5 王城のお茶会(4)
マーガレット様とも打ち解けてきて、4人でスイーツを頬張っていると、
ご令嬢のグループがこちらに向かってきた。
「まぁ。ごきげんよう、アンジェリカ様。
公爵令嬢ともあろう方がこんな会場の隅でひっそりとお食事されているなんて。
王太子殿下の婚約者候補筆頭、だなんて大変名誉な噂もあるのですから、
自信をもって堂々となさった方がよろしいのでは?」
…出た。イザベラ様だ。
イザベラ様のアルジェント公爵家とドレノワール公爵家は昔から仲が良くない。
アルジェント家は代々多くの宰相を輩出していて、文官とのかかわりが強い。
一方ドレノワール家は軍部のトップを任されることが多く、武官とのかかわりが強い。
そのような政治的構図もあって代々ライバル関係なのだ。
ちなみに今のは「公爵令嬢のくせに社交もできねぇのかよ。王太子の婚約者候補筆頭とかいうのも自分で言ってるだけなんじゃね?」という嫌味だろう。
「…あら。ごきげんよう、イザベラ様。
先ほどまでイザベラ様達のかわいらしいお声がこちらまで聞こえておりましたもの。
楽しいお時間を邪魔してはいけないと思っていたのですが、もうよろしいのですか?」
にっこり微笑みながら、遠回しに「お前らみたいに下品にはしゃいでないだけだ」と言い返してやった。
取り巻きのご令嬢たちが「まぁ!なんて失礼な!」と騒いでいるが、
それを無視してさらに追い打ちをかけた。
「あぁ、先ほどまでお話しされていたエドワード殿下のグループが、
皆さま揃ってお花摘みにいかれましたものね。
そんなにお飲み物を飲みすぎてしまったのかしら?」
先ほどまでイザベラ様達と話していたエドワード殿下のグループは、
イザベラ様達のおしゃべりに飽き飽きして、全員でトイレに行くと言って会場から逃げ出しまったのだ。
会場を出ようとするアーサーと目が合った際に、こっそりとそう教えてくれた。
さすがに逃げられたことを気にしていたのか、
顔を真っ赤にして「ふんっ!」と言いながら取り巻きを連れて去っていった。
その様子を見てマーガレット様がため息をつきながら言った。
「まったく、それこそ公爵家のご令嬢ともあろう方が何をしたかったのかしら。
そんなのだからエドワード殿下の婚約者候補筆頭なのに殿下に逃げられるんだわ。」
そう。イザベラ様は第二王子・エドワード殿下ルートの悪役令嬢なのだ。
金髪にドリルのような巻き髪。
自分より下の家柄の者を見下す高圧的な態度。
常に取り巻きを引き連れて闊歩するその様は、まさに悪役令嬢。
ゲームではエドワード殿下とヒロインが仲良くなっていくと、
わかりやすく嫉妬し、わかりやすくいじめ、わかりやすく断罪される。
いわゆる「三流悪役令嬢」だ。
本来、公爵令嬢として質の高い教育を受けているはずのイザベラ様が三流だなんてありえない。
実際に同じ学年のアーサーから聞く範囲では成績も優秀で、公爵家の名に恥じないご令嬢らしい。
…エドワード殿下さえ絡まなければ、という注釈が付くそうだけど。
そう聞いていたから今ならまだ助けられるかもしれない、と仲良くしようと思った時期もあったけれど、
当の本人がいつもあんな態度で絡んでくるからつい言い返しちゃうのよね。
これまたアーサー曰く、
「自分とエドワード殿下が、姉上とアルベルト殿下のような関係になれないから嫉妬してる」らしい。
なんじゃそりゃ。
そんな言うほどアルベルト殿下と仲良くないわよ。
そうこうしているうちにアルベルト殿下がこちらに戻ってきた。
飲み物はお持ちだったけど、きっとお食事される暇はなかっただろう。
片手でつまめる軽食を適当にチョイスしてアルベルト殿下にお渡ししながら声をかけた。
「挨拶回り、お疲れ様でした。
お疲れでしょうからこちらをお食べになって少しご休憩ください。」
「あぁ、ありがとう。
さすがに少し疲れたからお言葉に甘えて休憩させてもらうよ。」
そう言って私が座っていたベンチの横に腰かけ、軽食を食べ始めた。
もう一度話すチャンスを得ようと近づいてきた年上の女子グループがいたが、
さすがに食事中に声をかけることができず退散していった。
まだ12歳になったばかりなのに大変だわ…。
12歳の子どもがこんなにあちこちに気を配って行動しないといけないなんて前世では考えられないわね。
そんなことをぼんやり思っていると、
レオン様がいつものうさんくさい笑みを浮かべながら周りに聞こえるような声で話しだした。
「さすがアンジェリカ様ですね!
疲れたアルベルト殿下がこちらに来たのを見計らってサッと休憩をすすめて。
しかもお渡ししたお皿には、殿下の好物のたまごサンドを入れてあげて!
本当にアンジェリカ様は殿下のことをわかっていらっしゃる!」
えっ、そうなの??
アルベルト殿下ってたまごサンド好きだったのね。
さっき食べておいしかったから入れただけなんだけど…。
っていうかそんなこと大声で言わないでよ!
側近候補筆頭が盛大に一人の令嬢を褒め始めるから周りがざわつきはじめたじゃない!
そのタイミングで殿下が食べ終わり、席を立った。
「お待たせ、アンジェリカ嬢。
約束していた散策に行こうか。」
あぁ。もう逃げられないーー。




