3 王城のお茶会(2)
レティシア様と軽食をつまみながら話していると、
こちらに人が近づいてきた。
「やぁ、アンジェリカ嬢、レティシア嬢。
君たちのような美しい女性がこんな序盤から壁の花になっているなんてもったいないじゃないか。」
「あら、アルベルト殿下。本日はお招きいただきありがとうございます。あまりに美しいお庭だったので、まずはゆっくり眺めたくなったのですわ。」
「えぇ。それに美味しそうなお食事もありましたし。とても美味しくて夢中になってしまいましたわ。」
「ははっ!レティシア嬢は本当にぶれないな!
グルメなご令嬢も夢中になるほど喜んでもらえたと料理長に伝えておくよ。
アンジェリカ嬢、そんなに気に入ってくれたならあとで一緒に庭園を散策しないか?まだ全員に挨拶してないからその後になると思うけど。」
「あら、光栄ですわ。では後ほどまたお声掛けくださいませ。」
「あぁ、ではまた後ほど。」
2〜3言、言葉を交わしただけでアルベルト殿下は次のグループへ行ってしまった。
ご本人もおっしゃっていたけど、まずは全員に挨拶しないといけないのだろう。
私達のようにすでにある程度の交流のある人間よりも、普段そこまで交流のない他学年の子女に時間を割かないと、きっと不満が出るはずだ。
だから顔見知りの私達には最初の方に声はかけつつも早く切り上げて、次に向かったのね。
ふと前を見ると、一緒に来たはずのもう一人はまだこちらに残っていた。
「レオン様?あなたは行かなくてよろしいのですか?」
「えぇ。僕は挨拶周りをする必要はありませんので。むしろ今日ばかりは殿下と一緒にいすぎると『すでに側近気取りか』といらぬ反感を買ってしまいますしね。こちらで美味しい食事をご一緒させてください。」
レオン様はいつもの穏やかな笑みを浮かべながら答えた。
…この男、なんかうさんくさいのよね。
年下のご令嬢達からは「あんなお兄様が欲しい」と憧れの存在らしいけど、実際に喋ってみると穏やかな笑顔とは裏腹に何を考えてるのかさっぱりわからない。
アルベルト殿下と誰かが話しているときは、急に気配を消して従者のように横に佇むだけになる。
さっきだって、そのせいで存在を忘れかけていた。
一体何の目的でこちらに残ったのかしら?
少し警戒しているとレティシア様がレオン様に尋ねた。
「あら、レオン様は王城のお食事は食べ慣れているのではなくて?
よく王城へ来られるのでしょう?」
「いえいえ、僕がお食事をいただく時は侍女として働く母と一緒なのでこのような豪華な食事ではありませんよ。」
「お母様は今も王妃様の専属侍女として働いていらっしゃるんでしたわね。あなたもアルベルト殿下の側近に決まればお母様もさぞ鼻が高いでしょう。ブルージュ子爵家も安泰ですわ。」
嫌味と取れなくもない発言だが、これがレティシア様の通常運転。
恐らく何の含みもなく、ただ思ったことを言っただけだとレオン様もわかっているから苦笑いしている。
…本当に本が好きすぎて、貴族らしいコミュニケーションの取り方が苦手なのよね。
まだ12歳とは言え、初等部に所属していたらある程度は貴族らしい腹の読みあいが発生する。
親しい相手以外には本音で話さず、お世辞を言ったり遠回しに嫌味を言ったりするのが常なのだ。
来年からは中等部になり、社交も本格化するのでさらに激化するだろう。
レティシア様はそういった貴族らしい言い回しが苦手なのを自覚されているので、ボロが出ないよう、学園では最低限のコミュニケーションしか取らない。
そのため、レティシア様のことをおとなしいご令嬢だと思っている方が多い。
私と2人の時は生き生きと会話しているので、私と話す機会が多いアルベルト殿下やレオン様はレティシア様の本来の性格も理解してくれている。
そういう意味ではアルベルト殿下とレオン様も友達と言えなくもない気はするけど…。
レオン様が話の流れを変えるため、まるで今思い出したかのように、にこやかに話しかけてきた。
「あぁ、そういえばアンジェリカ嬢は後ほど殿下と庭園を散策されるんでしたね。
その間、レティシア嬢は僕と一緒に他のご令嬢方とお話ししてお待ちしましょうか。」
…そういうこと。
それを言うためにここに残ったってわけね。
あくまで殿下がお誘いしたのは私だけだと。
他のご令嬢とはグループでしかお話しされないけど、私だけは特別に二人きりの時間を作る。
そうやって婚約者に内定したことを周囲に見せつけるってことね。
私が庭園の話題を振らなくても、何らかの形で二人きりにさせるよう指示されていたのかもしれない…。
私が思惑を理解したことを悟ったのか、レオン様はさらににこやかになり、話を続けた。
「さすがアンジェリカ嬢、理解が早くてうれしいです。
散策中は邪魔が入らないよう、僕が他のご令嬢方のお相手をしておきますのでゆっくり楽しんできてください。
レティシア嬢も、今日ばかりはアンジェリカ嬢のお隣を殿下に譲ってあげてください。」
「仕方がありませんわね。私も微力ながら他のご令嬢を抑えられるようお手伝いいたしますわ。」
「ありがとうございます。」
邪魔が入らないように、とはっきり言われたことでレティシア様も思惑を理解し、快諾した。
ご自身は人に興味がなくて恋愛をする気なんて全くない。
けれど、私と殿下のことは「まるで対の人形のように完璧な二人」として、私がアルベルト殿下の婚約者になることを望んでいる。
だからこのレオン様からのお願いも悪い気はしていないのだろう。
しかし困ったわ。
これでは他の攻略対象を探す時間がないかもしれない。
アルベルト殿下があいさつ回りをしている間に、なんとか他のグループとも交流をしないといけない。
けれどあまりに動き回ると、アルベルト殿下が再び声をかけにくいからと、レオン様にセーブされてしまいそうですし…。
悩んでいると急に声をかけられた。
「突然失礼いたします。レオン様、私もお話に混ぜていただいてもよろしくて?」
……!
この子!!
伯爵令息ルートの悪役令嬢だわ!!




