第三話 ゴキブリ擬人化ARアプリ
カサカサカサカサッ
ブシュー
カサカサカサッ
すばしこく走り回る目標を殺虫剤のスプレー片手に追いかける。
ブシュー
ブシュー
くそっ冷蔵庫の下に逃げ込まれた!
ノズルを冷蔵庫の下の隙間に差し込んで殺虫剤を噴射する。
ブシューーーー
ガサガサガサガサッ…ガサ…
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殺ったか?
それとも逃げられたか?
あるいは逃走先で毒が回って死ぬか?
こういうのが一番厄介だ。
実は逃げ延びていて、油断した頃に再び現れるのが最悪だ。
かといって、死体確認のためにわざわざ冷蔵庫を動かすのも面倒だ。
当分は警戒体制を維持して、常に手の届く所に殺虫剤を置いておくようにしよう。
それにしても今年は多い。
例年ならヤツラと遭遇するのなんて夏場に1回か2回あるかどうかといった所なのだが、今年はまだ梅雨入りもしていない内からもう4回目だ。
先日廊下で踏み潰したものも含めれば5回か。
一時期、地球温暖化による酷暑によってヤツラの活動が鈍り、このまま絶滅するんじゃないかなんて説もあったが、連中はそれに耐性をつけて乗り切ったらしい。
流石は恐竜のいた時代から生き残っている連中だ。
今さら少しばかり環境が変化したくらいではどうという事もないらしい。
それはそれとして、先日インストールしたゴキブリ行動予測アプリがまったく使い物にならなかった。
ゴキブリの行動を予測して、次にどんなアクションをするか、進む方向はどちらかといった情報を視覚に投影するARアプリだったのだが、目標は常にアプリの予測と違うアクション、違う方向を選択し続けた。
役に立たない行動予測情報が邪魔なばかりで、あんなものなら無い方がマシだ。
このアプリはアンインストールし、電脳アプリストアを起動して別のアプリを探す。
"ゴキブリ"でキーワード検索すると、膨大な数のアプリが表示される。
その数、実に2854件。
この中の8割方は素人が趣味で組んだようなクソか、ウィルスやバックドアが仕込まれたマルウェアだ。
ストア側で安全性が確認された認証済みのアプリ(これとて絶対では無いが)のみに搾ってフィルターをかけると、件数は35件まで搾られた。
一番上に表示されているのは先程アンインストールしたばかりのものだ。
折角なのでレビューを投稿しておく。
「実際のゴキブリの行動予測には役に立たなかった。☆0個」
代替となるアプリを探してみるが、どうにもピンと来るものは無い。
以前にバックドアを仕込んでいた事が発覚して、複数の国で公的機関における採用を禁止されているメーカーの製品は論外。
知らぬ間に電脳ハッキングを受けて、外国の諜報工作活動の踏み台にされるなんて御免である。
動作要件が厳しすぎて私の電脳では動作保証外だったりするものは無念。
私程度のIT土方の収入では、常に電脳を最新最先端の状態に保つ事は不可能だ。
APIレベルが低いままアップデートされず、私の電脳OSでは動作しないアプリもある。
こればかりはアプリ自体に問題が無かったとしてもどうしようもない。
まあ、長期間開発が停滞して最新のAPIレベルに対応できていない時点で問題があるのだが。
使い物になりそうにないアプリが並ぶリストの最後尾にソレはあった。
アプリ名は『Project-G』
説明には「ARエンジンALTERNATIVE REALを使用した拡張現実アプリです。Gの姿をあなた好みのキャラクターに変換します。キャラクターは美少女、幼女、美魔女、男の娘、美少年、イケオジなど多彩なテンプレートの他、ユーザーによるカスタマイズも自由に可能です。人類とゴキブリが平和に共生する未来のために」とある。
気持ち悪い。
これを開発した人間は何を考えてこんなアプリを作ろうと思ったのか、まったく理解出来ない。
不快害虫を自分好みの姿に擬人化してどうしようというのか。
ダウンロード数はたったの3件。
それはそうだろう。
こんなものを自分の電脳に入れてゴキブリを愛でたいと思う人間など、そうそう居て堪るか。
しかし、思いのほか評価は高い。☆3.3。
ざっと計算してみる。
仮にこのアプリをインストールした3人の内、1人が☆0、2人が☆5と評価したとすれば、(5x2+0x1)/3=3.333...だ。
つまり、刺さる人には刺さるのか…?
ちょっと試しにダウンロードしてみようかとも思ったが、不快害虫を擬人化して愛でるとか、どう考えても異常だろうと考え直す。
私はそこまで変態ではない。
結局、ゴキブリ行動予測アプリの代替は良さそうなものが見つからずじまいだった。
続く




