4 王城のお茶会(3)
「これは、マーガレット嬢。
アンジェリカ嬢、レティシア嬢。こちらはシトリン伯爵家のマーガレット様です。僕らのひとつ下の学年なのでこれまであまり接点はなかったでしょうか。
マーガレット嬢。ご存知かもしれませんが、こちらはドレノワール公爵令嬢アンジェリカ様とトルコワーズ侯爵令嬢レティシア様です。」
「えぇ、以前からアンジェリカ様やレティシア様とお話してみたかったけど私から話しかけることはできなかったので。レオン様とお話している今がチャンスだと思って、思い切ってお声をかけさせていただきましたわ。」
「ごきげんよう、マーガレット様。
ぜひ一緒にお話しましょう。今日のドレス、とても素敵ですわね。」
「まぁ!ありがとうございます!
憧れのアンジェリカ様にそう言っていただけると自信を持てます!」
マーガレット・シトリン伯爵令嬢。
伯爵令息ルートの悪役令嬢で、少し気が強そうに見える翠眼の猫目とオレンジ色のくせ毛が特徴的だ。幼い今でもゲーム開始時の面影がある。
学園ですれ違うこともあったのでしょうけど、正面からしっかりお顔を見たことがなかったから、今まで気が付かなかったわ。
伯爵位以下の家から王太子殿下の婚約者候補が選ばれた例はほとんどない。未来の王妃の後ろ盾として家格がそれなりに重要になるからだ。
けれど、シトリン家なら話は別。
領内に国内随一の貿易拠点を有するシトリン家は、爵位こそ伯爵だけどその財力と影響力は下手な侯爵家を凌ぐ。
婚約者候補として今日のお茶会に呼ばれていても不思議ではないわ。
幅広い爵位の子息が選抜されやすい側近候補の中から攻略対象を絞り、そこから逆算して、攻略対象それぞれに対応する悪役令嬢を探そうと思っていたけれど、これは嬉しい誤算だったわ。
「本当に美しいドレスだわ。
この独特な光沢の生地はツヴェート王国北部の一部でしか生産されていないブレスクシルクではなくて?
こんな希少価値のある生地でドレスを作るなんて、さすがシトリン家ね。」
「…!さすがレティシア様です!
国内ではあまり流通していないようなのですが、以前このブレスクシルクで作られた小物入れを見て一目惚れしてしまって。お父様にお願いして生地を取り寄せてもらったのです。
たくさんの方にどこの生地かお問い合わせいただきましたが、見ただけで生地の産地を当てられたのはレティシア様だけです!」
…本当にさすがレティシア様。ご令嬢のドレスを生地の産地から褒めるとは。
流行を発信する貿易拠点のご令嬢にふさわしく、センス良く流行を取り入れ、新たに発信している。
同世代のファッションリーダーポジションを確立しているマーガレット様については、誰にも媚びない、明るく快活な性格で女生徒に人気があると噂で聞いたことがあった。
ゲームでは幼馴染で婚約者の伯爵令息を叱り飛ばすシーンがよくあった気がするけど、この時点では婚約していないから今日の招待を受けているのよね?
こんな序盤から私達のところに来て大丈夫なのかしら?
私と同じようなことを考えていたのか、
レオン様が心配そうにマーガレット様に尋ねた。
「そういえば、アルベルト殿下とはもうお話されましたか?
その…、ご令嬢同士のご交流も大切だと思うのですが、今日は殿下とできるだけ長くお話してくるように言われている方が多いようなので…。
こちらには先ほど挨拶に来られたばかりなので、しばらく来られないと思いますが…。」
「お気遣いありがとうございます。
でもご心配には及びませんわ。今日のお茶会に参加するために正式な婚約しておりませんが、実際にはあちらにいるオリバー・ベル様との婚約がほぼ決まっていますの。
お父様からも王太子殿下の婚約者になる必要もないから、普段話せないご令嬢との親睦を深めることに注力しなさいと言われましたし。」
少し離れたところにいる男子グループを示して、あっけらかんと言った。
…確かに今日のお茶会に参加者の中には、王太子殿下の婚約者や側近になれる可能性は低いから、せめて他の有力貴族の子女とのパイプを作りたいって人もいるでしょうね。
よく見るとそんな感じの動きをしている方がちらほらいるわ。
先ほどマーガレット様が示した方を見ると、おとなしそうな男子グループの中にうっすら見覚えのある顔があった。
きっと彼が攻略対象のオリバー・ベル伯爵令息だ。
ベル伯爵領といえば、シトリン領に隣接している農業が盛んな領地だ。
貿易と商業の中心地であるシトリン領のお隣ということもあり、財政面でも豊かな領地だったと記憶している。
…領地の知識は転生後に学んだことだから出てくるけど、オリバー様の情報は大して思い出せない。
気弱ではっきりしないからマーガレット様によく怒られてしまって、それをヒロインが癒してくれるっていう流れだったはず。
攻略対象だとわかった状態でもこの程度しか思い出せないのだから、オリバー様を見てマーガレット様を思い出すことはできなかったかもしれないわね。
今日マーガレット様が声をかけてくれて本当に良かった!
マーガレット様は、とても優しい目でオリバー様の方を見ながらこう続けた。
「オリバー様とは幼馴染で昔からよく知っているのですが、領民想いでとても努力家なんです。
いつも『領地をもっと豊かにしたいから』と言って農業の勉強をされていて…。
少しでもお役に立てるよう、オリバー様の苦手な社交は私が頑張ろうと思っているので今日は何が何でも参加したかったのです。」
…なんだか涙が出そう。
気が強そうに見えるマーガレット様がこんなに幼いころからオリバー様を陰で支えていただなんて…。
「ふふっ。マーガレット様はオリバー様が大好きなのですわね。」
「ちっ、違います!大好きとかじゃなくて尊敬しているだけで…!
素敵なところがいっぱいあるのに本人が謙虚すぎて皆さんには伝わらないから…。
とっ、とにかく違うんですっ!」
レティシア様のド直球な言葉に顔を真っ赤にしながら否定しているけど、全然違わないっていう。
こんな健気で可愛いマーガレット様をバッドエンドにさせるわけにはいかないわ。
「ふふふっ。わかりましたわ。
では私たちもマーガレット様の大好きなオリバー様のお役に立てるよう、今後も仲良くしてくださいね?」
「ですから、違うんですってばー!!!」




