定通り」であった。
フウカも、エラーラも、誰一人として、なぜ自分たちがこの地獄のような世界で血を流し、激戦を繰り広げなければならないのか、その本当の理由を知らなかった。
人々はみな、目の前で巻き起こる惨劇や不条理に対して、心のどこかで首を傾げながらも、こう呟いて納得していたのだ。
「まあ、そういうものか」と。
彼らは、その血塗られた混沌の世界を受け入れ、時にはそれを誇り高く「愛している」とすら思い込んでいた。
だが、勘違いしてはならない。
それは「愛」などではない。
ただの「慣れ」である。
例えてみようか。
君が、どこかの組織に属したとして、上司や先輩が理不尽に君の頬を殴りつけたとする。そして、後輩を殴って痛めつけることこそが、その組織の古くからの伝統だと教え込まれたとする。
君はその歪んだ理屈に納得などしていないはずだ。
しかし、時が経てば「まあ、そういうものか」と受け流し、同じように後輩に拳を振るうようになる。
あるいは、君の夫が何の前触れもなく君を激しく殴りつけたり、君の妻が君の財布から黙って金を抜き取っていったりしたとする。
君は深く傷つきながらも、波風を立てぬために「まあ、そういうものか」と溜息をつき、言葉を呑み込む。
これは、器が広いからではない。
慈悲深いからでも、優しさに満ちているからでもない。
ただ、痛みに麻痺し、異常に毒された現実に「慣れ」てしまっただけなのだ。
【愛と慣れを混同した世界は、腐臭を放ちながら回り続ける。】
時空の境界線の先の別世界にて。
フウカ・ヴェリタスは、空と海の境界線が溶け合う上空に……浮かんでいた。
フウカの青い瞳は、目の前の海を見つめながらも、遥か次元の彼方にある、元いた世界……新暦の王都へと、深く、深く……思いを馳せていた。
もう、あの世界には戻れない。
戻るべきでもない。
自分という存在は、もう、あちらの歴史から完全に切り離されたのだから。
だが、フウカの胸の奥には、消えることのない冷たい疑問の楔が突き刺さっていた。
人々はなぜ、地獄の中でも、「まあ、そういうものか」と微笑み、慣れという毒に侵されたまま死んでいけたのか。
そして、その狂った世界の裏側で、一体何が因果の糸を引いていたのか。
始祖フウカは、沈みゆく夕陽を浴びながら、静かに、そして冷徹に、歴史の闇に隠された真理を思索し続けていた……。




