↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴェリタスの最終定理7:完結編 ヴェリタス最期の日【2位/このシリーズだけで完結してます】  作者: LIU WANPAI
プロローグ:作られた地獄

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/11

怨恨4:【あなたの死を予言します!確定された惨殺!座して待つ破滅!】

イメージソング:バイオハザードⅤリトリビューション サウンドトラック

https://youtu.be/DH1_x2HuJk0?si=0BAimpYEKuy9QdL3

何もかもが、もう、嫌だった。


俺は、全てを、捨てたい。


俺は死にたい。


もう、死にたい。


死にたい。


死にたい。


死にたい。


早く、死にたい。


一度死んだが、もう一度、死にたい。


乾いた風が、魔導車の泥除けをカラカラと叩き続けている。

かつて緑に溢れていた世界はすでに没落し、眼前に広がっているのは、どこまでも続く黄金と灰色の砂漠だけだった。

俺とアリアは、たったひとつの目的地を目指して走り続けていた。

世界の最果て、あらゆる追撃も絶望も届かないとされる場所、「アーク・ノヴァ」。

何週間、いや、何ヶ月が過ぎたのだろうか。

魔導車の魔導機関は爆音を上げ、水筒の水も、食料も、そして俺たちの精神の猶予も、底を突きかけていた。地図とコンパスが示す最終座標へとたどり着いたとき、俺たちが目にしたものは、虚無だった。


そこには、何もなかった。


街はおろか、一軒の廃屋も、枯れた井戸すら存在しない。

ただ、砂に埋もれた古びた道標が、まるで墓標のように突き立っているだけだった。


「ここなの……ケンジ?私たちの目指した場所は……ここなの……?」


アリアの声が掠れていた。

膝から崩れ落ち、熱い砂に手をつく。俺は震える手で何度も地図を確かめたが、数字は正確にこの地点を示していた。絶望が全身の血を凍らせる。俺たちは、何もない砂漠の真ん中で干からびて死ぬために、ここまで戦い抜いてきたのだろうか。


それから数日が過ぎた。

水筒の最後の一滴を分け合い、死を待つばかりとなった。

ある時、地平線の向こうから巨大な車両が砂煙を巻き上げて近づいてきた。俺たちは残された気力を振り絞って岩陰に身を潜めた。

車両は道標の脇で停車した。

直後、天が鳴った。

空を裂いて降りてきたのは、プロペラも翼もない、流線型の白い巨大船だった。

無音の反重力で宙に浮くその船から光が伸び、車両のコンテナを次々と吸い込んでいく。

そして荷積みが終わると、船体は陽炎のように揺らぎ、空中へと消え去った。


「上だ……!」


俺はかすれた声で呟いた。


「アリア。目指した場所は地上にない。空にあるんだ」


高度な光学迷彩に守られた天空の玄関口。

俺たちは次に現れた定期便のコンテナに潜り込んだ。

結界を抜けてコンテナの外へ踏み出した瞬間、俺たちの眼前に広かがっていたのは、人間の世界とは到底思えない神々の光景だった。

雲海を貫いてそびえ立つ、数千メートル級の透明な結晶と白銀の摩天楼群。光で編まれた橋を無数の空中艇が行き交い、街全体が巨大なひとつの生命体のように脈動していた。


天空の都市国「アーク・ノヴァ」。


だが、そこにいた住人たちは、俺たちの知る人間ではなかった。

彼らの肉体の大半は滑らかな機械と融合し、労働という概念すら存在しなかった。

ドローンが清掃し、機械腕が給仕し、人々は頭上のホログラムから知識を直接脳にダウンロードしていた。

汗を流すこと、学ぶこと、挑むこと。俺たちが知る人間の営みは、ここではすべて「野蛮で非効率な昔話」に過ぎなかった。


俺たちは客人として扱われた。

飢えも、病も、争いもない清潔な住居が与えられた。

しかし、彼らの視線はひどく無機質だった。それはヒトというコトを見る目ではなく、博物館の化石や檻の中の珍獣を、つまり情報という「モノ」を眺めるような、冷たい観察の眼光だった。


数日後、俺たちは街の中心にある巨大なドーム広場へと足を踏み入れた。

市民たちがソファに身を沈め、合成食料を口に運びながら、空中スクリーンの映像を楽しげに鑑賞していた。

そこには、勇壮なオーケストラと共に、鮮明な立体映像が映し出されていた。

俺は息を詰めた。

画面に映っていたのは、数ヶ月前のあの、「俺」の地獄だった。ガレオス砦での凄惨な死闘。ボリンが頭を砕かれ、リリィが血を吐いて倒れたあの瞬間が、ドラマチックな効果音と共に美しく編集されていた。

観客たちは涙を流し、ポップコーンを咀嚼しながら絶賛していた。


吐き気が胃を突き上げた!


俺たちが血を流し、命を削り、仲間を失って泣き叫んだあの地獄のすべてが、この空の上の連中にとっては、退屈な午後を彩るただの「エンターテインメント」に過ぎなかったのだ!


俺たちは逃げるように広場を去り、情報管理センターの最深部へと潜入した。たどり着いたのは「追憶のヴェリタス」と呼ばれる神殿のような空間だった。

何億という光の粒子が水晶の巨大柱の周りを漂っていた。その粒子ひとつひとつが、下界に生きる人間の魂だった。アーク・ノヴァの支配者層は、五感、思考、感情のすべてをリアルタイムでデータとして吸い上げていたのだ。

俺は震える指でコンソールを操作し、自分の名前を入力した。


『対象:タチバナ・ケンジ』


『カテゴリー:異世界転生者』


『ジャンル:サバイバル、ホラー、サスペンス』


『視聴者評価:星4.5』


画面には、俺のこれまでの苦悩、心の中の独白、アリアへの想い、すべてが詳細な「設定資料」としてデータ化されていた。


俺たちは、生きていたのではなかった!


踊らされていたのだ!


俺たちの流した血も、涙も、仲間の死も、すべてはこの都市の神々を満足させるための「脚本」の上での出来事だった!


「なぜ……なぜこんなことを……」


アリアの声が、底なしの暗闇から聞こえるように響いた。俺はさらに深い階層へとアクセスした。

そこに記されていたのは、あまりにも完璧で、絶望的な思想だった。


百年前、この国の天才魔導師は、世界のあらゆる苦痛を追放するためにこの街を築いた。彼らは病も、寿命も、奪い合いも、そして「過程」という名の不確定要素もすべて排除した。何かを得るために努力し、傷つくという「過程」を世界の欠陥と断じたのだ……とアーカイブに記されていた。

だが、苦痛と過程を完全に失った結果、彼らは生きる「目的」そのものを失った。感情が凪ぎ払い、心が死に絶えたのだ。

だからこそ、彼らは下界を「コンテンツ」として維持した。自分たちが捨て去った「愛し、苦しみ、足掻いて死んでいく泥臭い過程」を下界の人間たちに演じさせ、それを安全な場所から消費することで、自分がまだ人間であるという錯覚を得ていたのだ。俺たちは彼らにとってのエンターテイメントであり、同時に、死んだ心に刺激を与えるための「生命維持装置」だった。


俺はコンソールを前にして、子供のように声を上げて泣いた。怒りでも屈辱でもない。あまりにも無力で、救いようのない憐れみの涙だった。彼らは生きながらにして完全に死んでいたのだから。


だが、絶望はそれだけでは終わらなかった。

俺が最後の悪あがきとして、システムに記録された自分たちの「未来予測」を展開したとき、画面に映し出されたテキストに、俺の思考は完全に停止した。

そこには、俺の確定された死の事実が、あらかじめ刻まれていた。


『対象:タチバナ・ケンジ』


『第一死亡年月:新暦109年、秋/死因:狂犬病、及びエボラ出血熱への同時感染』


『第二死亡年月:新暦138年、冬/死因:養子からの魔導拳銃の発砲による頭部破壊』


『第三死亡年月:新暦108年、春/死因:サメ獣人からの被食』


「……なんだ、これは……?」


指が激しく震えた。

第一、第二、第三……?

