2 王城のお茶会(1)
王城に到着し、今日のお茶会の会場となる庭園に着いた。
「きれい……。」
思わず声が出てしまうぐらい、美しい庭園だった。
王家の象徴でもあるバラの花が咲き誇り、木々は乱れることなく美しく剪定されている。
庭の中心には大理石でできた噴水があり、計算されたかのように光が当たって虹がかかっている。
あまりの美しさにおとぎ話の中に入りこんだかのような感覚に陥ったけど、
実際にゲームの世界なんだったわ。
それにしても美しい光景に絶句していたら、お父様から声がかかった。
「驚いただろう?クレール城の庭園は他国にもその名が轟くぐらい美しいことで有名なんだ。
ただし、遠目に見ることはできても立ち入るには王族の方々の許可が必要となる。
そんな庭園で開かれるお茶会に参加できることを誇りに思いなさい。
親の付き添いはここまでだから、あとは失礼のないよう楽しんできなさい。」
「「はい、お父様。」」
アーサーと一緒に返事をした。
なるほど、この庭園に立ち入る許可が出たことだけでも招待者へのご褒美になるのね。
もし側近や婚約者になれなかったとしても悲しむことはない、あの美しい庭園でお茶会をすることができたのだから、と。
お父様と別れ、庭園を進んでいくと、お茶会の会場となる大きな四阿が見えてきた。
すでに男女合わせて20人弱が集まっている。
どうやら立食形式のようで、各々仲のいい子同士が固まって話しているようだった。
そんな中、ひらひらとこちらに手を振っている令嬢がいた。
「ごきげんよう、レティシア様。もういらしていたのですね!」
「ごきげんよう、アンジェリカ様、アーサー様。先ほど着いたところですわ。」
レティシア・トルコワーズ侯爵令嬢。
私と同じ学年でお父様同士も初等部の頃から仲良しということもあり、幼いころからお互いの家を行き来することが多かった。学園でも一緒に行動していて、気心も知れた大親友だ。
「…ごきげんよう、レティシア嬢。
姉上、僕はあちらに友人がいたので行きますね。」
そっけなく挨拶をするや否や、アーサーは男子グループの輪の方へ行ってしまった。
「まったく、あの子は…。申し訳ございません、レティシア様。」
「構いませんわ。そもそも今日はアンジェリカ様とお話しできるのを楽しみに参りましたの。こんなにきれいなお庭でアンジェリカ様とお茶会できるなんて嬉しいわ!」
「もう、レティシア様ったら。今日は婚約者候補としてアルベルト殿下とお話しすることが目的なのですよ?一応ね。」
「ふふ、一応、ですわね?」
レティシア様と冗談を交えながら歓談していると、一瞬で会場の空気が変わった気配がした。
アルベルト王太子殿下とエドワード殿下、そしてその後ろに国王陛下と王妃様がいらっしゃったのだ。
全員がサッと臣下の礼をとり、お声を発せられるのを待った。
「楽にしなさい。本日は息子・アルベルトが初めて開く茶会に出席してくれたこと、礼を言う。本来であれば親のいない茶会に参加することのできない年齢の者も多いが、この王城での茶会だけは特別だ。余と妃はこれで退出するが、この国の将来を担う者同士、交流を楽しんでくれ。」
国王陛下はご挨拶されたらすぐに王妃様と一緒に会場を後にされた。
その背を見送った後、アルベルト殿下が口を開いた。
「今日は集まってくれてありがとう。初めての茶会で至らないこともあるかもしれないが、心行くまで楽しんでもらえると嬉しい。また、できるだけ多くの人と気軽に語り合いたいと思い、立食形式にさせてもらった。皆も自由に移動しながら多くの交流を楽しんでほしい。」
アルベルト殿下は挨拶が終わるとやっぱりというか仲のいいレオン様のいるグループの方へ向かっていった。
会場がまた賑やかさを取り戻したところで、私とレティシア様は軽食コーナーの方へ向かった。
せっかくだからおいしいご飯もいただいておかないとね。
会場の端の方にベンチがあったのでそこに二人で腰かけて軽食を食べ始めた。
「さすが王城のお茶会。軽食とはいえおいしいですわね。」
「えぇ、婚約者の座なんて微塵も興味がございませんけど、このご飯を毎日食べられると思うと少し気持ちが揺らぎますわ。」
「レティシア様ったら、だれにも聞こえていないとはいえ不敬ですわよ?」
「だって、食欲は生きる上で最も大切な欲の一つですのよ?興味がないものにも興味を持ってしまうほどの破壊力を持った欲なのです。先日読んだ本によると…」
レティシア様の本の話が始まった。
すごく為になる知識も多いんだけど、こうなると気が済むまでしゃべらせないと終わらない。
レティシア様は本が大好きで、本を読むたびに知識が増えていくのがたまらなく幸せなんだそう。
前世で言うオタク気質なのか、一つ気になることがあったらその関連した本を読み漁って深堀していってしまうから読んでも読んでもきりがないらしいわ。
そこまで本が好きになったのには理由があるらしい。
レティシア様のお母様は、彼女が3歳の頃に亡くなられた。その後、5歳の時に今のお義母様が嫁いでこられたそうだ。悪い方ではないらしいけれど、嫡男であるお兄様とご自身が産んだ妹さんに比べると、レティシア様はどうしても放っておかれがちだった。
そんなお義母様の目を避けるように、お父様の書斎に入り浸るようになったレティシア様は、そこで暇つぶしに本を読むようになった。
そして気づけば、それが生活の一部になるほどの趣味になっていたらしい。
それにしても、と思うレベルの本好きではあるけど、
レティシア様のお話は面白いし私は大好き。
なのにレティシア様も悪役令嬢なのよね…。
しかもアーサールートの。
アーサーはこの先も女性不信が治ることがなく、婚約の場から逃げ続けてしまう。
見かねたお父様が「そんなに嫌なら私が決める」と言って、
トルコワーズ侯爵様と相談してレティシア様との婚約を決めてしまうの。
お父様同士がお友達であることを抜きにしても双方メリットのある婚約ではあるから、
さすがにアーサーも公爵家の跡取りとしてこれ以上は逃げることができず婚約が成立。
アーサーは女性不信から、レティシア様は本以上に興味を持てないことからお互いに歩み寄ることがなく、
ゲームでは「愛のない政略結婚のための婚約者」として描かれている。
だからアーサールートでは婚約者が嫉妬してヒロインをいじめるっていう展開がない代わりに、
「研究で婚約者を負かさないといけない」っていう別のハードルを設けられるのよね。
ここが「ときプロ」の面白いところで、恋愛攻略とは別に悪役令嬢を退けてとある研究プロジェクトを成功させないとハッピーエンドにはならないようになっている。
他の悪役令嬢については断罪の証拠を見つけないと
邪魔されて研究が進まないんだけど、レティシア様には研究内容自体で勝たないといけないっていう設定。
ただ断罪される理由がない分、レティシア様は「『本の虫くせに高等部から入学した男爵令嬢に研究で負けた』という不名誉な噂が広まってしまい、噂を避けるように遠い領地の老侯爵の後妻として嫁がされる」っていう私と比べると比較的マイルドなバッドエンドではある。
でも浮気された挙句この扱いはひどすぎない?
私のかわいいアーサーがこんなひどい仕打ちをするなんてドン引きよ。
レティシア様のためにもアーサーのためにも、こんなバッドエンド回避しないと。




