6 バラの庭園と約束
あぁ、もう。
レオン様のせいで会場中に注目されながら散策に出かける羽目になってしまったわ。
あれ絶対わざとよね。殿下が誘ったのを見て満足そうに微笑んでたし。
やっぱりうさんくさいわ、あの男。
初めは心の中でレオン様に悪態をつきながら、殿下と庭園を散策し始めたけど、
美しすぎる庭園を見ているうちにすさんだ心も丸くなってきた。
「本当に美しいですわ。
お父様から『この庭園に入れることを誇りに思いなさい』と言われましたけど、本当にそのとおりですわね。
この景色を見られただけでも、生涯忘れられない一日になりましたもの。」
「そう言ってもらえると嬉しいね。
実は王族であってもこの庭園に入ることは滅多にないんだ。
特に子どものうちは今日のような特別な日にしか立ち入ることが許されなくてね。
だから散策しようと言ったけど、さほど紹介できないかもしれない。」
「まぁ!そうだったのですね!」
二人でクスクス笑いながら、奥の方へ進んでいく。
和やかな雰囲気で散策しているうちに、
明らかにバラの種類が変わったことに気がついた。
「バラの種類も一つではないのですね。
先ほどのバラと花びらの形が違いますわ。」
「そうだね。私もどのバラが何という品種かまでは知らないけど、この庭園だけでも約100種類のバラが植えられているんだそうだ。」
「約100種類も!
私にはパッと見ただけでは違いがわかりませんけど、
きっとそれぞれお手入れ方法も違うでしょうからこの美しさを維持するのはさぞ大変でしょうね。
担当されている庭師は本当に優秀な方なんだわ。」
「私もそう思うよ。
彼ほど優秀な庭師はそういないと思っている。
爵位もない平民だけど彼はこの城にいなくてはならない人材だ。
私にはこんなに美しい庭園は造れない。
本当の意味で完璧で何でもできる人なんていないんだ。」
「えぇ…。そうですわね…。」
口調はいつもと変わらないけど、殿下が日々受けている重圧が伝わってきた。
完璧王子と呼ばれ、常に完璧とさらにその上を求められる。
私も完璧令嬢だと言われて重荷に感じることはあるけど、殿下の比ではないだろう。
殿下の気持ちを軽くしてあげたいけど、立場的に無責任な発言はできない。
ヒロインみたいに殿下のことだけを想って、肩の荷を下ろしてあげられたらいいのに…。
自分の無力さに打ちひしがれて下を向きながら歩いていると、急に殿下の足が止まった。
不思議に思って顔を上げると、そこは色とりどりのバラが咲き誇るトンネルの中だった。
隙間なくバラの蔦が絡まってできたアーチは外の景色が見えず、
お茶会会場からもだいぶ離れたため音もほとんど聞こえない。
あまりの美しさも相まって、この世で殿下と二人きりになったかのような錯覚に陥った。
私がトンネルを見上げて絶句していると、
殿下が朗らかな表情で言った。
「綺麗だろう?
ここはこの庭園の中でも最も有名で、最も重要な場所なんだ。」
…?重要?
これだけ美しいのだから最も有名、というのは理解できる。
でもいくら美しいとはいえ、庭園の中で重要な場所、というのはいまいちピンとこない表現だ。
私が不思議そうな顔をしているのを見て、
殿下は少し笑いながらこう言った。
「ここは歴代の王が王妃にプロポーズしてきた場所なんだ。」
…!!!
「アンジェリカ嬢。
私は皆が言うほど完璧ではない。
私には完璧に見える君も一緒なのかもしれない。
だけど、君以外に私と対等な関係でいられるご令嬢はいない。
だからこそ、お互いに支え合ってこの国の将来を共に担っていってくれないか。」
愛の告白ではない。
でも国を守るための伴侶は私しかいない、とハッキリわかるように伝えてくれた。
だからこそ、私もちゃんと本音で応えよう。
「…はい。こちらこそよろしくお願いいたします。
ですが、ひとつだけ約束していただいてもよろしいでしょうか?」
「約束?なんだい?」
「もし、私以外に殿下を支えてくれる人が現れたら、その時はちゃんと教えてくださいね?」
いつか真実の愛を知って、私を必要としなくなるその日まで…。




