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政府との対面


 地下五十メートル。


 日本政府中央防衛統合指揮所――《セントラル》。


 監視室には重苦しい沈黙が流れていた。


 巨大スクリーンには、瓦礫の街を悠然と飛ぶ銀髪の少女が映し出されている。

 

 崩壊した東京。


 魔物が徘徊する死の大地。


 そんな場所を、まるで散歩でもするように歩くその姿は、あまりにも異質だった。


 自動ドアが静かに開く。

 黒いスーツ姿の男がゆっくりと監視室へ足を踏み入れた。


 その瞬間、室内にいた全員が立ち上がる。


「総理。」

 一斉に敬礼が行われる。


 男――神宮寺誠は軽く頷き、そのままスクリーンの前まで歩いていった。


 その後ろには、

 官房長官・高城恒一。

 防衛大臣・鬼塚剛。

 統合幕僚長・朝霧恒一。

 国家安全保障局長・九条修司。

 そしてダンジョン研究所所長・天城悠真が続いている。


 日本という国の中枢が、一つの部屋へ集まっていた。


「状況を。」

 

 神宮寺の短い一言に、主任分析官・白峰綾人が前へ出る。


「十五分前、東京第一防壁外周を警戒中だった無人偵察ドローンが未確認存在を発見しました。」

「対象は少女。」

「推定年齢十五歳から十七歳。」

「飛行能力を有しています。」

「国内外の覚醒者データベースとの照合結果は一致なし。」

「魔物図鑑にも一致しません。」


 神宮寺は無言のまま映像を見る。


 少女は瓦礫の上に腰掛け、小さな花を眺めていた。

 まるで世界が滅びかけていることなど気にも留めていない。


「……魔力測定は。」

 その問いに、白峰の表情が曇る。


「それが問題です。」

 彼はリモコンを操作する。

 スクリーンには先ほどの解析結果が表示された。


 赤く染まる画面。


 何度も繰り返される『解析不能』の文字。


 部屋の空気がさらに重くなる。


「《オーディン》が測定を拒否しました。」


「故障ではありません。」


「全システム正常。」


「対象だけが解析できません。」


 鬼塚が眉をひそめる。

「そんなことがあるのか。」


 天城が静かに口を開く。

「私も初めて見ました。」

「オーディンは魔力だけでなく生命エネルギーや精神波まで解析できます。」

「そのオーディンが、"分からない"と結論を出した。」

「つまり、人類が一度も観測したことのない存在ということです。」


 鬼塚は腕を組む。

「敵か味方かも分からん。」

「ならば撃つべきだ。」


 その言葉に、朝霧がすぐ反論する。

「反対です。」

「理由は。」

「未知だからです。」


 朝霧はスクリーンを見つめたまま続ける。


「もし彼女が敵なら、東京第一防壁の目前まで接近できた理由を説明できません。」


「我々が気付くより早く侵入できる存在です。」


「今さら攻撃しても意味はないでしょう。」


「……。」

 鬼塚も黙る。


 その通りだった。


 相手はすでに射程圏内にいる。

 もし敵意があるなら、攻撃はとっくに始まっているはずだった。


 今度は高城が口を開く。

「外交的な可能性はありませんか。」


「外交?」

 鬼塚が怪訝そうな顔をする。


「はい。」

 高城は少女の映像を指差した。


「彼女は我々を見つけても逃げない。」

「攻撃もしない。」


「むしろ……。」

 映像では霞が空を飛ぶドローンへ向かって微笑んでいる。


「こちらを観察しているように見えます。」

 九条も頷く。


「私も同意見です。」

「もし敵なら、防壁都市の情報をもっと集めるはず。」

「しかし彼女は街そのものを見て回っています。」

「目的が別にある可能性があります。」

 会議室は再び静かになった。


 全員が映像を見つめる。


 その時だった。

 天城が小さく呟く。

「……美しい。」


「?」

 神宮寺が視線を向ける。


「総理。」

 天城は興奮を抑えきれない様子で続けた。


「彼女から放たれているエネルギー……。」

「魔力ではありません。」

「もっと純粋で、もっと高位の力です。」


「例えるなら。」

 彼は少し考え、

「神話に登場する神々が持つ神気……。」

 と言った。


 部屋の空気が凍りつく。


 鬼塚が苦笑する。

「研究者が神とは。」


「笑われても構いません。」

 天城は真剣な目でスクリーンを見る。


「ですが私は、あれを科学では説明できません。」

「そして。」

「もし私の予想が正しければ。」

 彼は静かに息を吸う。

「人類は今日、初めて"神"と遭遇したことになります。」


 誰一人として笑う者はいなかった。


 それほどまでに、少女の存在は異常だった。


 その瞬間。

 監視室の警報が再び鳴り響く。

「対象が停止しました!」


 スクリーンの中で、少女がゆっくりとこちらを振り返る。


 黄金色の瞳が真っ直ぐカメラを見つめる。


 そして――。

 にっこりと微笑んだ。


「……まずい。」

 白峰が呟く。


「こちらを認識しています。」


 次の瞬間、スクリーン全体が大きく乱れた。

 映像がノイズに包まれる。


 しかし数秒後。

 画面いっぱいに少女の顔が映し出された。

 その笑顔は、まるで画面越しではなく、この部屋にいる全員へ直接向けられているようだった。

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