年号が矛盾している。

新暦109年に病死する俺が、なぜ138年に養子に撃たれて死に、さらには108年の春に戻ってサメに喰われて死ぬというのか?

そして、その膨大なループと下界の全コンテンツを統べている絶対的な黒幕の名が、冷酷な文字で刻まれていた。


『統括管理責任:ヴェリタス家・現当主』


ヴェリタス家。


この天空都市を創り出し、下界の生命をあらかじめ定められた玩具として永遠にループさせている、真の絶対者。俺たちがどれほどあがこうとも、その頭上には常に「ヴェリタス家」という巨大な影が君臨し続けているのだ。

確定された死期。破滅と再生産の無限ループ。そして絶対に届かない黒幕の存在。

俺の口から、乾いた笑いが漏れた。声が震え、涙と笑いが同時に溢れ出す。

俺の壊れたような叫びが、神殿に響き渡る。

自分たちの命も、愛も、魂すらも、すべてはただのデータ。どれほど真剣に生きていようと、俺たちはあらかじめ決められた結末に向かって、レールの上を滑り落ちているだけなのだ。

アリアは、無言で画面を見つめていた。彼女の瞳にも、絶望の濃い影が落ちていた。

だが、アリアはゆっくりと息を吐き出すと、コンソールの上にそっと手を置いた。

そして、表示されていた死亡データと「ヴェリタス家」の文字を、画面ごと一瞬で消去した。


「ケンジ」


彼女の声は、驚くほど静かだった。


「帰ろう」


「帰る……?どこへだよ!」


俺は声を荒げた。


「下に帰ったって、俺たちは決められたシナリオ通りに死ぬんだぞ!?ヴェリタスの掌の上で、永遠に踊らされるんだぞ!もう、どこにも帰る場所なんてないんだよ!」


アリアは俺に近づき、その細い腕で、強く俺を抱きしめた。


「なら、サメには近づかないようにしなきゃね」


アリアが、ぽつりと呟いた。

俺は耳を疑った。


「……は?」


「それに、養子をもらうときは、拳銃の扱いを教えないことにするわ。あと、病気にならないように、ケンジが毎日研究して、特効薬を作って予防するのよ」


アリアは俺の胸に顔を埋めたまま、くすくすと小さく笑った。その笑い声は、この完璧に狂いきった世界に対する、最大の皮肉だった。


「決められているというなら、笑ってやりましょう。あらかじめ用意された結末なんて、全部、途中でぶち壊してやるわ」


アリアは顔を上げ、俺の目をまっすぐに見つめた。その瞳には、絶望の底から汲み上げた、決して消えることのない苛烈な炎が宿っていた。


「ヴェリタス家だか何だ知らないけれど……私たちの、他人の人生を娯楽にするなら、最高に後味の悪い、シナリオ通りの結果にならない駄作にしてやりましょうよ。台本にない行動ばかりして、観客全員の胃を痛くさせてやるの」


「アリア……」


「下へ降りて、診療所を開きましょ。私の道場も作るの。月謝は高く取るわよ、何しろ世界一強い師範なんだから。ケンジは世界一優しい医者になって、死期なんて吹き飛ばしちゃいなさい」


希望など、どこを探しても、残っていなかった。

だからこそ、その絶望を燃料にして、ただ、前に進むしかないのだ。


「……そうだな」


俺は笑った。

涙を拭い、アリアの手を強く握り返した。

俺たちは、アーク・ノヴァに背を向けた。

雲海を突き抜け、下界へと降下する船の中で、俺たちは下に見える黒々とした泥と土の大地を見つめていた。

そこには理不尽な死があり、争いがあり、苦痛が待っている。そして、いずれ訪れる確定された死期と、巻き戻る世界の運命が。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。