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政府との出会い


 一機の無人偵察ドローンが、ゆっくりと東京第一防壁の上空を旋回していた。


 機体番号《A-127》。


 ダンジョンブレイク以前は災害監視用として運用されていた機体だったが、今では魔物の索敵や周辺地域の監視 を担う重要な戦力となっている。


 AIによる自律飛行と最新の魔力観測装置を搭載し、人間が立ち入れない危険地帯を昼夜問わず飛び続けていた。


 高度五百メートル。


 今日も異常はない。


 そう判断されるはずだった。


 『未確認反応を検知』


 無機質な電子音が機内に響く。


 ドローンのカメラが自動的に旋回し、一つの方向へ焦点を合わせる。


 瓦礫の街並みを背景に、一人の少女が空を飛んでいた。


 飛行魔法ではない。

 翼もない。

 ジェット噴射も確認できない。


 ただ、空気に溶け込むように静かに浮かんでいる。

 

『対象を自動追尾します』


 AIが判断を下す。


 ズーム倍率が上がる。


 銀色の長い髪。


 純白の衣装。


 黄金色の瞳。


 年齢は十五歳ほど。


 武器らしきものは持っていない。


 それでも解析AIは、危険度判定を繰り返していた。


『解析中……』


『データベース照合』


『一致する対象なし』


『国内覚醒者データベース……該当者なし』


『国際覚醒者データベース……該当者なし』


『魔物図鑑……一致なし』


『危険度評価不能』


 その瞬間だった。


 少女がゆっくりと顔を上げた。


 まるでドローンの存在に気付いたかのように。

 黄金色の瞳が、真っ直ぐレンズを見つめる。


 次の瞬間、AIが警告音を鳴らした。


『視線を検知』


『対象が観測装置を認識』


『警告。警告。対象が監視中であることを認識しています』


 本来ならあり得ない。


 高度五百メートル。

 肉眼で確認することすら困難な距離だ。


 それにもかかわらず、少女は穏やかな笑みを浮かべ、小さく手を振った。

『予測不能』

『予測不能』

『予測不能』

 AIが同じ言葉を繰り返す。

 そして、ドローンは自動的に最優先通信回線を開いた。


 ◇ ◇ ◇

 東京都千代田区。


 地下深くに建設された、日本政府中央防衛統合指揮所。


 通称セントラル


 地上では想像もつかないほど広大な地下施設には、数百人の職員が昼夜を問わず勤務していた。


 壁一面を埋め尽くす巨大なモニター。

 何百台もの端末。


 全国の防壁都市から送られる映像。

 衛星画像。

 魔力観測データ。

 各地のダンジョン情報。


 そして世界各国とのリアルタイム通信。


 ここは、人類最後の日本を支える頭脳だった。


「北海道第四ダンジョン、魔物活動レベル変化なし。」

「九州第二防壁、異常なし。」

「関西第三防壁、補給車両到着。」


 監視員たちは慣れた手つきで報告を続ける。


 ダンジョンブレイクから八年。


 毎日が戦場。

 それでも彼らは、この日常に慣れてしまっていた。


 しかし――。

 甲高い警報音が監視室全体へ鳴り響く。


 『Priority One』

 赤い警告灯が点灯する。


 一瞬で空気が変わった。


「第一級緊急警報!?」

「東京第一防壁監視ドローンより自動通信!」


 主任オペレーターが素早く席を立つ。


「映像を中央スクリーンへ!」


 巨大スクリーンへ映像が切り替わる。


 そこに映っていたのは、一人の少女だった。


 監視室の誰もが息をのむ。


「……子ども?」

 誰かが思わず呟く。


 だが、その言葉に返事をする者はいない。


 少女は笑っていた。


 崩壊した東京を背景に、まるで散歩でもしているかのように穏やかな表情を浮かべている。


「生存者……なのか?」

「違う。」


 主任分析官が即座に否定した。


「あの高度で飛行しています。」


「飛行能力を持つ覚醒者?」


「国内登録者には存在しません。」


「海外は?」


「照会中です。」


 分析官の指が高速でキーボードを叩く。


 世界各国が共有している覚醒者データベース。


 S級覚醒者。

 国家戦略級。

 危険指定個体。


 すべての情報と照合していく。


 しかし。

 『一致する対象は存在しません』


 画面に表示されたその文字を見て、監視室は静まり返った。


「……そんな馬鹿な。」


 人類が把握していない超高位覚醒者など、本来存在しないはずだった。


 もし存在するなら、それだけで世界情勢を左右する存在になっている。

 だが、少女はどこの国にも属していなかった。


 誰も、その存在を知らなかったのである。

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