第2話
「うーーん……。なかなか決め手に欠けますわ……。皆さん、とてもいい方ですけれど――」
何度か一緒に食事をした男性もいるが、何故か、ぴんと来ない。
それもこれも全部、浮気王子のせいだわ。
きっと目が肥えすぎたのよ……。
新たな絆を結んだご令嬢達と、日々良い出会いを求めていたある日。
「ローザ。お前、何故他の男を見繕っているんだ。不貞は許さないからな」
ルクス様から呼び出されてしまった。
「お父様もお許しになってますし。今では、浮気性の男性を見限るのは常識ですの」
「浮気なんてしていない!」
ルクス様は声を張り上げて否定した。
彼の顔を見るのも久し振りだった。
「私が何も知らないとでも?ルクス様が平民の女生徒と二人きりでお話ししているのも見かけました」
「あれは、浮気とかそういうものじゃない。俺が直接確認したいことがあって……」
はいはい、言い訳言い訳。
普段は、あらぬ疑いを招くからと女性と二人きりにならないでしょう、あなた。
「賭けもしましたよね?私の言った通り、高位貴族の令息たちが陥落しましたわ。貴方はそんな事が起きるはずがないと否定しましたが……」
「それは確かに言ったが、俺自身は関係ないだろう?」
……でも。
「信じられないのです。ここまで想像通りに進んでしまっているんですもの。まぁ、小説が流行っているおかげで、私も彼らの婚約者も次を探せているんですが」
遠くから、可憐な高い声が聞こえてくる。
「ルクス様〜〜!探したんですよ?今日は生徒会で会議のある日じゃないですか。資料も頑張って用意したんです。褒めてくださいっ」
可愛らしく甘える彼女。
名前?名前……アリーでしたっけ。
――ほら。普段から親しげにでもしてなければ出てこない会話だわ。
というか、王子にこの態度って凄いのね。
「あら、ルクス様!お話はここで終わりにしましょう。では、ご機嫌よう」
二人を見て、ニコリと笑う。
「あ、賭けに負けたんですから、前に言ったことは守ってくださいね?……神もその他大勢も勘弁ですからね……!溺愛相手でお願いします」
あまり聞かれたら困る単語は、小声で伝えた。
「ローザ、待て!話はまだ終わっていない!」
――クソ野郎〜〜!!
ヒロインが乱入して来た時点で、ここは場面転換で終わりだわ。
引き留めないでくださる!?
物語なら、ヒロインが躓いてぶつかってきたり、私が嫌味を言ったことにされる場面じゃない。
「では、私は失礼しますわ」
全速力で逃げる。とにかく冤罪、これは怖い!
早めに『海外へ脱出、そこで新たな出会いが?』ルートを進めたほうがいいかもしれない。
さっきの親しげな二人なら、物語ではもう、お互いを意識して恋を自覚する頃なのよ。
知らないけれど、多分。
私が主人公の逆ざまぁパターンでも、ルクス様はヒロインと通じちゃうんでしょう。
私に言い負かされるルクス様が想像できないけれど。
権力に物を言わせて裏取りしようかしら。
いわゆる逆ざまぁである!
「浮気の現場に突入して証拠を叩きつけてやるんだわ。泣かされるだけの私じゃないもの」
王家の護衛や侍従を買収したら、情報が手に入らないかしら。
いや、王族の情報を流したとなれば、罪に問われるかもしれないわ。
――やっぱりお父様ね。頼るべきは公爵閣下よ。
伊達に権力者をやっていないはずだわ。
情報網があるのよ、きっと。
そのお父様から、新たに紹介された相手が数人いる。
高位貴族ばかりで、まぁ、お父様なりに考えがあるのかもしれない。
ちらりと後ろを振り返ると、身振り手振りを交えて話す平民ヒロインと、それに相槌を打つルクス様が見えた。
これはもう、婚約破棄からの……になるしかないのね。
先に助けてくれる相手を見つけておかなくては。
――ルクス様の馬鹿。嫌い。
思い出すのは、いつものお茶会。
無愛想なのに、瞳は優しくて、私にもちゃんと向き合って話してくれていた。
(……好きだったのに)
私を娼館送りにするとは!許すまじ!
「あ、そういえば今日はルクス様の側近の……そう、セイン様。あの方からお食事に誘われているんだったわ」
最近よく私を気にかけてくれるセイン様。
確か、海外にも伝手が多いのでしたっけ?
セイン様の叔父は外交官で、父親が現宰相。
なんて心強い。
まずは、ヒロイン(仮)がいる学園から逃げるために、他国の事情や留学について相談したほうがいいかもしれないわ。
今日、セイン様との食事の席で相談してみましょう。
そう決心して歩き出したものの、やはり足が重かった……。
「そうなんですね。ローゼリア嬢は、外国にご興味があると?」
海外留学に興味があること、それから学園やルクス様とは少し距離を置きたいことを相談した。
「外国へ行くか、今の環境を変えれば、こんなに嫌な気持ちにならずに済むと思うんです」
彼はルクス様の側近なので、困ってしまうだろうが……。
「ローゼリア嬢。お気持ちはよく分かります。最近の学園の有り様は酷い。少し、気分転換に出かけませんか?」
「気分転換ですか?」
これは、デートに誘われたということかしら。
何だか、彼の話術にころころと転がされている気がする。
「はい。実は、我が家が所有している避暑地がありまして。港もありますし、海外の雰囲気も味わえますよ」
「まあ!なんて素敵なの!」
「楽しい時間を過ごせることをお約束します」
私の好奇心まで刺激されてしまった。
これはまずいと、心のどこかで警鐘が鳴っている。
「でも……、お父様が許してくださるかしら」
「少し、お誘いするタイミングを間違えてしまいましたね。ただ、あなたが悲しい顔をしているのが耐えられないんです。では、まず休日に王都のご案内をしましょうか」
大袈裟な仕草が少し気にかかるけれど、印象としては好青年だわ。
このまま断ってしまうのは、申し訳ない気がしてくる。
「王都くらいなら大丈夫かしら?」
「では、ローゼリア様の憂いを少しでも晴らせるようなプランを練っておきますね」
(ふむむ。ずいぶんスマートな誘い方ね)
そうね。
これまで、男性とはルクス様としか交流がなかったのだ。
少しくらい、いいかもしれない。
護衛も連れていけばいいんだもの。
そうよ。『裏切られた女性同盟』の皆様だって、行動力が凄かったわ。
私も、溺愛執着してくれる旦那様を探さなければいけないのよ。
王子からも守ってくれるような方を!
「ええ、ぜひ。楽しみにしておきますわ」
私はセイン様に微笑み返し、次の約束をしたのだった。




