表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ざまぁ!?逆ざまぁ!?公爵令嬢と王子のドタバタな茶番劇  作者: しぃ太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/5

第3話 ――ルクス視点――


 ――ルクス視点――



「ローザが、娼館落ちになるらしい。または、溺愛執着の上に快楽落ちさせられるらしい!」

「真っ昼間から物凄い単語を聞いた」


 乳兄弟で侍従のサイラスが、飲み物を噴き出しそうになった。

 こいつは幼少期から一緒に居るから、本当の兄弟みたいな関係だ。


「しかも、俺がローザをそんな目に遭わせるらしい」

「あー……溺愛王子の執着快楽落ち?やりそうで怖いよね」

「そっちじゃないんだ!娼館落ちにさせるんだと、この俺が!」


 呑気なサイラスの顔を見て、余計に腹が立ってきた。


「お前が?溺愛してるローザ嬢を?え、寝取られるのが好きな方向にシフトしちゃったの?流石にヤバいって」

「そんなわけあるか!そんな事、考えただけで発狂しそうだ。……いつものローザの妄想だ」


 ああ、あの可憐なローザに男共が群がる姿なんて想像するのも悍ましい。


「え、溺愛執着快楽落ち?やだ、ローザ嬢の妄想、激しい。え、ちょっと萌え……」

「想像するなよ。首を落とすぞ」


 サイラスは両手を上げ、降参のポーズを取った。

 流石にこちらの苛立ちは伝わったらしい。


「溺愛執着旦那を紹介しろと言われた……」


 俺は顔を両手で覆う。

 我ながら、なんて憐れなんだ。


「でも、アレでしょ?最近女の子達に流行ってる小説。悪役のご令嬢がまさにそんな目に遭うやつがあったな。現実と混同し過ぎだよね。まあ、女の子ってそういうの好きそうだけど」


「読んだのか?」

「いや、無理だって。あまりにも気障ったらしい男の台詞に、本を投げ出したくなるんだもん」


 そう言いながら、サイラスは露骨に顔をしかめた。

 そこまで酷いのか。逆に気になってきた。


「貸してくれ。俺がそんな本を買った時点で、色々な所に情報が回ってしまう……」


「いいけどさ。変な性癖に目覚めるなよ」

「想像させるな。……ローザは少し抜けているが、基本的に馬鹿じゃないんだ。その流行りの小説を読んでみよう」


 サイラスから借りた本を三冊ほど読んだ。


 ――公爵令嬢の娼館落ちエンド。

 様々な男に次々と……。

 悲惨すぎて読むだけで死にたくなった。


 ――修道院エンド。

 彼女の懺悔に泣きたくなった。

 浮気をした王子が全て悪いだろう!


 ――溺愛執着からの快楽落ちエンド。

 快楽落ち!?嫌がる彼女が段々と……!

 くそ!耐えられない!死んでしまう!


 とうとう見ていられなくなり、大きな音を立てて本を閉じた。


「悪意を感じる。明らかにモデルがローザだ。そして、公爵令嬢のその後が……!多種多様な……駄目だ、想像すると死にそうだ……」


「女の子向けって体裁だけど、やたらと具体的に公爵令嬢がエッチな目に遭うんだよね~。そこがまた……ひっ!」

「貴様、読んだな」


 サイラスが、肩を跳ねさせて黙り込む。


「いや、だってさ。ルクスがそんなになるなんてつい興味が。というか、流行っているから読んでる男は多いと思うぞ」


「殺す。あれを書いたやつは殺す。読んだ男も想像したやつも殺す。ヒロインとやらも殺す」

「本性出てるって。怖いって」


 じりじりと後ずさるサイラスを、なぜかそのまま壁際まで追い詰めてしまう。


 ……男だからか?

 そうだ、こいつも男だった。

 いや、待て。落ち着かなければ。

 くそっ!苛立ちすぎて思考がまとまらない!


「ローザが言っていたんだ。ヒロインは低位貴族か平民で、特待生で、転入生だと」

「まぁ、具体的で有り難いね。今度の平民の子なんか当てはまっちゃうなぁ」


 この時期に、編入生。

 あまり例がないことだった。


「本当に来るのか?なあ!現実なんだから、高位貴族の奴らが何人も落とされるって事態はないよな!?」

「そりゃあ、自分の立場を守らなきゃいけない奴らが、平民ちゃんに入れあげる理由も無いしなぁ」



 ――数日後。



「あり得るんだねぇ。かわいい平民の子だから、愛人にしようって近づいてるのかな」

「俺は浮気王子とローザから呼ばれている」

「うわ~……」


 なるほど。かける言葉もないらしい。


「奴らのせいだ。この先、俺まであの状態に陥るとローザが思っている。というか世間が俺をそういう目で見てくる」

「うわ、思った以上に深刻な事態」


 サイラスが口元に手を当てて、大袈裟な素振りを見せるが、怒る気力も湧かない。


「俺を陥れるのが目的なのか?それとも国か?王族か?いまいち狙いが読めない」


 サイラスが少しだけ声を潜め、真顔で告げた。


「そういえばさ、あの平民ちゃん。調べたら実は……」

「隣国の王女なんだろ。側妃の子で、身分を隠して入学してきた」

「あ、やっぱり調べはついてたのか」

「ただの平民なら、隠れて処せたものを。面倒だ」


 ――そんな事情がある以上、近寄ってこられても無下には出来ない。

 この前は、ローザの前で馴れ馴れしくベタベタと!


「こうなると、あの小説は怪しいね」


 隣国の王女相手に嫉妬で危害を加えれば、確かに本の通りになる可能性がある。


 あまりにもタイミングが良すぎる。

 隣国の事情を事前に掴んでいたのか、それとも彼女がこちらへ来るよう仕向けたのか。


 どちらにしろ、碌でもない。


「大方、王子が平民と恋に落ち“実はその相手は隣国の姫君でした”という筋書きだろう。もしくは、うちの国の高位貴族へ嫁がせるか」


 サイラスも納得したように頷いている。

 随分と高尚なハニートラップを仕掛けてくれるものだ。


「うーん、回りくどいけど、学生相手だからこそ出来る手段だね。上手くいったら御の字程度かな?」


 隣国では名ばかりの王女だ。

 正式に婚姻を打診されたところで、こちらが相手にするはずもない。


「あの小説を書かせた奴も身元が割れている。俺の側近だ」

「えっ!?俺じゃないよ!?」

「知っている。あの自称平民に親切にしているセイン、あいつだ」 


 宰相の子息――セインの名前を出す。


「あぁ。ローザ嬢に歪んだ愛を抱いて……。そういや、この間食事に誘ってたもんな」


「黙れ。聞きたくもない」

「あ、今日の放課後にも街中デートをするって言ってたような」

「何!?そんな事は許さない!用事を言いつけて阻止するぞ」


 勢いよく立ち上がった拍子に、大きな音を立て椅子が倒れた。


「俺、思ったんだけどさぁ。要はセインの奴はただ、ローゼリア嬢に惚れてるんじゃない?」


 指を一つずつ折りながら、サイラスが話し出す。


「娼館落ちは、そのまま奴の欲望。修道院行きは、純粋な彼女への憧れ。で、本命は、溺愛執着旦那になって彼女を快楽落ちさせること?」


 その言葉を聞き、手が自然と胸元へ向かった。

 懐に隠し持った護身用の短剣に触れる。


「……斬りたい。気が晴れるまで斬り刻みたい」

「それ、俺のことじゃないよね?ね?怖いってばーー!」


 大袈裟に距離を取る。

 ちっ!本当に斬るわけがないだろう。

 多少、ストレス発散をしたかっただけだ。

 勘のいいやつめ。


「でも大昔じゃないんだから、小説を書いたからって不敬罪に問うのは不可能だからな?」


「ふん。裏から手を回すくらいは出来る。最初から隣国の王女だと知って近付いているしな。まずはそこから尻尾を掴んでやる」


 ゆっくりと拳を握り込む。

 脳内で、何かがぐしゃりと音を立てて潰れた。

 あくまでイメージである。


「……あぁ、なんで気づいたんだろうな」


 サイラスが、わざとらしく首を傾げる。

 大方、こいつだって見当はついているだろうに……。

 外交官の叔父の筋が一番濃い。

 まあ、そこは本人に聞けば済む話だ。

 しかし、散々ローザを妄想で快楽落ちにしてくれた奴だ。

 許さない。


「とりあえず、ご希望通り快楽落ちエンドにしてやろう。自分が落ちる方だが」

「ひえぇぇぇ」


 ――「え、それって男?女?いや、やっぱり聞きたくない!」と喚きながら、サイラスが腕を擦る。


 それを無視して、俺はローザの姿を探しに歩き出した。




 ――見つけた!まだ間に合う!


「ローザ!待ってくれ!」


 ようやく見つけた彼女は、セインにエスコートされ、今まさに馬車に乗り込もうとしていた。

 間一髪だった。


「ルクス様?」


 ローザが驚いた顔をしている。

 だが、今は説明している場合ではない。

 声音を落とし、セインに問いかける。


「ローゼリアは俺の婚約者だが?男と二人きりで出掛けるなど許すはずがないだろう?」


 庇うように二人の間に入り込むと、セインは一歩下がった。


「申し訳ありませんでした。護衛も居ますし、悲しんでいる彼女の為になるなら、と。決して疚しい気持ちではありません」


「俺の前でペラペラとよく回る口だな。あぁ、筆もよく動くようだな?後でしっかりと事情を聞くとしよう」


 ――流石に顔色を変えたか。


 後ろに控えていた護衛にセインを連れて行かせ、ローザへ向き直る。

 未だに事態が把握できていないのだろう。

 彼女は目を丸くして、落ち着かない様子だった。


 仕方がない……仕方がないが。


「お前、浮気者だな。俺を捨ててセインに乗り換える気だったのか」


「なっ!そういうのじゃありませんわ。ただ、最近辛いことばかりでしたから、セイン様が気遣ってくださっただけです!さっきのは一体どういう事ですの」


 温室育ちで、男の欲望にも悪意にも鈍い彼女。

 セインの思惑まで説明したところで、きっと理解しきれないだろう。


 ただ、早く彼女の誤解を解きたい。

 彼女は、予定通りに俺の妻になるのだと教えたい。

 そして。


 綺麗な赤髪が風にそよぐ。

 ああ、今回は本当に辛かった――。

 でも彼女が無事だ。それだけでいい。


 ◇◇◇



 いつもの庭園だ。やはり私は彼と過ごすこの時間が好きなんだわ。


「ローザ。あの小説は、国家転覆が目的だと判明した」

「え!まさか小説で?恋愛小説でしたよ?」


 ルクス様が深刻な声で告げた言葉に、思わずお茶をこぼすところだった。


「王子が馬鹿で盛大にやらかして幽閉されたり、継承権を剥奪された上に、あらぬ所へ婿に出されていただろう」

「はっ!そういえば」


 やらかした王子も、それはそれは悲惨な……でも一部の女性には大人気な目に遭ったりもしていた。


「それに、今回の騒動の中心にいる平民の生徒だが、隣国の王女だ。身分を隠している」


「なんて無謀な!国際問題になりかねません!」 


 思わず強い口調になってしまった。

 しかし本当にそうなのだ。

 何か問題が起きた時、責任を取らされるのは勘弁ですわ。


「まぁ、普通はそうだな。周りの迷惑を考えない阿呆だ。隣国に、今回の婚約破棄騒動の顛末とあわせて正式に抗議し、送り返す事になった」


 ――そうだったの。

 あの小説にそんな裏があったとは。

 騎士団長のご子息の彼や……。


 (はっ!最近求婚間近かと思ったセイン様はどうなるの!?)


「あの、平民もとい王女様に侍っていた方々は、婚約解消してしまいましたが……元には戻りませんわよね?」


「さぁ?それは当事者同士で決める事だろう。……それで、本当にお前が気になっている相手は誰なんだ?どうなったか教えてやるよ」


 いつもより優しい声音に聞こえる。

 彼にも、今回の騒動は思うところがあったのかしら?


「あぁ、その……最近交流があった宰相のご子息のセイン様がどうなったのか少し……」


 セイン様の名前を出した時に、ルクス様の眉がピクリと動いた。

 あわわわわ……!

 浮気じゃないですわ。まだ、未然です……!


「あぁ、あいつは真実の愛に目覚めたらしく、二十歳上のマダムと結婚したよ」


「まぁ、年の差ですのね!きっとそれで悩んでいて、私を相手に口説く練習をなさっていたんだわ」


 ――危うく、好かれていると勘違いするところだったわ。恥ずかしい。


「で、お前と俺の約束があったろう」

「溺愛執着旦那様による快楽落ちエンドを手伝って下さるって約束?それは忘れてくださいませ……」


 自分の発言を思い出して、頭を抱えたくなる。

 男性に対して、なんて破廉恥なことを言ってしまったのでしょう!

 私の馬鹿ーー!


「俺自身でその全てを叶えてやるよ」

「……!ちょ、ちょっと!卑猥ですわ!それに淡白なルクス様には無理です!」


 誤解だわ。そんなこと望んでいないんです……!

 これ以上辱めないで下さいませ……。

 公爵令嬢の尊厳がゼロよ!


「試してみればいい。まずは溺愛からか……」


 彼は身を乗り出し、私に口付けをした。


「な!なななな……」

「実はな、俺はずっとこうしたかったんだ」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