卵焼きは放送部(パンク・ロック仕立て)
バンッ!ガシャ・・・
「うわっ!ごめん!」
カラカラ…と音を立てて転がっていくお箸とひっくり返ったお弁当箱。
それに、踏まれた眼鏡。
教室でお弁当を食べていた杉崎ミサキに、友人と遊んでいた橋本タケルがぶつかったようだ。
ミサキはこめかみを押さえて下を向いている。
「えっと、杉田、さん?大丈夫?ごめん、眼鏡踏んじゃったみたいで・・・ちゃんと弁償するから!」
「杉崎です。大丈夫です。あ、お弁当が・・・」
「わ〜!ごめん!こっちも弁償・・・は無理だけど、何かパンか何か買ってくるよ!」
「いえ、ほとんど食べ終わる所だったし、いいですよ。」
ミサキの友人が飛んでいった箸を拾いに行く。
タケルが逆さまになった弁当を持ち上げると、床には一切れの卵焼き。
「それもう落ちちゃったし、捨てるんでお弁当箱に入れてもらえれば。」
「あ、じゃあ俺貰っていい?」
「え?」
ミサキの返事を待たずに、ヒョイと拾って口に放り込む。
「うまっ?!え、めっちゃ美味い!」
「えっ?!汚いですよ!」
「いい、いい、三秒ルール!これめっちゃ美味・・・ってうわ!杉崎さん、目!目の横!血が!」
「え?」
大騒ぎするタケルに言われこめかみを押さえていた手を見ると、少しだが血がついている。
「あ、ホントだ。まぁ別にこのくらいなら・・・。」
「ちょ、保健室!悪い、あと片付けて先生に言っといて!」
一緒に遊んでいた友人に向かって言い放つと、ミサキの手を取り早足で教室を出た。
昼休みを自由に過ごす生徒の視線が二人に注がれる。
「は、橋本くん、このくらい別に保健室に行かなくても・・・。」
「ダメだって!女の子の顔なんだぞ?!大事にしなきゃ!」
ミサキの手をグイグイと引っ張る手は、その速さの割に握る力は優しい。
やがて見えてきた保健室に入ろうとすると、保健医がちょうど出て行こうとしていた。
「あら、どうしたの?」
「俺がぶつかっちゃって、眼鏡が当たったんです。女の子だし、顔だし、傷跡とか心配で。」
「ちょっと見せて?・・・そうね、傷は小さそうだし、消毒して絆創膏貼って日焼けしないようにしたら跡は残らないと思うわ。ごめんね、運動場で怪我した子がいるらしくて行かなきゃだから、あとやっといてくれる?」
「はい!」
元気良く返事をしたタケルに促され保健室に入ると、椅子に座らされた。
ガチャガチャと消毒液を探しているタケルに、ミサキが声をかける。
「何か大した事ないのにすいません。」
「いや、俺が悪いんだから杉崎さんが謝るのはおかしいって。」
「あ、そっか。じゃあ、ありがとうございます?」
「・・・あのさ。」
やっと見つけた消毒液を片手にタケルが保健医用の椅子に座り、ミサキと正面から向かい合った。
目の前にタケルの顔が来たミサキが息を止める。
さっきの唐揚げの臭いとかしないかな・・・と余計な事を気にしていると、予想していなかった質問をされた。
「多分そうだと思うんだけど、水曜日の昼休みに放送してるのって、杉崎さん?」
「へ?すいよ?あ、そうです、私です。放送部なんで。」
「やっぱり!声とかさっきのありがとうとか、一緒だと思ったんだよ!ね、あの選曲って、杉崎さんがしてんの?」
「そうですね。たまにリクエストが来たらかける事もありますけど、あんまりないんで・・・大体部員が好みの曲かけてます。」
ミサキの言葉を聞いたタケルはすぐ横の机に消毒液を置き、両手で顔を多い天井を見上げた。
「〜っ!杉崎さん、最っ高・・・。俺さ、昔のパンク・ロックばっかり聞いてて、水曜はオフスプとかハイスタとか流れるからこの曜日やべぇってずっと思ってたんだ!友達誰も聞かねえしさ。ああいうの好きなの?!」
「橋本くんも好きなんですか?ウチ、叔母がああいうの好きで影響されて・・・叔母はミュージックバーもしてるんですよ。」
前のめりになったタケルが両手でミサキの手を握った。
さっきより近い顔にミサキも思わずのけぞるが、背もたれが邪魔している。
心臓がバクバクと鳴り始めたのは、また息を止めたせいだろうか。
「マジで?!やべぇ!そんなのあんのっ?!高校生でも入れる?!」
「は、はい、開店する夕方から数時間なら、お酒飲まなければ行けますよ。・・・一緒に行きます?」
「行くっ!あ、ならさ、その日一日俺にちょうだい!」
おれにちょうだい?
その言い方にドキッとした。
今は息を止めてないのに。
「早めに集合してさ、眼鏡買いに行こう!何なら杉崎さん可愛いからコンタクトもアリかも!」
「あ、いえ、眼鏡でお願いします・・・。」
簡単に言われた可愛いに、冷静になれた。
すぐ手も繋ぐしきっと慣れてるんだ、と心の中で呟く。
「で、そのあと遊び行こう!CDショップとかハシゴしてさ〜。うわ〜楽しみ!お詫びにさ、ご飯と飲み物はオレ奢るよ!」
もう行くのは決定のようだ。
まぁ眼鏡は買ってもらわなきゃだし・・・と再度消毒液を手に取ったタケルに無言でこめかみを向けた。
同じ趣味の仲間は少ないからね・・・それが嬉しいんだろうし、私もそれは嬉しい。
きっと、男子と女子で出掛けるのだって、大した意味なんて無いんだろう。
別に意識する程の事じゃない、気にしてない。
そう自分に言い聞かせるミサキの顔に、ピンセットで摘まれた消毒液の綿が近付いてきた。
「いや〜好きな物が一緒だと嬉しいね!初デートの相手が杉崎さんで良かった!」
「へ?初デー・・・あ、いったぁ!」
昼休みが終わった静かな廊下に、ミサキの声が響き渡った。




